罵声禁止、休んでOK、保護者の負担なし… 少年野球の常識を疑う新設チーム“9の約束”

練馬アークスJr.ベースボールクラブの中桐悟代表【写真:川村虎大】

2021年に発足した「練馬アークスJr.ベースボールクラブ」

慣習的な少年野球の常識を取り払ったチームが、徐々に注目を集めている。2021年から活動を開始した「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」。練習中は罵声が飛ぶことはなく、勝利至上主義を否定する。代表を務める中桐悟さんは、時代を経てもなかなか変わらない練習への疑問から大きく舵を切った。

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「怒っても、野球は上手くならないんですよ」

中桐さんが思い出すのは、自身の幼少期。地元に少年野球チームがなく、競技を始めたのは中学からだった。野球部では指導者から怒号が飛び、時には殴られることも。好きだったはずの野球をするのが苦しくなってしまった。

高校や大学では野球から距離を置いていたが、徐々に「もう一度やりたい」と思うようになった。社会人になって草野球チームに入ると、これまでの野球観が一変。「ミスを咎めることなく許容する。これが本来の野球のあるべき姿だと感じました」。38歳になった今でも、楽しくプレーを続けている。

ただ、隣のグラウンドを見ると、いまだに子どもたちに怒声を浴びせる指導者がいる。「まだそんなことをやっているのかって。全く変わっていない」。小学生の息子が少年野球チームに入りたいと言っても、気が進まなかった。「それなら、自分でチームを作った方がいい」。一念発起し、考えに賛同してくれる知り合いにコーチ就任を依頼。準備期間を経て、2021年4月に練馬アークスが発足した。

代表の中桐さん「少年野球って、いまだおかしいことがたくさんある」

チームには“9つの約束”がある。「罵声や高圧的な指導を完全禁止」をはじめ、「ばっちこーい!」など野球独特の「ロジカルではない声出しは行わない」や「活動は休んでも構わない」との項目も。共働きの家庭も多いため「保護者の時間的負担一切なし」と掲げている。

「少年野球って、いまだおかしいことがたくさんある。私は、小学校の野球にトーナメントは必要ないと思うんです」。勝つために、能力の高い投手に負担が偏ることもしばしば。「高校生になって肩肘をケアするのでは遅いんです」と強く語る。楽しく白球を追うことが最優先。「自分がやれなかったというのもありますけど……。せっかく好きで始めた野球が嫌いになったり、怪我をしてしまったりで辞めてしまうのは残念なので」と言う。

無理のない練習量に設定しているため、連戦連勝は望めないかもしれない。従来は保護者が担っていた役目を外部に委託することもあるため、会費は割高になっている。ただ、デメリットも含めて全てホームページに掲載。メンバーを集めることよりも、ミスマッチを防ぎたいという思いが強い。

発足から半年で、メンバーはおよそ20人に。将来的には、同じ志を持ったチームを集めてリーグ戦を開催したい。「負けても次がある、小学生ではそれでいいと思うんです」。練馬アークスの取り組みは、まだ始まったばかりだ。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

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