中日投手陣が甲子園の“苦手”を払拭できたワケ 前投手コーチが明かした裏話の数々

中日の1軍投手コーチを務めた阿波野秀幸氏【写真:荒川祐史】

昨オフに掲げていた配置転換プランの真相は…

11月13日、私がパーソナリティを務めるCBCラジオ「スポ音」に中日ドラゴンズ前1軍投手コーチ・阿波野秀幸氏がゲスト出演し、3年間、ともに戦った投手陣について語った。放送中だけでなく、放送後での秘話もここで紹介したい。

番組はリスナーからの質問に答える形式だった。いきなり「去年のオフ、配置転換を考えているピッチャーがいるとのことでしたが、誰でしたか」という質問。阿波野氏は真相を打ち明けた。

「小笠原(慎之介)のリリーフ起用です。チームのウィークポイントが左の中継ぎでした。去年の秋季練習が終わった時、小笠原のフォームが非常に良くなっていたんです。これなら再現性が高く、連日投げても大丈夫と確信しました。来年、1軍で1年間活躍するためにはどんな場面でも投げてほしいと、彼にも伝えていました」

結局、配置転換には至らず、左腕は先発でシーズンを完走。初の規定投球回にも達した。

「その構想に危機感を覚えたのかは分かりませんが、(大野)雄大と早めに沖縄に乗り込んで自主トレをしていましたし、キャンプから目の色が変わっていました」

開幕からローテーションを守っていた小笠原だったが、4月25日のヤクルト戦で4発を食らって敗れた。しかし、この日にあえて先発で使い続ける決意をしたという。

「どうしても結果による気持ちの浮き沈みが大きかったんです。それではどのみち苦しい。打たれたから、負けたから、リリーフや2軍降格ではなく、とにかく1年間全うさせようと。これからも色々な結果が出る。でも、それを受け止めて、翌日の練習に取り組もうと話しました」

中日・藤嶋健人【写真:荒川祐史】

来季の活躍が期待できる投手に即答「藤嶋です」

来季、活躍が期待できる投手を挙げてほしいという質問には即答だった。

「藤嶋(健人)です。まずはずっと1軍で過ごしたことが自信になっていると思います。性格は明るく、前向き。それに加えて根気があります。1年間、しっかりとこだわりを持って根気強く練習を続けました。着実に進歩しています」

課題と可能性にも触れた。

「球種が少ない。ストレート、スプリット、カーブ。そこに今はスライダーを投げていますが、もう1つ加わると、先発もあり得ると思います。年齢的にも若いですし、できる要素はあります」

ルーキーの森博人へも期待を寄せる。

「非凡なものを感じていて、いつ上に呼ぼうかと思っていました。左バッターに食い込むカット気味のボールが特徴。大学時代はその球とスピードで抑えてきたと思いますが、プロで10試合に投げて通用するボールとしないボールが分かったはずです。あとは駆け引きを覚えれば」

又吉克樹の活躍の陰には1つのアドバイスがあった。

「いつも同じ気持ちで淡々と投げてくれと。ドラゴンズに来る前から『ハマれば、良い投手』と聞いていました。それは技術ではなく、メンタル。体は本当に強く、50歳まで現役ができるんじゃないかと思うほどです」

「実はナゴヤ球場の室内練習場にあるブルペンを1か所だけ甲子園の高さに変えた」

中日投手陣は1試合平均の与四球数(故意四球を除く)が大きく改善した。コーチ就任前の2018年は3.64個、2019年は3.01個、2020年は2.71個、2021年は2.51個で防御率もリーグトップ。これにはキャンプ前日の号令が効いたという。

「毎年、ストライクゾーンで勝負してくれと伝えていました。良い所に投げろ、カウントを作れと言っても、狙いすぎて失敗します。バットを振られる覚悟を持って投げ込めと。あと、今年は長打を防ぐ狙いから、ボール2個低く投げようと呼びかけました。1個では1個にならない。2個でやっと1個低くなるんです」

改善と言えば、甲子園の防御率も去年の5.10から今年は2.82と良化した。放送後には、秘密の一端を明かした。

「実はナゴヤ球場の室内練習場にあるブルペンを1か所だけ甲子園の高さに変えたんです。かなり平らで、ひょっとしたら、本物よりもなだらかかもしれません。実際の甲子園で傾斜を感じてもらうためです。甲子園で先発する投手にはそのマウンドで変化球のチェックをさせました」

3年間で最も嬉しかった試合は「(木下)雄介の追悼試合です」

若手のことも気にかけていた。

「清水(達也)は肩を故障して、時間がかかりました。彼は典型的なフォークボーラー。どんどん振ってくるパ・リーグやDeNA打線に合います。自分の特性を早く理解してほしいし、先発かリリーフかの見極めも大切。山本(拓実)もそう。今年はオリックスの山本由伸を手本に色々と取り組みましたが、やはりタイプが違う。私はずっと谷元(圭介)とのキャッチボールを勧めていました。低いリリースポイントからホップするストレートに変化量の大きい曲がり球がある。彼もどこで生きるかですね」

梅津晃大の浮上の鍵は心だ。

「マウンドでネガティブな思考が大きくなるタイプです。その不安要素を払しょくしようと、毎日投げたがる。すると、フォームを崩したり、怪我をしたりと悪循環に陥る。技術は高いし、フォークもあります。来年、1軍のオープン戦でどれだけ結果を出せるかですね。そこで自信を持てば、一気に開花するでしょう。2軍で抑えても、不安は消えないものです」

最後に3年間で一番嬉しかった試合を聞いた。

「(木下)雄介の追悼試合です。(ジャリエル)ロドリゲスが先発して、田島(慎二)、祖父江(大輔)、又吉、ライデル(マルティネス)がゼロで帰って来ました。感動しました。試合前は『雄介が倒れたのは練習中。だから、きっと最後の意識は復活したい、投げたいだったはず。その思いを背負って、マウンドに上がろう』とだけ言いました。それ以上は何も。みんなの方が雄介との時間は長いし、それぞれ胸に期するものがありますから」

ユニホームを脱ぎ、来年は外からプロ野球を見守る阿波野氏。その目は優しく、温かく、鋭いに違いない。近い将来、ゲストとラジオパーソナリティという関係ではなく、解説と実況で共演したいものだ。(CBCアナウンサー 若狭敬一/ Keiichi Wakasa)
<プロフィール>
1975年9月1日岡山県倉敷市生まれ。1998年3月、名古屋
大学経済学部卒業。同年4月、中部日本放送株式会社(現・株式会
社CBCテレビ)にアナウンサーとして入社。
<現在の担当番組>
テレビ「サンデードラゴンズ」毎週日曜12時54分~
ラジオ「若狭敬一のスポ音」毎週土曜12時20分~
「ドラ魂キング」毎週金曜16時~

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