ファイザー、新たなコロナ飲み薬でライセンス供与も「不十分で持続的ではない」

ケニア、新型コロナ対策で病院内を消毒するMSFスタッフ © Paul Odongo/MSF 

米製薬大手ファイザーは11月初旬、開発中の新型コロナウイルス感染症の飲み薬「パクスロビド」について、高い有効性があることを示す臨床試験結果を公表した。規制局の審査や世界保健機関の指針、全データの分析が待たれるが、有望な治療薬として期待されている。

パクスロビドは、ファイザーの新たな抗ウイルス剤(PF-07321332)と抗HIV薬リトナビルを配合したもの。同社は価格を明らかにしていないが、米メルクが開発した新型コロナ飲み薬「モルヌピラビル」と同等の価格設定で、高所得国では治療1回あたり約700米ドル(約8万円)とする意向を示した。低・中所得国には、各国の所得水準に応じた「階層別価格設定」を適用する見通しだ。

このパクスロビドについてファイザーは11月16日、国連が後押しする「医薬品特許プール(MPP)」と共に製造ライセンスの供与を行うと発表した。世界のワクチン分配で極端な不公平が解消されない中、比較的安価かつ容易に製造可能で、多くのジェネリック(後発医薬品)メーカーが供給できる飲み薬を、診断検査と合わせて導入すれば、重症患者数と医療の著しい負荷を減らせる可能性がある。だが、製薬各社が独自にライセンス契約を結ぶと、ジェネリック薬の製造供給に不確定さと分断が生じ、真の解決策というよりも、むしろ問題の一端となる。

治験段階にあるPF-07321332にはまだ特許がなく、リトナビルは昨年より特許切れとなっている。どちらの薬にも特許がないのであれば、特に今回のライセンス供与対象から除外された国のメーカーなどは、ジェネリック薬の生産を直接検討できるはず。こうした特許をめぐる動きが示しているのは、各国が新型コロナに関する知財保護の一時免除案を採択し、あらゆる法的手段を用いてジェネリック薬の製造供給を妨げる障壁と不確定さを取り除くことの緊急性だ。

国境なき医師団アクセス・キャンペーンで上席法律・政策顧問を務めるユアンチョン・フーは次のようにコメントする。

今回のファイザーによるMPPへのライセンス供与では、ジェネリックメーカーを通じて95カ国、世界人口の約53%にあたる国々への薬の供給が対象になりました。しかしこれは、自主的なライセンス契約では不足があり、命を救う医薬品を十分かつ持続的に製造供給できる世界全体の能力を最大限に活かしてはいないことの現れでもあります。アルゼンチン、ブラジル、中国、マレーシア、タイなど、ジェネリック医薬品の生産能力が確立されている多くの高中所得国が、このライセンスの対象地域に含まれていないのです。

世界で感染者数の増加が続く中で、またしても制限つきのライセンス供与に直面し、残念な思いです。感染拡大を本気で抑え込もうとするなら、関連する医療ツールの利用が誰にとっても、どこであっても保証される必要があることは皆わかっています。

大部分の低・中所得国の公的医療は、これ以上ないほどひっ迫しています。新しい治療薬やその他の新型コロナ関連医療ツールへの公平なアクセスは、製造原価に近い価格設定と十分な供給量なしには考えられません。ファイザーは現在、階層別の価格戦略を検討していますが、不必要に複雑な仕組みであり、決定権を全面的に製薬会社に握られたまま、多くの国で比較的高額な設定になることは、MSFの経験からも目に見えています。

ファイザーは、新型コロナのmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン技術を広く共有することに抵抗を続けており、今回の治療薬についてもごく限られた動きしか見せていません。この飲み薬への公平なアクセスに貢献するという約束を本当に果たそうというのであれば、制限付きの自主的なライセンス締結ではなく、ジェネリック薬の製造と競合を妨げずに受け入れ、パンデミックが収束するまでは、知的財産の独占を一切放棄すると宣言すべきです。また、リトナビルそのものと、他の薬との併用のいずれについても新たな独占を求めるべきではありません。リトナビルはHIVとともに生きる人びとにとって、いまも複数の抗レトロウイルス薬治療法の大切な構成要素なのです。

真に世界中の公平なアクセスを実現し、1人でも多くの命を守るためには、各国政府がこの新たな薬に一切の特許を認めず、今後もすべての新型コロナ治療薬のジェネリック製造に対し全世界で制限がかからないようにすることです。来る11月末のWTO閣僚会議でTRIPS協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)における知財保護義務の免除案を採択することなど、引き続きあらゆる手段を講じていくことが極めて重要です。

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