【日本S】「奥川は山本に投げ勝った」と専門家…燕逆転サヨナラ負けも若武者の投球に光明

ヤクルト・奥川恭伸とオリックス・山本由伸(左から)【写真:荒川祐史】

7回97球6安打1失点 相手に先制を許さず

■オリックス 4ー3 ヤクルト(日本シリーズ・20日・京セラドーム)

「SMBC 日本シリーズ2021」第1戦が20日、京セラドームで行われ、ヤクルトは3-4でオリックスに9回逆転サヨナラ負けを喫した。しかし、弱冠20歳の先発・奥川恭伸投手は7回6安打1失点の快投。日本を代表する右腕の山本由伸投手を向こうに回し、互角以上の投球を見せた。現役時代にヤクルト、日本ハムなど4球団で21年間捕手として活躍した野球評論家・野口寿浩氏がその内容を分析する。

山本を相手に一歩も引かず、再三ピンチを背負っても最後の一線は許さなかった。3回には1死二塁でクリーンアップを迎えたが、3番・吉田正を142キロのフォークで遊直、4番・杉本を2ストライクから150キロの高めの“釣り球”で空振り三振に仕留めた。5回2死一、二塁では、吉田正に中堅フェンス際まで飛ばされたが、中堅手・塩見のグラブに収まった。

5回を終えた時点で、奥川は4安打2奪三振2四球無失点、山本は3安打8奪三振無四球無失点。甲乙つけ難い投げ合いだったが、投球数は奥川が71球で、95球を要した山本より圧倒的に少なかった。

元々、今月10日のCSファイナルステージ第1戦でも、奥川は巨人、山本はロッテをそれぞれ完封したが、98球で“マダックス”(100球未満で完封)を達成した奥川に対し、山本は126球を要しており、スタイルの違いはある。

それでも野口氏は「僕は配球表をつけながら見ていたが、山本は圧倒的な球威で抑えていたものの、普段に比べると“逆球”が多かった。それに加え、ヤクルト打線がファウルで粘り、際どいボール球に手を出さず、球数を稼いで山本を追い詰めた」と指摘。

「対する奥川は、力みが感じられたのは1回、先頭の福田に中前打され、続く宗のカウントが3-1となったところまで。宗を一ゴロに仕留めた後は“通常運転”に戻った。普段通り、逃げに入るところは一切なく、ストライクゾーンで勝負していた。(5回の)吉田正の打球がバックスクリーンまで届かなかったのも、奥川に攻めの気持ちがあり、150キロのストレートでバットを押し込んでいたからです」と内容の優位を見て取っていた。

「高校時代に甲子園でいい経験をしてきたということ」

実際、先にマウンドを降りたのは山本だった。6回、2つの四球を与えた1死一、二塁から、中村に中前への先制適時打を献上し、この回限りで降板。6回で112球を要し、5安打9奪三振2四球1失点だった。一方の奥川は7回も続投。1死から代打モヤに同点ソロを浴びたが、7回97球、6安打1失点の内容を残した。

「モヤの1発は、カウント1-1からスライダーが外角高めに甘く入った。完全な投げ損ない。身長201センチでリーチのあるモヤにとっては、もっと打球を飛ばせるコースだった。捕手の中村が構えた通り内角に来ていれば、窮屈な打撃になりファウルを稼げていたはず。後続の福田、宗を打ち取ったところから見て、決してスタミナが切れたわけではない」と野口氏。「1点もやれないという重圧の中、相手に先制を許さず、1イニング長く投げた。この日に関しては“山本に投げ勝った”と言っていいと思います」と評した。

高卒2年目の20歳にして、初めての日本シリーズの大舞台で堂々たる投げっぷり。野口氏は「高校時代に甲子園でいい経験をしてきたということなのでしょうね」と感心しきりだ。星稜高(石川)時代に、2年生の春から4季連続で甲子園出場を果たし、3年生の夏には準優勝を成し遂げた実力と度胸。やはり半端ではなかった。

結局、試合はヤクルトの守護神マクガフが9回、2点リードを守れず逆転サヨナラ負け。願わくは今シリーズで奥川の投球をもう1度、できれば山本との投げ合いで見てみたいものだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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