“Kawaii”の原点⁉岡山の夢二郷土美術館で大正ロマンの先駆者の魅力に迫る

大正時代とは?

今から約100年前、日本は大正と呼ばれる時代でした。

1868年の明治維新以降、日本には西洋文化が流入してきます。日本の芸術家たちは、西洋芸術と伝統的な日本文化をいかに調和させるか、苦闘を続けました。大正は、そうした中から新しい文化が花開いた時代です。

中でも、ひときわ強い輝きを放っていたアーティストが、竹久夢二です。

「夢二式美人」⁉大正ロマンの代表画家・竹久夢二とは?

竹久夢二(1884~1934年)は、岡山県生まれ。18歳で東京に出てきた後、詩や絵画、デザインなど、多彩な分野で才能を発揮し、時代の寵児となりました。

中でも有名なのが、「夢二式美人」と呼ばれる作品。独特の情感をたたえた美人画は大人気となりました。これは現代の”Kawaii文化”の源流と言われ、多くのアーティストやデザイナーにも影響を与えています。

竹久夢二はとても人気のあるアーティストのため、日本には現在、東京の竹久夢二美術館、群馬県の竹久夢二伊香保記念館など、彼の作品に触れられるスポットが複数あります。

中でももっとも開館が早く、所蔵品の質も随一なのが、岡山県にある「夢二郷土美術館」。今回は、ここで専門家のお話を伺いながら、今なお新鮮な輝きを放つ竹久夢二の魅力に迫ります。

故郷・岡山県にある夢二郷土美術館

JR岡山駅から徒歩25分ほどと、アクセスのよい場所にある夢二郷土美術館の本館。「夢二の里がえり」という思いから、1966年に創設されました(※1)。

年4回の企画展が開催され、常時100点以上の作品が展示されています。

日本画や油彩の肉筆画のほか、竹久夢二がデザインした雑誌の表紙、絵ハガキなど、展示作品も多彩です。

『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』の1つ星に選ばれており、新型コロナウイルスの流行前は、欧米や台湾などからも多く観光客が訪れました。

専門家に聴く!竹久夢二の魅力とは?

夢二郷土美術館の館長代理・小嶋ひろみさんに、竹久夢二の魅力を伺いました。小嶋さんは、同館の初代館長の孫にあたる方。そして、子どもの時から夢二作品を見続けてきた、根っからの夢二ファンです。

彼女のお話から、ここでは3つのポイントをご紹介します。

魅力① 人々に寄り添うアート

「『夢二式美人』は、当時の女性たちにとって『美人だけど身近に感じる』存在でした」と語る小嶋さん。

竹久夢二が人気になった大正は、生活が豊かになり、多くの人が雑誌を読めるようになった時代です。そうした中で、竹久夢二が表現したのは、遠い世界のアイドルではなく、ファッションや化粧の参考になる「身近な憧れの女性」でした。

さらに小嶋さんは、「夢二は、女性の悲しみや憂いを描いている。そうした点も当時の女性たちの共感を呼んだのではないでしょうか」と語ります。

大正時代、日本では女性解放運動が進んだり、斬新なファッションに身を包んだ「モダンガール」が現れたりしました。他方で、1923年の関東大震災をはじめ、多くの社会的不安もありました。

そんな中、美しさや強さばかりを追求するのでなく、悲しみをそっと受けとめてくれるような竹久夢二のアートは、人々に深い癒しを与えたのかもしれません。

魅力② 西洋文化を受け容れつつも日本的

竹久夢二は、ロートレックやゴッホなどの西洋画家の表現を研究し、自らの作品に生かしました。実際、彼の絵は、江戸時代の浮世絵と比較すると、より西洋画に近く感じます。

その一方で、彼の絵は、強い日本らしさも感じます。

この点を小嶋さんに尋ねてみると、「たとえば余白の使い方。夢二は、画面すべてを色付けせず、余白を残しました。これは、日本画に典型的な技法で、鑑賞者が絵のストーリーを自ら想像する余地が生まれます」とのこと。

大正文化は「和洋折衷」、つまり西洋文化を取り入れながら、いかに日本らしい表現を目指すかが問われた時代です。竹久夢二もまた、日本の伝統を生かしながら、見事に独特の表現を創り上げました。

魅力③ 暮らしの中にある芸術

竹久夢二は、日本画や油彩画のほか、雑誌や広告のデザイン、さらには当時大流行した絵ハガキ、楽譜・レコードの表紙絵、便箋・包装紙などのデザインなどを幅広く手がけました。

ファインアート(純粋芸術)と商業美術を分け隔てず、よい作品を創り続けようとしたその姿勢により、彼は「日本のロートレック」と称されることもあります。

「夢二の目指したのは、暮らしの中にある芸術。庶民の日常生活を豊かにするのが芸術だという強い信念をもって、さまざまな活動をしていました」(小嶋さん)。

お話を伺いながら、筆者は「生活の美」を追求したウィリアム・モリスや、ジャンルを超えたアート活動を展開したアンディ・ウォーホールを思い浮かべました。

竹久夢二もまた、芸術の在り方を深く見つめたアーティストだったのですね。

活動分野が多岐にわたっているため、竹久夢二は美術史においてなかなか評価されませんでした。しかし、彼の作品を愛する多くのファンに支えられ、2014年には「竹久夢二学会」が創設されるなど、近年は研究が進んでいるということです。

SNS映えする「art café 夢二」も展示室のひとつ?

夢二郷土美術館には「art café 夢二」が併設されています。これは美術館の「第6の展示室」とのこと。

前述したように、竹久夢二は「暮らしの中にある芸術」を大切にしていました。その理念を体現しようと、岡山県出身の著名デザイナー・水戸岡鋭治(みとおか えいじ)さんが監修しリニューアルされたのが、同カフェです。

ソファーや椅子などのデザインも、竹久夢二のデザインを生かしたものになっています。

SNS映え写真が撮れるスポットとしても人気で、多くの観光客が訪れます。

もちろん、メニューにもさまざまな工夫が。

たとえば、「シェフ特製 千屋牛ハッシュ・ド・ビーフ セット」(税込1,540円)。これは、竹久夢二の活躍した大正時代に流行ったハヤシライスをイメージして作られた料理。食器も当時を意識したものになっています。

「夢二のスイーツよくばりセット」(税込1,210円)にある「ガルバルジィ」は、竹久夢二が好んで食べていた洋菓子を再現したものなのだとか。

ミュージアムショップのおみやげも充実

「art café 夢二」の隣はミュージアムショップとなっています。こちらも「暮らしの中にある芸術」が体感できるような、身に付けたり、家に飾ったりできるおみやげが充実しています。

ポストカードや復刻木版画のほか、マスキングテープ、手ぬぐい、風呂敷など、竹久夢二らしいデザインをされているものがたくさん。

岡山県の名産として知られる「高梁(たかはし)紅茶」や、岡山県倉敷市の伝統的な織物「倉敷帆布」を使ったトートバックなどもあり、岡山みやげを買うにもぴったりです。

お庭番の「黑の助」もお見逃しなく!

夢二郷土美術館では、もうひとつ、ぜひチェックしてほしいことがあります。それは“お庭番”に任命されている黒猫の「黑の助」です。

竹久夢二は、美人画や子ども向けの本の挿絵などに黒猫を好んで描きました。西洋では、黒猫は「魔女の使い」として描かれますが、竹久夢二の描く黒猫は、人間と共にある家族のような親しみのある存在です。

竹久夢二の絵の黒猫にそっくりな「黑の助」は、2016年、車にひかれそうになっているところをスタッフに保護されました。その後、同年12月に“お庭番”として正式採用。今は美術館にきまぐれ出勤し、アイドル的存在となっています。

「黑の助」の出勤情報は、公式Instagramで知ることができます。また、ミュージアムショップには、水戸岡鋭治デザインの「黑の助」グッズもたくさんあるので、ぜひチェックしてくださいね!

周遊も便利!竹久夢二と大正ロマンの世界にもっと浸りたければ?

竹久夢二の世界にもっと浸りたい方には「竹久夢二の魅力満喫プラン」がオススメ。タクシーで、竹久夢二のアトリエを復元した「少年山荘」や、茅葺屋根の生家を公開している「夢二生家記念館」などを周遊できます。

夢二郷土美術館の本館は、岡山県の人気スポット・岡山城や、日本三大庭園のひとつ「後楽園」のすぐそばにあり、気軽に周遊できます。

また、大正の雰囲気をもっと感じたければ、JR岡山駅から電車で20分ほどで行ける倉敷市の美観地区にも行ってみましょう。大正時代に建てられた洋館や、美しい白壁の土蔵群などがあり、SNS映え間違いなしです!

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