横浜・旧大口病院点滴殺人 地検、弁護側ともに控訴 元看護師の無期懲役判決

事件のあった旧大口病院。横浜はじめ病院と改称したが、現在は休診している=横浜市神奈川区

 横浜市神奈川区の旧大口病院(現横浜はじめ病院)で2016年9月、入院患者の男女3人の点滴に消毒液を混入して中毒死させたなどとして、殺人と殺人予備の罪に問われた元看護師久保木愛弓被告(34)に無期懲役を言い渡した横浜地裁の裁判員裁判判決について、検察側、弁護側双方が22日、控訴した。ともに控訴の理由を明らかにしていない。

 横浜地裁は9日の判決で、争点だった被告の刑事責任能力の程度に関し、完全責任能力を認めた。その上で、犯行態様を「計画性が認められ、生命軽視の度合いは強く、悪質」と非難。患者家族への対応を避けたいという動機も「身勝手極まりない」とし、「刑事責任は誠に重大」と指摘した。

 一方で、被告には自閉スペクトラム症の特性があり、同病院で勤務を始めて以降、うつ状態だったことなどを認定。「被告の努力ではいかんともしがたい事情が色濃く影響しており、酌むべき事情といえる」とし、「更生の可能性も認められる」と結論付けて極刑を回避した。

 検察側は、完全責任能力が認められると主張した上で、死刑適用に関する最高裁の判例「永山基準」に今回の事件を当てはめ、3人殺害という結果の重大性や犯行態様の悪質性、動機、遺族の被害感情などを踏まえ「極刑を回避すべき特段の理由は見当たらない」として死刑を求刑した。

 弁護側は、被告が犯行当時、統合失調症の前駆症状による心神耗弱状態だったとして、無期懲役が相当と訴えた。

 地裁判決によると、被告は16年9月15~19日ごろ、入院患者の70~80代の男女3人の点滴に消毒液を混入して同16~20日に殺害した。同18~19日ごろ、殺害目的で点滴袋5個に消毒液を混入した。

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