「心もよう/井上陽水」プロデューサーの”恨まれてもいい"決意でA面になった数奇な大メジャー曲

"Pのひと声"でA面になった「心もよう」

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ポプコン出身のシンガーソングライターで"選曲家"としても活躍する松崎真人が、'70~'90年代の日本の曲・日本語の曲を中心にイントロからアウトロまでノーカットでお届けするライブプログラム・STVラジオ『MUSIC☆J』(火~金 19:00~)。11月19日のOAでは、井上陽水を一気に世に知らしめた大メジャー曲のA面とB面の両曲を聴きながら、その命運を分けたエピーソードを紹介します。(文中敬称略)

松崎:今回はとても著名なエピソードを持つ大メジャー曲です。「アンドレ・カンドレ」としてデビューして、売れない。そして「井上陽水」としてやっと盛り上がって来ているという実感の中、アルバム「氷の世界」のレコーディングが進んで行くわけです。で、さあ「心もよう」と言う曲があります。「帰れない二人」という曲がある。井上陽水含め、殆どのミュージシャン勢、スタッフ勢は「帰れない二人」がA面だと思っていたところ、ある人物が「いや『心もよう』だ」と。「いま陽水をひとまわり、ふたまわり大きく押し出すには『心もよう』だ」と言ったんです。

松崎:キティ(レコード。現・株式会社キティ)の多賀(英典)という人です。後にキティ・フィルムなども設立して映像制作にも乗り出す、いわゆる業界の大立者です。とくにかく「俺は陽水に恨まれてもいい。恨まれても良いから、どうしてもこの才能を世の中に出したいんだ」と。「それには『帰れない二人』じゃなくて、『心もよう』なんだ」と言ったという逸話が残っております。最近、検証されたんですけど。陽水はああいう人なので、自叙伝で(逸話などを)ペラペラしゃべるような人じゃないのでね。

松崎:もしもこれが逆だったら、と思いながら聴いてみるといいかなと思います。

M13「心もよう/井上陽水」

松崎:非常に湿った世界ですよね、叙情的な。後に八代亜紀が「寒い夜汽車で膝を抱きながら、書いたあなたのこの手紙」という曲がありますが(編註:「愛の終着駅」)、これは「心もよう」のイメージを引きずって反対側の立場からアンサーソングのうように書かれた曲のように思いますが、そういう演歌の書き手までも刺激するような"幅の広さ"が恐らく、プロデューサーの多賀には解ったんですかね。

松崎:でも、僕が言ってることは全部、後付けですから。その当時、例えば僕がディレクターのひとりとしてそこにいたら「いやあ多賀さん、ここはやっぱり『帰れない二人』じゃないですか。陽水が納得してませんよ」と言ったんじゃないかなと思います。

M14「帰れない二人/井上陽水」

松崎:(オンエア中に#musicjの)ツイッターを見たら「心もようのギターをとにかく練習しようと思った」というツイートがあって、そう言うところですよね。少しコードの量も多いし、一発でコードを3つか4つ覚えた人が弾き語りできる曲ではないんですよ。もう少し難しい。なので、より大衆性というか、ポピュラリティーを考慮した多賀の作戦勝ちだったのかなと。

松崎:結局、この2曲を収録した「氷の世界」というアルバムがお化けのように売れて、今でも売れ続けているということで、まあ結果よければ全てよし、ですね。

【編集後記】
「心もよう/井上陽水」(B面は「帰れない二人」)。 あまりにもメジャー過ぎて、この番組でかける機会は意外と少なかったのかも。冒頭の歌詞を「さみしい貨物列車に〜」と間違って歌っていた子供の頃が懐かしい(押韻的には合っているでしょう?)。使い古された表現だが「大衆より半歩だけ先を行く」というのはこのAB面セレクトが好例だろう。ただし、ジャッジを下したプロデューサーは、結果如何でアーティストの信頼を失うというリスクを負っている。(松崎 真人)

<11月19日のプレイリスト>
M01「sûre danse(シュールダンス)/米米CLUB」
M02「にがい涙/スリー・ディグリーズ」
M03「DOWN TOWN BOY/佐野元春」
M04「DOWNTOWN BOY/松任谷由実」
M05「UPTOWN GIRL/Billy Joel」
M06「エレクトリックおばあちゃん/ザ・スパイダース」
M07「すみれ色の涙/ジャッキー吉川とブルー・コメッツ」
M08「君といっしょなら/南こうせつ」
M09「月が射す夜/風」
M10「遥かなる想い/かぐや姫」

M11「Bye For Now/T-BOLAN」
M12「あなたを感じていたい/ZARD」
M13「心もよう/井上陽水」
M14「帰れない二人/井上陽水」
M15「チキチキマシン猛レース/ケーシー浅沼」
M16「もしも雪なら/DREAMS COME TRUE」
M17「One Step/PEARL」
M18「個人授業/フィンガー5」
M19「砂漠のような東京で/いしだあゆみ」
M20「北国の青い空/奥村チヨ」

M21「キモちE[LIVE] /RCサクセション」
M22「Chance!/白井貴子」
M23「見つめてCARRY ON/原田真二」
M24「女優/岩崎宏美」
M25「Kiss Again/岩崎宏美」
M26「五線紙のカウボーイ/岩崎宏美」
M27「天体観測/BUMP OF CHICKEN」
M28「瞬きもせず/中島みゆき」

STVラジオ『MUSIC☆J』(毎週火曜~金曜 19:00~22:00) /RCCラジオ 同時生ネット(19:00~21:50)

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MUSIC☆J

放送局:STVラジオ 他1局ネット

放送日時:毎週火曜~金曜 19時00分~22時00分
※放送局によって日時が異なる場合があります。

出演者:松崎真人(まつざき・まこと):シンガーソングライター、選曲家。北海道札幌市出身。1984年ヤマハポピュラーソングコンテストで優秀賞を受賞し、85年「たわいないトワイライト」でデビュー。92年、佐木伸誘とユニット「Birthday Suit」結成。現在はソロでラジオパーソナリティやライブを中心に活動。

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70年代~90年代の日本のポップス・日本語のポップスを中心に"厳選かけ流し"でお届け。パーソナリティは、北海道出身のシンガーソングライター・松崎真人。音楽への深い造詣と知識に裏打ちされた含蓄あるトーク、選曲の幅広さでリスナーの支持を全国に広げている。松崎の"微妙な滑舌"も病みつきになります!。
★RCCラジオでも同時生放送(~21:50)

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