“インディ500&デイトナ24h覇者”のアレクサンダー・ロッシ、伝統の『バハ1000』でクラス優勝達成

 2021年のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権開幕戦、伝統の『ロレックス・デイトナ24時間レース』で初優勝を手にし、インディカーでは2016年に世界3大レースである『インディアナポリス500マイルレース』を制しているアレクサンダー・ロッシが、11月17〜22日にメキシコのバハ・カリフォルニア半島に沿って争われた北米を代表する伝統のオフロード戦『Baja1000(バハ1000)』で見事にクラス優勝を達成。

 6気筒搭載のプロダクションモデルを基本とするアンリミテッド部門の“クラス7”で『ホンダ・リッジライン』のステアリングをシェアし、2018年、2019年に続く自身3度目の挑戦で勝利を挙げ、自らの肩書きにもうひとつの勲章を加えた。

 2018年のデビューイヤーは、対向車のSUVとあわや正面衝突という窮地をくぐり抜けクラス2位、2019年は90度コーナーで目測を誤りロールオフ。およそ150km/h以上の速度で横転し、リタイアを余儀なくされていたロッシが“3度目の正直”となった2021年大会で雪辱を果たす快走を披露した。

 チーム代表兼ドライバーのジェフ・プロクターにリチャード・グラスザック、そして2輪部門の“レジェンド”でもあるバハ12勝のスティーブ・ヘンゲフェルドとともに709号車の『ホンダ・リッジライン』をドライブしたロッシは、メキシコのバハ・カリフォルニア州に位置する沿岸都市エンセナダをスタートし、南に1227マイル(約1974km)のラパスを目指した。

 深夜のスティントとなる3時15分に最初の出番を迎えたロッシは、極度に乾燥した気候ながら霧が立ち込める厳しいコンディションの下でドライブすると、予想どおり視認性の問題からペースを上げることができず。コース上の“コーションポイント”の見極めも困難にさせる「最悪の状況」だったと振り返った。

「僕らはいくつかのミスを犯した。複数のコーナーで“その瞬間に競技を終わらせる”可能性のある岩石にヒットしたが、幸いにもなんとか生き残れた。別のコーナーではサボテンも薙ぎ倒したが、岩が全部アレならいいのにと思ったよ(笑)」と続けたロッシ。

「しばらくの間“針のムシロ”のような気分でドライブを続けた。でもそれもすべて偉大なる大自然との戦いであり、バハが僕らに与えてくれた試練であり、彼らによるレッスンだと思えるようになったんだ」

 最終的にチームHPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント)の直噴3.5リッターV型6気筒ガソリンを搭載する2022年型『ホンダ・リッジライン』は、23時間4分49秒のタイムで全ステージを走破し、後続に3時間強のマージンを築いてフィニッシュ。この結果により同車は2021年のサンフェリペ250、バハ500を含む4連勝を飾ることとなった。

2018年、2019年に続く自身3度目の挑戦で勝利を挙げたアレクサンダー・ロッシ。デイトナ24h、インディ500、そしてバハ1000の3イベントを制覇した最初のドライバーとなった
6気筒搭載のプロダクションモデルを基本とするアンリミテッド部門の“Class7“に参戦した『ホンダ・リッジライン』

■ダカールラリー挑戦にも意欲を燃やすロッシ

「このイベントは本当に……なんてワイルドなんだ!」と、レース後のプレスリリースで語ったクラス7勝者のロッシ。

「それがどれほどの困難かを説明することさえできないよ。同じぐらいステージは混沌とし、素晴らしく恐ろしい経験だった。このトラックで延々と続く山々や砂漠を真夜中にドライブし、海から流れ込む霧のなかを、他の何百台ものクルマとその巻き上げるダストとともにコントロールすることは、僕が今まで経験したことのないものだった。正気の沙汰じゃないぐらい、本当に……クールだったよ!」

 往年のパーネリ・ジョーンズ、ライアン-ハンター・レイ、リック・メアーズ、ダニー・サリバン、そしてバディ・ライスらに加わり、このバハ1000に出場した6人目のインディ500優勝者となっていたロッシは、今回の結果によりデイトナ24時間、インディ500、そしてバハ1000の3イベントを制覇した最初のドライバーとなった。

「ホンダとHPDとともに、3度目のチャレンジが果たせて光栄だ。ホンダにこの非常に大きな勝利をもたらす一員になれたのは、僕にとっても特別なこと。(代表の)ジェフにはトラックに乗らせてくれたことを感謝したいし、チームの(ナビゲーターを務めた)エヴァン・ウェラーは本物の『男』だ。そしてホンダ・オフロード・レーシングチーム全体が最高の努力を続けていたよ」

 2019年にはインディカーのチームメイトでもあるジェームズ・ヒンチクリフとともに、オーストラリア大陸最高峰のツーリングカー選手権であるVASCヴァージン・オーストラリア・スーパーカーにもワイルドカード参戦し、最大の祭典『バサースト1000』にも挑戦した。

 そんなロッシは、最終的にNASCARのカップ・シリーズとダカールラリーで自らの腕を「試してみたい」と語り、今後の“3刀流”に含みを持たせた。

「ある時点でダカールに挑戦したいと思っているけど、あれはツール・ド・フランスのようなもので、その意味でもバハとは大きく異なるんだ」と続けるロッシ。「あちらはツール同様にステージを戦い、その合間には休息日が設けられる。一方のバハは19時間のスプリントで、ダカールは2週間以上の長丁場。非常に異なるタイプのレースだし、車両のスペックにも大きな幅がある」

「それにもうひとつの懸念は、ナビゲーションが非常に難しいことだ。一部のパートでは、船乗りが星の導きで移動するのとほぼ同じように星を頼りにナビゲートする必要がある。もちろん、地図だけのGPSなしでね。まったく別の挑戦になるだろうけど、いつかはチャレンジしてみたいと思っているよ」

最終的にNASCARのカップ・シリーズとダカールラリーで自らの腕を「試してみたい」とロッシ(右)
総合のトロフィートラックではロブ・マッカクレン/ルーク・マクミリン組のシボレー・シルバラードが勝利を飾っている

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