東大野球部前監督が説く「二道流」 中学までは他競技との“兼業”を勧めるワケ

東大野球部の監督を務めた浜田一志氏【写真:高木希】

幼児期、児童期は「背骨」を鍛えておくことが大事

2013年から2019年まで東大野球部監督を務めた浜田一志氏は、在任期間中に東京六大学リーグでの連敗を94で止め、15年ぶりの勝ち点をもたらすなどの手腕を発揮した。さらに部活と勉強の両立を目指す学習塾「Ai西武学院」の塾長を務め、子どもたちの能力を引き出すことに長けている。少年野球の「指導」をテーマにしたFirst-Pitchの企画「ひきだすヒミツ」では浜田氏の連載第2回として、文武両道を目指す上で有効な習い事の選び方と、中学生段階での進路の見極めについて聞いた。

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東大野球部には、受験勉強をするために成長期にほとんど運動をしなかった子も入ってきます。中学受験の時に親に野球を辞めさせられ、東大に合格したのでまた野球をやりたいというわけです。でもそういう子は、骨粗しょう症のようなことになっていて、キャッチボールしただけで骨折することもある。成長期にはある程度、負荷をかけて身体づくりをしておかなければならないんです。

成長期の始めの段階である幼児期、児童期には背骨をしっかり鍛えておくことが大事です。人間の進化の過程をたどると、直立して、背筋が伸びて、大きな脳を支えられるようになって人間になった。同じように子どもも、運動して背骨を鍛えることで骨が太くなり、筋肉もついて、脳みそを背骨でしっかり支えられるようになる。運動も勉強もできる子には背筋がピンとしていて姿勢がいい子が多いですが、これは偶然ではないんです。

脳みそは小学校に上がる前くらいにグンと大きくなって、12歳くらいまで成長していきます。ですからこの時期には意識的に運動をして、しっかり背骨を鍛えておくことをお勧めします。

どんな運動を習わせればいいかと迷う親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、背筋を伸ばすということを考えるなら水泳が良いですね。基本的に人間は楽をしようとしますが、泳ぐ時に楽しようとすると背筋がピンと伸びる。自然と姿勢が良くなり、背骨も鍛えられるんです。最近は水泳を習う子が増えているそうですが、文武両道を目指すため理に適った選択といえます。

脳の働きを良くするには、指先を使うことも大事です。脳は指先を使うことで活性化され、神経のネットワークが広がり、頭が働くようになる。痴ほう症予防に麻雀をやったりしますが、あれも指先を使うことに意味があるんです。野球も道具も指先も使いますから、「頭が良くなる」条件が揃ったスポーツということはできるでしょうね。

中学生の段階で才能を見極めるのはほとんど不可能

幼児期、児童期というのは本能的に楽しいことをやって喜んでいるんで、親は身体面のサポートを気にかけて、好きなようにやらせてあげればいいのですが、中学生になると進路を決めなくてはならなくなります。でも成長途上の中学生の段階では勉強もスポーツも、才能があるから上手なのか、それとも単に早熟だからなのかはわからない。

一般的に才能を見極められるのは、骨が固まり成長が止まる18~20歳といわれます。だから、甲子園のスーパースターがプロ野球ではそんなに活躍できなかったり、勉強でも小学校ではすごくできた子が、中学校では普通になっちゃったなんてことはよくありますよね。逆にごく普通の子が高校で目覚めちゃったなんてこともありますから、才能の見極めというのはすごく難しい。少なくとも中学生の段階で、才能か早熟かを見極めることはほとんど不可能です。

そこでお勧めしたいのが「二道流」です。スポーツなら集団競技と個人競技の2種類をする。野球とサッカーみたいに集団競技の組み合わせだと、大会が重なった時にどちらに出るかという問題が出てきますが、集団競技と個人競技の組み合わせなら、チームメートに迷惑をかけることは少なくなりますからね。野球を軸にするなら、水泳や陸上などと組み合わせて、中学生くらいまでは2競技やってほしいですね。

勉強も「二道流」で、1つは学校の勉強。ようするに読み書き、そろばんです。もう1つは教養をつけるということ。自分から進んでできるのは探究活動ですね。例えば料理でもいいし、鉄道写真でもいいし、SNSで「いいね」を貰いたくて一生懸命頑張っちゃうようなものですよ。勉強で「いいね」を貰えるのは、クラスで1人か2人ですけど、探究活動ならみんなが何かで「いいね」が貰えますからね。

10代というのはアイデンティティを求めている。自分には何が向いているかを探している。だったら実際にいろいろやってみなきゃだめでしょう。スポーツも勉強も「二道流」でやってみて、自分にあったものを見つければいい。そういう環境を整えてあげるのが親や周りにいる大人の役割だと思います。

○プロフィール
浜田一志(はまだ・かずし)1964年9月11日生まれ、高知県出身。土佐高校で野球部に所属し、東大理科2類に現役合格。野球部に入部し、4年時に主将を務めた。東大工学系大学院を修了後、会社員を経て1994年に文武両道を目指す学習塾Ai西武学院を開業。2013年から2019年まで東大野球部監督を務めた。

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