中嶋監督と高津監督は「対照的」 “仰木対野村”名将の系譜継ぐ采配を専門家が分析

オリックス・中嶋聡監督(左)とヤクルト・高津臣吾監督【写真:荒川祐史】

「中嶋監督は何をやってくるかわからない。高津監督は作戦は至ってオーソドックス」

20日に京セラドームで開幕する「SMBC日本シリーズ2021」。オリックスの中嶋聡監督とヤクルトの高津臣吾監督の知恵比べもシリーズの1つの楽しみだろう。両チームの日本シリーズでの対戦は1995年以来。当時は中嶋監督がオリックスの正捕手、高津監督はヤクルトの守護神だった。故・野村克也氏が率いたヤクルトが4勝1敗で故・仰木彬が監督のオリックスを下している。名将の系譜を受け継ぐ2人は大舞台でどんな采配を見せてくれるだろうか。

「両監督は対照的です。中嶋監督は何をやってくるかわからない。高津監督は、選手起用に長けていますが、作戦は至ってオーソドックスと言えます」。こう両監督を評するのは、現役時代にヤクルト、日本ハムなど4球団で21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏だ。

12日に行われた「パーソル クライマックスシリーズ パ」ファイナルステージ第3戦は中嶋監督の面目躍如だった。1点ビハインドで迎えた9回裏、引き分けでも日本シリーズ出場が決まる状況の中、無死一塁から安達が1球目をバントしてファウルにした後、2球目はヒッティングに切り替え左前打。無死一、二塁となり、続く小田はバントの構えからまさかの初球バスターで一塁線を破り、試合を終わらせた。

この強行策には野口氏も「僕も安達はともかく、小田は100%バントだと思いましたよ」と脱帽。それだけではなく、シーズン終盤の10月25日の楽天戦では2点リードで迎えた9回1死二、三塁から、安達が2ランスクイズ。野口氏は「あの場面は相手が前進守備を敷いたため、二塁走者の後藤は大きなリードを取れていた。そして安達が三塁線へ転がす。三塁手の鈴木大は捕球した際、背後で後藤が三塁ベースを蹴るのが見えなかった。理詰めの作戦でした」と感嘆する。

対照的に、野口氏にとって旧知の高津監督のタクトはオーソドックスだ。「2番の青木は進塁打を打てるのでバントをさせることはありませんが、たとえば無死一、二塁で中村という場面であれば、ほぼ間違いなく送りバント。堅実に得点圏へ走者を進めて勝負するタイプです」と解説する。その一方で、20歳の奥川を中9日以上の間隔で先発させ、無理をさせずに育て上げるなど、長期的な選手起用が巧み。シーズン終盤の優勝争いの最中、選手たちに「絶対大丈夫」という言葉を唱えさせて鼓舞するなど、操縦法に秀でている。

野口氏と高津監督は長年、野村克也氏の下でチームメートとして過ごした。「1年間に1度あるかどうかというプレーを、真剣に練習して磨き上げておくところに、野村ID野球の神髄がありました。普段はオーソドックスな高津監督ですが、日本シリーズ用にあっと驚かせる作戦を温めている気がします」とも野口氏は付け加えた。今年の日本シリーズは4年ぶりに予告先発なしで行われることが決定。早くも、両指揮官による駆け引きは始まっている。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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