「エルグランド」に次期モデルはある!? Lクラス高級ミニバン市場を生みだしたパイオニアの次なる任務は中国市場の開拓か

つい10年前くらいまでは各社からあれだけたくさんラインナップされていたミニバンだが、近年はその数を急激に減らしている。1990年代から続く老舗ブランドの「トヨタ エスティマ」は2019年末にモデル消滅。「ホンダ オデッセイ」も2021年末に惜しまれつつ廃止となる見込みだ。そんな中で今も頑張っているのが「日産 エルグランド」だ。こちらも初代は1997年のデビューで、Lクラスの高級ミニバン市場を開拓した立役者だったが、近年は後発の「トヨタ アルファード」に完敗の状態にある。果たして次期モデルはあるのだろうか。日産関係者などの情報を探ってみた。

日産 エルグランド[2020年10月改良モデル]

トヨタも太刀打ちできず! 初代エルグランドの大ヒットは偉大なる功績だった!

1997年に登場し高級ミニバン市場を開拓した初代「日産 エルグランド」

日産 エルグランドは、同社の1BOX上級ワゴン車「キャラバン コーチ」と兄弟車「ホーミー コーチ」の市場を受け継ぎ、新たにミニバンスタイルとして1997年に誕生した高級モデルだ。

同時期にはファミリーミニバンの草分けである「バネットセレナ」(のちの「セレナ」)の兄貴分である3代目「ラルゴ」(1993年~1999年)もやはり高級モデルとして発展していたが、こちらの市場も併せて引き継ぐこととなった。

当時のミニバンや1BOX系ワゴンは商用車との兼用モデルも多かったが、エルグランドは初代モデルから一貫して乗用車専用とし、他のモデルと大きく差別化。V6エンジンを搭載し、当時のSUV「テラノ」と同等の四輪駆動システムも設定するなど、走行性能の高さも自慢だった。

トヨタ グランビア, トヨタ グランドハイエース
トヨタ グランビア, トヨタ グランドハイエース

従来にないスタイルが支持され、初代エルグランドは大ヒット。ライバルのトヨタ グランビア/グランドハイエース(欧州向けの商用バンをベースに乗用車化したモデルだった)も最後まで太刀打ちできないままだったのは、当時のトヨタ対日産の構図の中でもなかなか珍しい例であった。

トヨタがホンキの対抗車「アルファード」を投入! 2代目エルグランド以降は後追いを続けることに

2002年にフルモデルチェンジした2代目「日産 エルグランド」, 2代目エルグランド発表の翌日に衝撃のデビューを果たした対抗車、初代「トヨタ アルファード」
2002年にフルモデルチェンジした2代目「日産 エルグランド」, 2代目エルグランド発表の翌日に衝撃のデビューを果たした対抗車、初代「トヨタ アルファード」

こうした歴史的経緯もあり、トヨタは2002年、完全なる後追いの対抗車となる初代「アルファード」を投入するに至った。しかもトヨタは、同時期にフルモデルチェンジした2代目エルグランド(E51型)の発表翌日を狙い意識的にデビューさせたのだから、よほどの自信があったに違いない。

事実、トヨタの緻密なマーケティングが功を奏し、以降の高級ミニバン市場の勢力図は完全に逆転していったのはご存じの通りだ。

日産はせっかく初代エルグランドで大きな市場を開拓したにもかかわらず、結果としてごっそりとユーザーを持っていかれてしまったのは、実に残念な限りである。

現行型は2010年に登場、デビュー11年を迎えたベテランモデルもいずれ自然消滅となるのか

ハンドリングの良さで高評価を得た3代目エルグランド(写真は2010年登場時のモデル)

現行型の3代目エルグランド(E52型)は2010年に登場。初代、2代目と続いた後輪駆動(FR)ベースから前輪駆動(FF)ベースに移行し、SUV「ムラーノ」や上級セダン「ティアナ」などと共通のプラットフォームに進化した。低床化され、全高もダウンしたことで、走行性能をさらに向上させたのが自慢だった。

しかし同様の低床レイアウトの「エスティマ」を別に持つトヨタは、2008年登場の2代目、そして2015年登場の3代目共にあえて低床化せず、迫力のスタイルを発展させることで、むしろますますユーザーからの支持を高めていったのは皮肉なことだった。エルグランド風のヘッドライトデザインを持つ兄弟車「ヴェルファイア」まで用意する念の入れようは、あまりにもエグかった…。

中国仕様の「トヨタ アルファード」(3代目)

トヨタはさらに、アルファードを中国をはじめとするアジア市場にも投入。新たなスタイルの高級車としてそのマーケットを益々拡大中である。

新型エルグランドが動き出すのは2023年以降! デリカD:5との兄弟車が水面下で企画されている!?

3代目E52型の最新モデル「エルグランド AUECH(オーテック)」

日産は2010年に登場させたE52型エルグランドを、デビュー11年が経過した今もマイナーチェンジを重ねながら継続販売中。デザインや先進運転支援機能などは年を追うごとにアップデートされているものの、昨今需要が拡大している日産自慢のハイブリッドシステム“e-POWER”が追加されるようなこともなく、このままでは自然消滅していきそうな勢いだ。

もはや国内市場ではとうに勝負がついてしまった感のあるエルグランドだが、アルファードの例にあるように、中国市場を基盤にニューモデルを投入する余地は残されている。いまだ販売台数を拡大し続ける巨大な中国市場だが、日産も国産車ブランドの中ではかなり強いシェアの基盤を持っている。

日本市場専用モデルだったがゆえに、長くモデルチェンジできずにいた現行エルグランドも、中国に活路を見出せば次期モデルも期待出来る。

アライアンスを組む「三菱 デリカD:5」との兄弟関係でニューモデルを開発か

アライアンスを組む三菱では、Lクラスミニバン「デリカD:5」のフルモデルチェンジを検討しているとの情報がある。しかし三菱の国内市場規模だけでは採算性も厳しい。同社が得意とする東南アジア市場まで視野が広がっているはずだ。そして開発プランの陰には、間違いなく日産の兄弟車の存在が隠されている。

2021年11月時点では、両社の中期経営計画の中にLクラスミニバンの名はまだ記されていない。次の発表対象となる2023年以降にリスト入りしている可能性は大いに残されている。

次期エルグランドとデリカD:5は、e-POWERやPHEV、そしてEV化をも想定した電動化専用モデルとなることだろう。

初代アルファードとの対決から実に20年越しとなる日産のリベンジ。大いに期待したい!

[筆者:MOTA(モータ)編集部 トクダ トオル/撮影:島村 栄二・MOTA編集部・NISSAN・MITSUBISHI]

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