「産牛の 新藁厚く しき替えし」 半世紀の酪農振り返り句集 相模原の94歳女性「私の人生、宝物」

句集「思いのままに」を手に笑顔の楢島喜代子さん=相模原市緑区

 相模原市緑区の愛好家でつくる「藤野俳句会」の楢島喜代子さん(94)が句集「思いのままに」を出版した。酪農家の楢島さんは半世紀にわたり、農作業や乳牛との営みを詠み続けてきた。人生で初となる句集を手に「俳句は日々の暮らしを潤し、楽しくしてくれる」と語る。

 楢島さんが俳句に出合ったのは子育て中のことだった。長男が通う学校で国語の教諭が講師となり「俳句教室」が開かれた。「言葉の不思議さ、奥深さの魅力に引き込まれた」と楢島さん。小さなノートとペンを持ち歩き、家事や農作業の合間に浮かんだ俳句を書き留めるようになった。

 句集には、日々の暮らしを詠んだ俳句が多く並ぶ。

 ≪産牛の新藁(わら)厚くしき替えし≫。乳牛の出産を前に新しいわらを敷いたとき、牛への思いを詠んだ句だ。≪連れ添うて米寿ことほぐ花衣≫。夫・正(あきら)さんと一緒に88歳を迎えたときには、喜びを句に込めた。

 句集はそんな母の姿を見続けてきた3人の子どもたちが発案し、今夏、100冊を自費出版した。「藤野俳句会」事務局の星和美さん(79)は「酪農家の楢島さんにしか詠めない俳句が収められている。藤野で1軒となった酪農家の暮らしを知る上でも大変貴重な句集」と話す。

 楢島さんは「家族や牛たちとの穏やかな暮らしの中には常に俳句があった。句集は私の人生であり、宝物」と笑顔を浮かべた。

© 株式会社神奈川新聞社