第1回「日本うんこ文化学会」で話し合われたこと スマホゲームで遊びながら大腸がん発見も

 

「日本うんこ文化学会」の第1回学術集会に集まった研究者や医療・介護職ら

 「日本うんこ文化学会」。そんなウソみたいな名前の学会がこのほど設立された。ふざけているのではない。食べることだけでなく、気持ちよく「出す」ことは人生の質を左右する。異常を放っておいたら、命を落とすことだってある。悩んでいる人は意外と多いはずだ。さあ恥ずかしがらず、うんこについて語り合おう。(共同通信=市川亨)

 ▽テーマは教育から建築まで、学会の歌も

 「うんこは出せばいいというものではない。気持ちよく出さないと」

 「専門家の間ではうんこの価値が再発見されているが、一般の人の間ではまだまだだ」

 「気になることがあっても『恥ずかしい』と抱えてしまう。安心して語れる場が必要」

 11月6、7日に石川県小松市で開かれた日本うんこ文化学会の第1回学術集会。腸内細菌の研究者や医師、うんちの絵本作家らが熱い議論を交わした。テーマは介護や医療から教育、建築、まちづくりまでさまざま。紙おむつを便と分離、粉砕して下水道に流し、固形燃料などにリサイクルする構想を日本下水道事業団の幹部が説明したほか、排せつ関連用品を紹介するワークショップも開かれた。

 「うんこ」という言葉を恥ずかしがらず口に出してもらおうと、学会の歌も披露された。

 ▽「食育」と同じように「便育」を

 学会を設立したのは石川県小松市の保健師、榊原千秋さん(59)だ。在宅介護や難病患者の終末期ケアに関わる中で、便について悩む人が多いことを実感した。

大便の状態を分類した資料を掲げる榊原千秋さん

 子どもの頃の便の失敗がきっかけで、高齢になっても排便障害(便秘)が続いていた男性、やせたいからと下剤を飲み続ける若い女性…。プライベートな問題ゆえになかなか相談できず、正しい知識も広がっていない。

 大学院で専門知識を学んだ榊原さんは排せつケアのプロを育てようと、2016年から独自に「POO(英語でうんちの意)マスター」の養成研修を各地で開催。これまでに医師や看護師ら約500人が受講した。

 学会設立を思い立ったのは、現場の実践で得た知見や科学的根拠を議論して学び合いたいから。学者や医療・介護職だけでなく行政や企業、「一般のおじちゃん、おばちゃん」まで、幅広い人たちに参加してもらおうと、専門用語ではなくあえて「うんこ」という日常の言葉を掲げた。

 学会の設立趣意書にはこう記す。「排便をうんこ文化として捉え、学際的に研究・教育・交流を図り、すべての人の健康と福祉に貢献することを目的とする」

 榊原さんは「良いうんこ」を出す条件を四つ挙げる。(1)ストレスがないこと(2)バランスの取れた食事(3)運動(4)前かがみに座る排便姿勢―だ。

 「豊かな便は豊かな人生につながる。『食育』と同じように『便育』を広げ、うんこに関する社会の意識を変えるムーブメントを起こしたい」。学術集会は来年も開催する予定だ。

第1回学術集会は対面とオンラインの併用で開かれた

 ▽もう一つの「学会」

 うんこで「学会」を冠した団体は、実はもう一つある。東京都内で在宅医療を手掛ける医師の石井洋介さん(41)が13年につくった「日本うんこ学会」。こちらは学術団体ではなく、大腸がんなどの疾患予防を啓発する任意団体だ。

 石井さんは10代で難病の潰瘍性大腸炎を発症。頻繁におなかが痛くなってトイレへ行くため、高校は行きづらくなって不登校に。卒業後はフリーターになった。

 19歳のとき症状が悪化し、大腸全摘手術を受けた。人工肛門だった時期もあり、うんこでは苦労の連続だった。23歳で大学医学部に入り、消化器外科医に。病院の勤務医時代、大腸がんの悪化に気付かず命を落とす患者を何人も目の当たりにした。話を聞くと、多くの人が細い大便が出るなどの異常を感じていた。

 

スマホゲーム「うんコレ」の画面を示す石井洋介さん

「大腸がんはほかに症状が現れにくく『サイレントキラー』とも呼ばれる。便の異変に早く気付いてもらえれば」。思い付いたのが、気軽に楽しめるゲームだった。

 ▽美少女キャラがアドバイス

 自身もRPGなどのゲーム好き。クリエイターら仲間とうんこ学会をつくり、開発に着手した。20年11月にスマートフォン向けにリリースした「うんコレ」は、課金の代わりに排便報告をしてもらうことで進めるユニークなゲームだ。腸内細菌を擬人化した美少女キャラクターが、便の状態に応じて受診などをアドバイスする。

 ダウンロード数は2万5千を突破。「うんコレで『腸炎かもしれない』と指摘され、病院に行ったら本当だった」「親が『大便がおかしい』と。ゲームで知識があったので受診を勧めたら、大腸がんだった」。プレーヤーからはそんな声が届く。

「うんコレ」のPR画像

 石井さんは「平熱と同じように、まずは自分の普段の『平便』を知ることが大事。例えば黒いうんこが出たら胃の病気、赤い血便の場合は腸の病気が疑われる。うんこで救える命があることを知ってほしい」と話す。

 うんこ学会が目指すのは「学校で『先生、うんこに行ってきます!』が自然と言える社会」。石井さんは教員や児童向けに講演などもしており、前述のうんこ文化学会の学術集会にも登壇した。

 20年6月から始めた在宅医療では、排せつケアの大切さを痛感している。高齢者のみとりをすることも多く、最期まで「食べること」と「出すこと」は人生の質を左右するからだ。「うんこを『汚い物』『流してしまう物』と見るのではなく、フランクに語り合ってほしい」と願っている。

 【取材を終えて】

 数年前、たまたま受けた便潜血検査で出血が見つかり、受診したら大腸にポリープがあった。幸い良性だったが「放置していたら、悪性になっていた可能性もある」と医師に言われた。手術で切除したポリープはけっこう大きかった。そういえば、以前は時々血便が出ていたが、最近はない。

 基本的には「快便生活」だが、下痢になったりすると、その日はやっぱりブルーだ。トイレに行けなくなってオムツになった場合を考えると、「気持ちよく出せる」ことは、人生において重要なことだと改めて思った。

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