ポルシェ、フォーミュラEを超えたモータースポーツの電化戦略に「明確な目標」を設定

 ポルシェ・モータースポーツの新しい責任者であるトーマス・ローデンバッハは、『ミッションR』のコンセプトから学んだ教訓を活かし、ポルシェが同ブランドの電気自動車(EV)を使ったシングルメイク・レースシリーズを実現させるという「明確な目標」を持っていると述べた。

 ドイツ・ミュンヘンで今年9月に開催されたIAAモビリティ2021おいて、1000馬力のコンセプトEVレーサーを発表したポルシェは、2025年までに市販するモデルの半数を電動化するという目標を掲げ、生産車部門で積極的なEV戦略を展開している。

 ポルシェは現在、電動フォーミュラシリーズであるABBフォーミュラE世界選手権にワークス参戦しているが、ローデンバッハはこのようなEVレースへのイニシアチブが今後拡大していくと語った。

「ミュンヘンでの展示会にコンセプトレースカーを投入したのには理由があり、ポルシェからは、これが私たちが行きたい方向であるという明確な声明があった。ええ、私はそれを想像できた」とローデンバッハ。

「我々はそのための可能性に取り組んでいる。ひとつはカスタマーカーを作る場合に、クルマの価格やランニングコストが一定の範囲内に収まる必要があるということだ」

「ベースとなるロードカーがあれば、それは非常に助かる。これまでの911レースカーではそうしてきた。したがって誰もが購入できるカスタマーカーを実際に手に入れて、ワンメイクシリーズで使用するのは、まだ少し先のことかもしれない」

「しかし、ミュンヘンでの展示会で私たちが始めたことは、ある種の旅の始まりであると確信できる。間もなくフォローアップを行うつもりだ」

 ローデンバッハは、プロジェクトRが実際のレースに参加するかどうかについて明確な答えを出さなかったが、将来のEVレースプロジェクトのためのテストベッドとしての役割を果たす可能性が高いことを示唆した。

「我々はモータースポーツに電動化を導入することを明確に示している。それはトップモータースポーツだけでなく、カスタマースポーツにも適用される。簡単なことではないため、私たちは懸命に取り組んでいるんだ」

「もちろん最終的な目標は、たとえばエレクトリックカップであり、これはバッテリー式電気自動車(BEV)をオープン・コンペティションに参加させることだ。それが私たちの明確な目標であり、推進する必要があることのひとつだ」

「我々はカスタマー・モータースポーツに対して大きく関与しているため、この分野で2番手になりたくはないんだ。ミッションRで私たちはその旅を開始した」

ポルシェ・ミッションRは、フル電動カスタマースポーツ・レーシングカーの未来を見据えたコンセプトカーだ

■FIAエレクトリックGT選手権のパッケージは「まだ正しくない」

 ローデンバッハは、FIAが計画しているEGTエレクトリックGT選手権にポルシェが興味を持っていると語ったが、コストとプロモーションの両方の観点から、現在の実行可能性について懸念を抱いているという。

 ディスカバリー社が推進するこのシリーズは、GT3アーキテクチャをベースにしたEVマシンを利用し、2023年のシリーズ開始を目標としている

「EGTは技術開発に関して非常に大きな自由を与えているが、これは通常、非常に多くのコストが掛かることになる」とローデンバッハ。

「たしかに、スタンダードセル(スペックバッテリー)のアイデアはある。だが唯一考えなければならないのは、それはどこで行われ、どのように宣伝されるのか、EGTシリーズについて何もわかっていないということだ」

「また、いま抱えている問題はGTがトップレベルで争われていないことだ。EGTが行われたとしてそれは単なるサポートレースであり、そのために多額の資金を費やしても必要な価値の還元を受けることはできない」

「だから、全体的なパッケージはまだ正しくないと思う。もしも開発コストが高く、ある程度の金額を費やしている場合であっても、プロモーションが素晴らしくレースの週末も充実していて、それがトップシリーズであるならば話はまったく変わってくる」

「我々にとっては、全体のセットアップが整っていないため、非常に慎重になっている。ただし、可能性を除外するとは言わない。私たちはGTメーカーであり、電動化に明確にコミットしているメーカーだ」

「しかし現時点では、私たちが実際に一歩を踏み出すべき場所ではないように考えている」

2023年のシリーズ開始が予定されているFIAエレクトリックGT選手権
FIAエレクトリックGT選手権で使用されるEVマシンのスペックシート

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