湘南、残留争い直接対決に会心の勝利 細部にわたる緻密さが欠けていた仙台

J1 仙台―湘南 後半、仙台のパスをカットする湘南・岡本(上)。この後、チーム2点目のゴールを決める=ユアスタ

 シーズン当初は、どのチームも理想のサッカーを追い求める。良い内容のサッカーをやって勝ち点を積み重ねるのが一番いい。難しいのは内容的にはそれほど悪くないのに、勝ち点が得られない場合だ。過去の例を見ると、結果を得られないチームは最終的に内容も悪くなり負のスパイラルに陥ることが圧倒的に多い。

 今季のJ1は3試合を残した時点で、6チームが残留を争う状況だった。15位から湘南ベルマーレ(勝ち点33)、清水エスパルス(33)、徳島ヴォルティス(30)、大分トリニータ(28)、ベガルタ仙台(27)、横浜FC(27)。11月20日、第36節に15位の湘南と19位の仙台による直接対決が行われた。

 この両チームは、本来のレギュレーションであれば、今季はJ2に所属しているはずだった。昨季J1の順位は仙台が17位、湘南が最下位の18位。コロナ禍の特例で降格がなくなったために今季もJ1で戦うことになった。

 もちろん、クラブの財政規模など、それぞれの事情があるために簡単なことではない。ただ、昨年の不振に続き今年も降格の危機に直面していることを考えると、フロントはもう少し効果的な強化をできたのではないかという疑問を持つサポーターもいるだろう。

 仙台のホームで行われた大一番。精神的にも追い詰められたであろう状況での戦いは、先制点が大きな比重を持つ。貴重な先制点を奪ったのは湘南だった。開始10分、左サイドの畑大雅がゴール前の茨田陽生にクロスを上げる。茨田はボールをうまくヒットできなかったが、右サイドにこぼれたボールにいち早く反応したのが、右アウトサイドの岡本拓也。右足の柔らかな浮き球で送られたラストパス。仙台の上原力也のはるか頭上から、このボールをヘディングでとらえたのがJリーグ屈指のヘディングマイスター、ウェリントンだった。高い打点からゴール右に打ち下ろされたシュートをGKスウォビィクに止めろというのは酷だった。

 3―5―2のシステムから、守備時には5バックになる。労を惜しまぬ運動量が持ち味の湘南に先制点は大きな勇気となった。一方で仙台には悪いデータがあった。今季、前節まで先制点を許した試合は0勝。一度も勝っていないのだ。

 ボールをより支配したのは仙台だった。ただ、湘南のゴールを脅かす回数は限りなく少ない。おそらくダイレクトパスを使えば、湘南の守備網も崩れるのだろう。だが2つ先のプレーを予測していないためか、仙台の選手はボールを持ってからパスの相手を探すありさまだ。相手が守備を固めた状態で、これを崩すのはかなり難しいのが現実だった。

 仙台は後半に入った直後に富樫敬真、後半8分に西村拓真が可能性を感じさせる形からシュートを放つ。その反撃ムードを打ち消したのが、湘南の1点目を演出した岡本。両チームが合計5人の交代選手を入れ、ゲームが止まった直後の後半29分だった。入ったばかりの仙台MFフォギーニョの上原への横パスが微妙にずれる。それを自分のマークを捨て、インターセプトを狙った。岡本の積極性が功を奏した。

 略奪したという表現がぴったりの、勇気あふれるパスカット。前方にスペースの空いた岡本は、ボールを持ち出すとペナルティーアーク内から右足でシュート。ボールはDF福森直也の股下を抜け、ゴール左隅に突き刺さった。

 残留を懸けた「6ポイントマッチ」の直接対決に2―0の完勝。次節で、まだ3ポイント差の17位徳島との直接対決があるため、残留が決まったわけではない。それでも得失点差で大きくリードしているため、湘南のアドバンテージは大きくなった。

 一方の仙台は、1時間ほど遅く始まった試合で清水が広島勝利したため、2009年以来、13シーズンぶりのJ2が決定した。試合後、仙台の手倉森誠監督は試合前にこう語ったことを明かした。「負けたら終わりだ」。そして「生きるか死ぬかの戦い」を落とした。東日本大震災直後の2012年に仙台を率い、チーム最高の2位に導いた。今季、その熱血監督の神通力は発揮されなかった。

 仙台はサポーターもチーム関係者も悲しんでいるだろう。ただ、この日の試合を見ていても「勝てない理由はここにあるのかな」と思うシーンがあった。1点目ではウェリントンとの競り合いで体をぶつけることもなく、フリーでヘディングを打たせた。2点目も、上原がパスをまず触ることをせず、ボールを流したことで奪われた。競り合いでは体を当てる、ボールを流さない。こういったことが守られずに失点。細部にわたる緻密さがなかったことが、最終的に悲しい結果を招いたのではないか。

 開幕時、個人的に注目していたことがある。青森県の小さな町にある五戸高出身のJ1監督が同時に2人。仙台の手倉森監督、そして横浜FCの下平隆宏監督だ。ただ、2人が率いたチームが同時に降格決定とは思いもしなかった。下平監督は4月に解任、そして、手倉森監督は11月23日に退任発表。非常に残念だ。ちなみに東北のサッカーの古豪、五戸高は人口減少のため来年3月末をもって閉校することになっている。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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