納付された電話料金でヤミ金を営んでいた北朝鮮の電話局員

勤め先の備品を盗み出せば犯罪になるのはどこの国でも同じだろう。もちろん北朝鮮とて同じだが、過去30年間、この手の犯罪が後を絶たない。

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころ、食うや食わずの状況に追い込まれた人々が、勤め先の設備などを勝手に売り払って現金化し、食いつないでいた。現行刑法に国家財産窃盗罪、国家財産詐取罪、国家財産横領罪、国家財産大量略取罪などと、国家財産を盗み出すことに関する条文が多岐に渡って存在しているのは、このような現状を反映したものと言えよう。

当時ほどではなくとも、深刻な食糧難、経済難が続いているコロナ禍の北朝鮮では、同じような犯罪が多発しているようだ。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

咸興(ハムン)市電信電話局に簿記員として勤めていた30代女性のリ某は、2017年8月ごろから国家財産である電話料金に手を付けるようになった。

電信電話局は毎月の初め、固定電話を設置している個人宅から洞事務所(末端の行政機関)、人民班(町内会)を通じて電話料金を徴収する。出せなければ1ヶ月の猶予を与えるのだが、リはこのようにして遅れて納められた電話料金を着服していた。

リは横領したカネを使ってヤミ金を営んでいた。利子は10%で、200%、250%の利子を取る他のヤミ金業者に比べれば良心的と言えるだろう。徴収した電話料金は毎月末に平壌の逓信省に納めることになっていたが、きちんと納めてさえいれば犯行がバレることはない、はずだった。

市内の城川江(ソンチョンガン)区域に住むキム某から、通常より高い15%を付けて返すから600万北朝鮮ウォン(約13万8000円)を貸して欲しいと依頼を受けたリ。一般労働者の月給の1500ヶ月分、平均的な4人家族の1年分の生活費に当たる大金だけあって、貸すにあたってそれなりの調査が必要であるはずだが、きちんと調査を行ったのかは不明だ。

その借金を踏み倒されてしまったことで、逓信省に料金が納められなくなり、事件が明るみに出たのだ。リは今月4日、咸興市安全部(警察署)に国家財産横領の容疑で緊急逮捕された。

国家財産の横領も、ヤミ金も違法行為。重い判決は逃れられないだろうと情報筋は見ておいる。最高刑は無期懲役だ。ちなみに、横領容疑で先月摘発された両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)駅の支配人は、横領額の3倍の弁証で済まされた。

そもそも国家財産の窃盗、横領が横行する背景には、子どもの小遣い銭ほどにしかならない額の月給しかもらえないことがある。かつて、食料品から生活必需品、住宅に至るまでほとんどのものを国からの配給で賄え、現金があまり必要なかった時代の名残だが、配給システムが崩壊した今は、4人家族が1ヶ月暮らすのに125ヶ月分の月給が必要だ。

まともな給料を払おうにも国にも勤め先にも財源がなく、この手の犯罪が途絶えることはないだろう。

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