薬師丸ひろ子「メイン・テーマ」と 南佳孝「スタンダード・ナンバー」の関係はいかに? 薬師丸ひろ子 歌手活動40周年

松本隆と南佳孝の生涯最良の出会い

2021年11月5日と6日、日本武道館で開催された、松本隆の作詞活動50周年記念コンサート『風街オデッセイ2021』の2日目、たくさんの出演者の中で一際強い威光を放つアーティストがいた。それが松本の盟友でもあり、両日ステージに上がったはっぴいえんどのメンバー以外ではもっとも所縁の深いであろう、南佳孝。

圧倒的なヴォーカル力を見せつけた「スローなブギにしてくれ」で観客はステージにひき込まれ、この日一番の喝采の拍手を浴びていたように思われる。そしてその後でもう一曲、やはり会場にいる誰もが知っているヒット曲が披露された。それが「スタンダード・ナンバー」であった。

南は、1972年にフジテレビ『リブ・ヤング!』の番組内におけるコンテストで入賞したのをきっかけに、翌1973年9月21日にアルバム『摩天楼のヒロイン』でデビューする。同日に東京・文京公会堂で行われたはっぴいえんどの解散コンサート『CITY-Last Time Around』がプロシンガーとしての初ステージとなった。

デビューアルバムは松本プロデュースで、出会ったその日にデモテープを聴きながら全く新しい何かを作ろうと意気投合したという。たまたま同学年(松本は1949年、南は1950年の早生まれ)だったこともあっただろう。南は『風街オデッセイ2021』のパンフレットにも、“我が生涯最良の出会いであった” とまで書いている。

20歳の薬師丸ひろ子をイメージした「メイン・テーマ」

シンガーソングライター南佳孝の名を一気に高めたのは、1981年の角川映画『スローなブギにしてくれ』の主題歌「スローなブギにしてくれ(I want you)」のヒットだった。1984年リリースの「スタンダード・ナンバー」もやはり角川映画絡みで、松本の作詞、南自身の作曲による。

タイトルの由来はジャズのスタンダード好きの南が、自身のスタンダードを作りたかったからだという。全日空「'84 青春ブランド沖縄」キャンペーンのイメージソングとして、1984年4月21日にリリースされた。B面「眠りの坂道」は薬師丸ひろ子のアルバム『古今集』へ提供した曲のセルフカバーで、一部歌詞が変えられている。

「スタンダード・ナンバー」は薬師丸ひろ子の主演映画『メイン・テーマ』のために依頼され、南は20歳の薬師丸をイメージしながらメロディを書いた。そして映画のタイトルそのままの「メイン・テーマ」として、1984年5月16日リリース。アレンジは「スタンダード・ナンバー」と同じ大村雅朗だが、それぞれに違った雰囲気が施されて差別化が図られている。映画では同じ作家陣による「スロー・バラード」とともに、歌だけに留まらず、劇伴にアレンジされて随所にそのメロディが導入された。

薬師丸ひろ子3枚目のシングルとして大ヒット

「スタンダード・ナンバー」と「メイン・テーマ」は、メロディは一緒ながら詞はかなり異なっており、それぞれ男性目線、女性目線からの心情が綴られているのが面白い。中でも一番ツボなのは、南の「傷つく感じがイイね」に対して、薬師丸が「傷つく感じが素敵」と歌って感情が重なるところ。

松本の詞ですごいと思うのは、「20年も生きて来たのにね」の「20年も」である。その若さゆえの思い込みと、「スタンダード・ナンバー」のおそらくはだいぶ年上であろう男性のクールな目線との比較が面白く、ぜひ聴き比べてみて欲しい。

「メイン・テーマ」は、薬師丸ひろ子の3枚目のシングルとして大ヒットし、オリコンウィークリーチャートで2位、年間では13位、TBS『ザ・ベストテン』でも最高4位、年間20位を記録し、併せてオリジナルの「スタンダード・ナンバー」もヒットした。南が意図した “スタンダードナンバー” 化は見事に果たしたことになる。

この一曲でさらなる成長を遂げた歌手・薬師丸ひろ子は、さらにユーミンや筒美京平と出会って、歌う女優部門でジャパニーズポップス界を担う、揺るぎない存在を築いてゆくのだ。

カタリベ: 鈴木啓之

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