中国の人権弾圧と北京五輪ボイコット|和田政宗 米英が北京五輪の「外交ボイコット」を検討するなか、「日本は日本の立場で物事を考えたい」と述べた岸田首相。日本政府はなぜ「外交ボイコット」の可能性に言及できないのか。「本音」で語れる政治家、和田政宗参議院議員が弱腰の日本政府と人権弾圧を繰り返す中国に物申す!

性暴力を告発!彭帥さんはどこへ消えた?

中国の女子テニス選手で、元ダブルス世界ランキング1位の彭帥さんが2週間以上にわたって行方不明となり、いまだに彭さんがどのような状況に置かれているのかが分からないという問題。まさに中国の人権状況が白日の下にさらされる事件となった。

彭さんが行方不明となったのは今月2日、自身のSNSに、中国共産党最高指導部のメンバーだった張高麗・前筆頭副首相に性的暴行を受けたと告白する内容が投稿された直後である。なお、投稿はすぐに消去された。

これに対し、米国をはじめとする世界各国が、彭さんの安全確保を求めるとともに真相究明を要求した。米国のサキ大統領報道官は「彭帥さんが行方不明との報道に深刻な懸念を抱いている」と述べたうえで、「中立的かつ検証可能な証拠」を示すよう中国政府に求めた。そして、中国に対し「批判に対する寛容さがまったくなく、告発者を沈黙させてきた」と強く非難した。

また、国連人権高等弁務官事務所も会見で「彭帥さんがどこにいるのか、どんな状態なのかはっきりさせることが大事だ」と述べ、「透明性を持って調査すべきだ」と徹底的な調査を求めた。さらに、テニスの女子ツアーを統括するWTAも、彭さんを守ると表明するともに、中国に対し中立的な調査を要求した。

トーマス・バッハ会長とのテレビ電話

中国はこうした動きに対して何ら応じない姿勢を見せていたが、状況が一変したのが19日、ロイターが行ったディック・パウンドIOC委員へのインタビューからである。

パウンド氏は最古参のIOC委員だが、来年2月の北京冬季五輪開催に関して、この問題が解決しなければIOCが厳しい態度を取るとの見解を示した。パウンド氏は「早急に良識ある方法で解決されなければ、事態が制御できなくなるかもしれない」と述べたうえで、「五輪の中止にまで発展するとは思わないが、分からない」と北京冬季五輪中止の可能性に言及したのである。

すると、20日になって中国のジャーナリストが彭さんの近況とする写真をツイッターに投稿。これを中国共産党系メディアの環球時報・胡錫進編集長がリツイートし、次々に彭さんの最新の動向とされる映像がツイッターにアップされるようになった。

また、21日にはIOCのトーマス・バッハ会長と彭さんが急遽テレビ電話で連絡を取った。つまり、中国は北京冬季五輪の中止をちらつかされるに至って、彭さんと外部との接触を認めざるを得なくなったのである。

“自撮り写真”に「くまのプーさん」

しかし、彭さんは中国当局に軟禁されているのではないかという懸念は続く。

それは、ジャーナリストによって最初に投稿された、彭さんの近況とされる写真を注視すると分かる。この写真では彭さんがパンダのぬいぐるみを抱えているのだが、その後ろには「くまのプーさん」の写真が写りこんでいる。

ちなみにパンダは、中国の公安(公安部国内安全保衛局=国保)の意味で使われることがある。パンダ→国宝=国保と、発音が同じだからである。そして、「くまのプーさん」は習近平国家主席と重ねられることから中国では投稿や検索が禁止されている。

この2つが並んでいることは、彭さんが「弾圧に屈しない」というメッセージや、「中国当局の監視下に置かれている」とのメッセージを送っていると解することができる。つまり、彭さんが依然として厳しい状況に置かれていることは明らかだ。

私はこうした状況が続けば、まず世界各国の北京冬季五輪内定選手たちが、五輪出場を取りやめると宣言し始め、その動きが広がっていくと思う。テニス界において、大坂なおみ選手や男子世界ランク1位のジョコビッチ選手がこの問題に声を上げ、ジョコビッチ選手は中国撤退も辞さないWTAへの支持を表明した。

こうした動きがスキーをはじめとするウインタースポーツの選手に波及する可能性は高い。人権が弾圧されている国で、平和の祭典であるオリンピック・パラリンピックが開催され、そこで選手として競技を行うことは考えられないとするトッププレーヤーは多いはずだ。

そして、こうした動きの広がりは、世界各国による北京五輪ボイコットにつながっていく。人権弾圧と平和の祭典は共存しえない。

「日本版マグニツキー法」を制定せよ!

こうしたなか、日本政府の姿勢があいまいであるのは忸怩たる思いだ。バイデン米大統領はすでに北京冬季五輪への「外交ボイコット」に言及しているが、岸田文雄首相は「日本は日本の立場で物事を考えたい」と述べた。

中国の人権状況が劇的に改善しないかぎり外交ボイコットは既定路線であるのに、なぜその可能性に言及できないのか。

また、林芳正外務大臣が訪中を調整していると述べたことも、中国や国際社会に対する誤ったメッセージとなる危険性があるのではないか。林外相は18日の王毅中国外相との電話会談で訪中の打診を受け、中国を訪問しての外相会談について、「調整はしていこうと」とテレビ番組で述べた。

我々が政府与党としてまずやるべきことは、国会においてウイグルの方々などに対する人権弾圧非難決議を速やかに行うことであり、人権弾圧を行った個人や当局関係者に資産凍結などの経済制裁を科す「日本版マグニツキー法」を制定することである。

G7で「マグニツキー法」がないのは日本だけだ。日本はアジア太平洋のリーダーとして、中国の人権問題に断固として向き合っていかなくてはならない。

そうでなければ、安倍政権、菅政権で築き上げた日本を中心とするクアッドなどの外交協力、防衛協力は、各国の失望により枠組みが崩壊しかねない。日本が中国に対し強い姿勢を取ることを各国は求めている。

我が国の意志としても中国の人権弾圧や覇権的行動はまったく許容できないのは当たり前のことだ。それなのに日本政府の姿勢はいまだ弱い。私は自民党内においてしっかりと声を上げ、政府が断固たる対中政策を取るよう動かしていく。

著者略歴

和田政宗

© 株式会社飛鳥新社