北大は肉用牛も育てている?「北大短角牛」販売 ―「北大生にもっと知ってほしい」河合正人准教授(静内研究牧場)【#北大discover】

静内研究牧場で育てられている日本短角種(河合准教授提供)

本学は、新ひだか町にある北方生物圏フィールド科学センター静内研究牧場で育てられている牛「日本短角種」を「北大短角牛」として、9月からインターネットで販売を開始した。静内研究牧場では古くから肉牛を草食動物として、穀物にできるだけ頼らず草で育てることをコンセプトに飼育方法を研究している。

「#北大discover」第5回では、静内研究牧場で牧場長を務める河合正人准教授に話を聞いた。また北大新聞では実際に北大短角牛を実食した。

草で育った肉が受け入れられるよう、一石を投じる

静内研究牧場は札幌から南東に位置する新ひだか町にあり、肉牛を約150頭、馬を約100頭飼育している牧場だ。元々戦前は宮内庁管轄の御料牧場で、戦後に文部省が買い取り、1950年に本学の所有になった。牧場は山の中にあるため傾斜地で、搾乳のため毎日乳牛を集めてくるのは難しく、肉牛を飼い始めた。

山に囲まれ、傾斜地になっている静内研究牧場(同准教授提供)

「草食動物を飼うということはイコール、草を食べることができる家畜を飼っているということ。私たち人間は草を食べて生きていくことはできないけれども、草食動物は人間が利用できない草を食べて、人間が利用できるミルクなり、肉なりを作ってくれる。ある意味で当たり前だが、草食動物を草で飼うということがコンセプトにある」と河合准教授。札幌キャンパスでの乳牛の飼育も、このコンセプトを共有している。

現在、牧草で草食動物を飼うことは当たり前ではなくなってきている。同准教授によると、道内で飼育されている乳牛に関してもおよそ半分が牧草由来、残りは輸入穀物で、肉牛に至っては9割程度を輸入穀物に頼っているという。静内研究牧場ではそうした中、放牧に出せる5月から11月までは牧草だけで、牧草が育たなくなる冬場は場内で作った干草と家畜用デントコーンを発酵させた飼料をメインに使い、牛を育てている。

河合准教授は「一般消費者の中では、牛は草を食べるから草で飼っている、北海道だからみんな放牧で飼われているというイメージが強いと思うが、全く違うのが現実」と話す。「一般に黒毛和種には大量に穀物を与えて霜降りの肉を作る。それは日本人好みの牛肉を作るという日本人が編み出した技術であって素晴らしいものだが、肉の多様性として草で作ったお肉があってもいい。色々なタイプの肉、牛乳、乳製品があってもいいというのが私たちの考え」と語った。

しかし、牧草で育てた肉は比較的硬めで、脂肪も牧草に含まれるカロテンの影響で黄色っぽくなりやすく、日本では好まれないため価値も下がる。「そこを変えるのは大変だが、ちょっと一石を投じたい。(研究の)ゴールという意味ではこういう肉が市民権を得て一般の方に食べてもらえる、理解してもらえるということになる。今現在はスタート地点だ」。

簡単ではない「放牧」

草が生えているところに放牧すれば、勝手に食べてくれるから楽に飼えるのではないか、というイメージがあるかもしれない。しかし現実はそう上手くいかないという。農場のおよそ7割が森林で、川もあり野生生物も生息している。家畜の行動、放牧地の植生・環境変化、生態系への影響など様々なことを考慮しなければならない。

牧草は季節だけでなく朝と晩でも栄養価が異なる。また、牛や馬は全体的に満遍なく牧草を食べてくれるわけではなく偏った場所にしか移動しないこともある。そうすると一部の草地だけが荒廃したり、その一方で成長しすぎて栄養価が下がったりと影響が出てくる。また、一部だけにふん尿がたまれば、雨で流れたときに川や海を汚染してしまう恐れもある。

そうしたことから、河合准教授は「放牧をすればサステナブルで環境にやさしいというのはイメージで、一歩間違うと環境破壊にもつながる」とした上で、「野生動物、それらが住んでいる森林、土壌、水に影響が小さい飼い方を考えなければならない。そこまで研究の手は正直回らないが、頭の片隅には必ずそれを置きながらやっていかないと持続的だとは言えない飼い方になってしまう」と話した。

短角牛の今後は

静内研究牧場で育てられた肉は以前から一般に出荷されていたが、本学で生産されていたことや、草で育てていることなどについては全く公表されずに北海道産の日本短角種として流通されてきた。脂肪分が少なくヘルシーだがジューシーなことからサーロインなどの高級部位は売れるものの、バラなどの部位が売れ残ってしまっていた。全ての部位が売り捌けないこと、加えて出荷量が少なかったことから食肉業者から敬遠され、数年前に買い手を一つ失ってしまったという。

色々なところを探し回った結果、ようやく買い手として全国チェーンの飲食店が見つかり、春のフェアとして一部地域で北海道産の日本短角種として出すことが計画されていた矢先、コロナ禍で断られてしまったという。さらに買い手を探したところ、別の業者が見つかり、昨年の北大マルシェCafé&Laboや校友会エルムを通じた販売につなげた。そして今秋、初めて北大の名前を冠して販売を始めることになった。

河合准教授は今後について「今回は高めの価格になってしまったが、学生でも買えるような価格帯で売る方法はないのか、という模索をしなくてはいけないと思う」と話す。また、日本では特殊な飼い方を世に広めたい一方で、その前に学生や教職員といった本学関係者に牧場の存在それ自体を含めて知ってもらいたいという。

「せっかく北海道に来て学生生活を送った学生に、実は北大ってこんなに広大な面積の牧場を持っていて牛と馬を飼っていて、草で肉を作るという特殊な飼い方をしていることを雑学程度でもいいので知ってもらいたい。極力値段を下げて、安く学内の関係者に食べてもらえるようにして、それをきっかけに普段食卓に上がっている肉、卵、牛乳も含めて、畜産食品のことを考えてもらえるようなきっかけになってほしい」と話した。

いざ実食

今回、本紙記者が実際に「北大短角牛」を購入。すき焼きをまず実食した。濃い赤身の肉で、確かに霜降りの和牛のような柔らかく舌で溶けるといった肉質ではなく、しっかりとした歯応えのある食感だった。しかし、牛肉独特の臭みは少なく、牛肉の飾らない旨味を味わうことができ、噛めば噛むほどその美味しさを感じられた。

北大短角牛で作ったローストビーフ(記者調理)

また、ローストビーフとしても頂いた。まず、力強い肉の味を感じた。しかしくどい味ではなく、何もつけずに味わいたくなる。そして、食べた後に鼻に抜ける香りがよかった。食感の第一印象としては柔らかく、噛んでいると硬さはあるものの、放牧と草で育てられ肉が引き締まっていることを感じることができた。

(11月27日 一部訂正いたしました)

© 北海道大学新聞編集部