フェラーリ、伝説の“デイトナ”を継承する最新スペチアーレ『デイトナSP3』をワールドプレミア

 イタリアの本拠地ムジェロ・サーキットで開催された2021年の『フェラーリ・フィナーリ・モンディアーリ』の会場にて、1960年代のスポーツカー耐久シーンを席巻した伝説の名車『330 P3/4』や『412P』にオマージュを捧げる最新スペチアーレ、フェラーリ『Daytona SP3(デイトナSP3)』が世界初公開。2018年の『Monza SP1(モンツァSP1)』や同『SP2』で始まった“Icona(イーコナ)”シリーズの系譜に加わる限定モデルとして、限定生産がアナウンスされた。

 11月20日付でワールドプレミアとなった、伝説のスポーツプロトタイプをインスピレーションの源とするこの最新タルガモデルは、エアロダイナミクスの重要性が急速に高まっていたころの『330 P4』や『350 Can-Am』『512 S』といったレーシングカーのデザインに通じる、着脱可能なハードトップを備える“タルガ”ボディを採用して姿を現した。

 そのフロントウインドウはラップアラウンド式のスクリーンがキャビンを包むように配され、その両側にしなやかなフェンダーが隆起するスポーツプロトタイプを想起させる流麗なデザインを採用。サイドボディから後部に向けてもほっそりとしたウエストから外へ張り出すマッシブな形状がダイナミックな印象を与えている。

 また、デザインでも機能面でも象徴的な要素となる“バタフライドア”には、導風路となるエアボックスが内蔵され、サイドに搭載するラジエーターへと空気を導きつつフロントタイヤからの気流制御にも貢献。この形状や面の処理も『512 S』を彷彿とさせると同時に、サイドミラーもドアではなくフェンダー頂点へと移され、これも1960年代のスポーツプロトタイプを思わせる配置とされた。

 もちろん、この位置が選ばれたのは視認性を高めドアのインテークへ向かう気流に影響を及ぼすのを避けるためで、カバーと支柱はCFD(Computational Fluid Dynamics/数値流体力学)によるシミュレーションが行われ、ドラッグを減らすための完璧な形状が追求された。

ラップアラウンド式のスクリーンがキャビンを包むように配され、その両側にしなやかなフェンダーが隆起するスポーツプロトタイプを想起させる流麗なデザインに
デザインでも機能面でも象徴的な要素となる“バタフライドア”には導風路となるエアボックスが内蔵され、サイドに搭載するラジエーターへと空気を導き、フロントタイヤからの気流制御にも貢献
ESCやABS e/EBD、F1-Tracにe-Diff 3.0、SCM-Frs、SSC(サイド・スリップ・ コントロール)6.1など数多くの電子制御機構を搭載する

■6.5リッターV型12気筒エンジンは840PSを発生。最高速は340km/hをマーク

 一方、カーボンファイバー製バスタブに囲まれたインテリアでも、レーシングカーに典型的なスタイリング要素を活かしつつ、ドライバーとパッセンジャーがくつろげるドライビング環境が構築され、ほっそりと引き締まったダッシュボードは、内張りのなかに浮いているような配置に。

 ダッシュエリアとシートを明確に分離して、キャビンの横幅を広く見せる2層のデザインテーマにより、質感も含めラップアラウンド型の一体感を強調する効果がもたらされた。この固定式シートにより、ドライビングポジションの調整はペダルボックスを動かして行い、シートがリヤのトリムと完全につながりを持つことで視覚的に軽快な印象のコクピットに。前方には『SF90ストラダーレ』から再導入となった往年の“シフトゲート”も採用されている。

 注目のパワートレインには、究極のフロントエンジン・ベルリネッタである『812コンペティツィオーネ』のV型12気筒をベースに、吸排気レイアウトを見直してリヤミッドに搭載。これにより6.5リッターの排気量で65度のシリンダーバンク角を持つエンジンは、ベースのF140HBから新たに“F140HC”の呼称が与えられ、そのアウトプットもフェラーリ製の内燃機関史上最もパワフルな840PS(618kW/840cv)/9250rpmと、7250rpmで697Nmもの最大トルクを発生し、最高速340km/h、0-100km/h加速2.85秒という驚異的な数値を記録している。

 このエンジン重量と慣性の削減にも惜しみない努力が注がれ、スチールより40%軽量なチタン製コンロッドを採用し、ピストンにも異なる素材を活用。スライディング・フィンガーフォロワーやカムシャフト、そしてピストンピンなどにはF1由来のDLC(ダイナモンド・ライク・カーボン)コーティングも施され、可変ジオメトリー吸気ダクトなどと併せて実に9500rpmという最高回転数を許容する。

 そのほかにもブレーキキャリパーの制御を活用して制動力を発生させ、車両のヨーアングルを制御するFDE(フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー)がミッドシップのV12モデルで初採用され、フェラーリ史上最高レベルの“パッシブな空力効率”を誇るエアロダイナミクス面では、リヤのアンダーボディに2本のフロア・チムニーを搭載したことで大幅にダウンフォースが増大。

 テールライトやエキゾーストパイプ位置の工夫で生み出された全幅にわたるリヤウイングや、かつての“ダブルディフューザー”を思わせる処理で、気流制御の大幅な効率向上も果たしている。

サイドミラーもドアではなくフェンダー頂点へと移され、これも1960年代のスポーツプロトタイプを思わせる配置とした
ドライビングポジションは他のフェラーリのラインアップモデルより低く、後ろに倒れた「シングルシーター的」ポジションを採用し、全高を1142mmに抑えた
リヤのアンダーボディに2本のフロア・チムニーを搭載し、かつての“ダブルディフューザー”を思わせる処理で、気流制御の効率向上も果たしている

© 株式会社三栄