シェア工房 シガ-シガ ~ 書家、パティシエ、がまぐち作家。3人の個性がかがやくオンリーワンの場所

福山市川口町の住宅街にある「シェア工房 シガ-シガ」は、書家、パティシエ、がまぐち作家という、まったく違うジャンルの3人が一緒に活動する場所です。

「シガシガ」とは、ギリシャ語で「ゆっくりゆっくり」の意味。

ここを訪れた人がゆったりと落ち着いた気持ちになるようにと名づけられたシェア工房は、まさにほっと安らげる居心地のよい空間です。

月に2日間だけ開かれるお店のようすや、3人の思いなどを紹介します。

月に2日間だけの店開き

3人が店を開くのは、毎月第2日曜日とその次の月曜日の2日間だけ

普段は、3人の制作拠点として使われています。

2021年7月から工房を借り、使いやすいようにリフォームをしてきた3人は、2021年10月に初めての店開きをしたのです。

2回目のオープンとなった、2021年11月14日(日)と15日(月)に行ってきました。

書家 小迫 柳雪(こさこ りゅうせつ)

たくさんの作品が、展示販売されています。

前衛書道や、インテリアにもあう英字の書、絵など、書の楽しさを感じさせる作品が中心です。

「絆」
「鳳」

命名書や贈り物などの依頼も受けつけています。

この日のワークショップは、「クリスマスのフレーム作り」。

ワークショップで気軽に書を体験してみませんか。

ハガキサイズの紙に「聖」「noel」など、好きな字を書いてフレームに入れると、落ち着いた雰囲気のクリスマス飾りができあがります。

さっそく挑戦してみました。

お手本を見せてくれる小迫さんをよく観察し、真似して書いてみるのですが、同じようにはできません。

何度も何度も書くうちに、少しコツがわかってきます。

書くこと数分、心の中にある余計なものがそぎ落とされていくような感覚が訪れました。

これが書の魅力なのですね。

何枚か書いたなかから1枚を選んで、仕上げます。

筆にたっぷりと絵の具を取って弾いて散らし、接着剤でラインストーンを貼りつけました。

額に入れるとなかなかじゃない?と自画自賛。

大満足の体験でした。

2021年12月のワークショップでは、お正月に使えるものを考えているとのこと。

毎月体験しても飽きないよう、季節に合わせて準備するそうです。

おやつ工房 スリール

玄関の右にあるもう1つの入り口を開けると、おやつ工房 スリールです。

建物の外観からは想像できない、温かみを感じさせる木の棚と深みのある色に塗られた壁。

この空間で、一つひとつていねいに作られたおいしいおやつが待っています。

スウィートポテトに使われているのは紫芋です。

きれいに焼き上げられた表面をフォークで崩すと突然現れる、鮮やかな紫色に驚きます。

ひとくち食べて、その口どけのよさと体にじわっと染み込んでくる芋の旨さにまた驚くのです。

看板商品のタルト。

その繊細な美しさに、目と心を奪われました。

どれにしようか、しばらく悩んで選んだのは、りんごタルトと栗タルトです。

巧みに引き出された果実の爽やかさと、味わい深い生地のザクッとした食感、そして優しいフィリングのバランスがたまりません。

初めてタルトの魅力を知りました。

クッキーやメレンゲなどの焼き菓子も充実しています。

バタークッキーを食べましたが、とにかく美味!

冷蔵ケースの中には、かぼちゃのチーズケーキやプリン、シュークリームが並びます。

ゆるめであっさりとしていながらもコクがある、こだわりたっぷりのプリンは、ただシンプルに「プリン」と呼ぶのはもったいないような逸品です。

お店の名前にある「スリール」はフランス語で「笑顔」という意味

食べると笑顔になる、そんなおやつがここにあります。

Gamaguchi studio Y&M(がまぐちスタジオY&M)

オリジナルデザインのがまぐち作品を製作する、Gamaguchi studio Y&M

工房の入り口を入って引き戸をあけると、たくさんのがまぐち作品が目に飛び込んできます。

どれも他にはない、味わいのある作品ばかりです。

試作をして実際に何日か使い、改良を重ねて生み出されたものだけが並んでいます。

ここにあるものを購入するほか、このデザインでこの色が欲しい、革はこちらで、などのオーダーも可能です。

たくさんの工夫が施されたボディバッグは、人気の作品のひとつ。

各所にあしらわれたファスナーやボタンで、さまざまな使い方ができます。

布を折りたたんだ構造なので、たくさんモノが入るのもおすすめのポイントです。

お店が開く日にはワークショップがあります。

この日に用意されていたのは、アルコールジェルやハンドミルクなどを入れる小さなボトル用の牛革カバー。

上質のレザーをひと針ずつ手縫いで仕上げるボトルカバーは、世界でたった一つの大切な相棒になることでしょう。

毎月第2日曜日とその次の月曜日の2日間だけ開く、シェア工房シガ-シガ。
詳しい情報は、Instagramで確認してください。

シガ-シガの温かい雰囲気の秘密を知りたくて、3人にお話を聞きました。

シェア工房 シガ-シガ 3人の作家にインタビュー

それぞれの個性が光る3人の作家たち。

そもそもなぜ、まったくジャンルの違う3人が集まったのか、3人が集まったことで何が生まれたのかなど、気になることばかりです。

書家小迫 柳雪(こさこ りゅうせつ)さん、パティシエ浅並 裕子(あさなみ ゆうこ)さん、がまぐち作家山田 恵(やまだ めぐみ)さんの3人に、じっくりとお話を聞きました。

シェア工房が生まれたキッカケとは

──3人はもともとお友達だったんですか。

山田(敬称略)──

私と浅並さんは子どもが同級生で顔見知りではあったんですね。

でも、子どもが学校にいるときにはそれほど交流はなかったんです。

そのあとで、知り合いが開いたパンとお菓子のお店に行ったら、浅並さんがいてびっくりしたの。

浅並(敬称略)──

あの頃からちょこちょこと顔を合わせるようになったよね。

山田──

そう。それで、浅並さんのお店に私のがまぐち作品を置いてもらったりしていました。

──なるほど。おふたりは以前からのお知り合いだったんですね。では、小迫さんとは?

山田──

もともと私がこの奥の工房を借りていたんですが、ここを使っていたかたが引っ越すことになって。

この前を通らないと奥の工房に行けないので「あなたの知り合いで借りる人がいないか探してみたら?」って言われたんです。

それで浅並さんに声をかけたら「ここは1人じゃ広すぎる」と。

じゃあ、誰か使ってくれないかなと探していたところ、田尻町のギャラリー器さんから、小迫さんを紹介してもらったんです。

小迫(敬称略)──

私も創作できる空間が欲しくて、ギャラリーのかたに「いい場所があったら教えて下さい」と相談していたのですが、たまたま私がお話をしたその日に山田さんがギャラリーに来られて、それですぐに連絡を頂いたんですよ。

それまでにご挨拶程度でお会いしたことはあったので、山田さんとなら!って。

──なんと!縁というか、運命的なものを感じます。

小迫──

本当に、ご縁ですね。

山田──

小迫さんに初めてお会いしたときはほんの短い時間でしたけれど、書を勉強するために大阪まで行く、っていうお話をされていてすごく印象に残っていたんですね。

それで、あの小迫さんなら、と思って。

2021年の7月から3人でここを借りてリフォームして、今の工房になりました。

この机も自作したんですよ。

──すごいです!この障子もステキですね。

小迫──

初めて障子に書いてみたんですが、何かあったほうがカッコイイかなって。

──浅並さんのお店もとても雰囲気があります。

浅並──

天井をリフォームしたり、壁を塗装したりしました。

シェアすることで生まれるものとは

──3人で工房をシェアされて数か月経ちますが、どんな感じですか。

山田──

3人それぞれが、独立したスペースで制作していますし、活動している時間もそれぞれ

多分それでストレスなく一緒にやれていますね。

お店も月に1回のペースですし。

──お店を開くとき以外は、それぞれの制作場所ということですね。

山田──

私はここを作品の展示スペースにしていて、制作は今まで通り奥の工房なんです。

お客さんが来るときと、がまぐち教室をするときはここで。

小迫──

私は仕事を終えてからここに来て書いたり、書道教室として使ったり。

それまでは家でやっていましたから、大きな作品を書く十分なスペースがあるのはうれしいです。

──なるほど。月1回のお店の感触は、いかがでしょうか。

山田──

Instagramでしか告知してなかったのですが、10月には2日間で50人ぐらい来てくださいました。

小迫さんの知り合いのかたが私のワークショップに参加したり、浅並さんのお菓子を買いに来たついでにこっちに寄ってくださったり、今まで接点のなかったかたに見てもらえるようになったのはうれしいですね。

──みなさんがまったく違うジャンルだからこそ輪がどんどん広がる、ということですね!

山田──

1人でやっていたときには月に1回お店を開けても誰も来ないかも、と思うと開けられなかったのですが、一緒にやっていく人がいて心強いです。

浅並──

ここの前には、姉の庭に建てた3畳ほどの小さな工房でお菓子を作っていて、お店としては使えないから予約だけでやっていました。

こうやってお店を開くと目の前で「わあ美味しそう」といって買ってもらえる

それがとても楽しいです。

連絡先

開店日以外の連絡は、それぞれDMで受けつけています。

  • 小迫:Facebook
  • 浅並:Instagram
  • 山田:Instagram

3人それぞれの、これまでとこれから

ここに集まるまでのそれぞれの背景や、これからやっていきたいことなどを聞きました。

書家 小迫 柳雪さん

──いつから書道を?

小迫──

小学生のときに近所の書道教室に行ったのが始まりです。

中学までその教室に通って、高校で書道部に入り、書道科のある広島の大学に進学して、書道の専門のコースで学びました。

それからいったん社会人として普通に就職をしたんですが、やっぱり書くことが好きなんです。

趣味でも何かしら続けたいなと思って、先生を探して習ったり、自分でも書いてみたり。

小迫──

書道には古典的なものや前衛的なもの、インテリアとして飾れるようなものなど、いろいろなジャンルがあるので、習いながら幅を広げていっています。

「鳳」や「絆」の作品は、産経国際書展や東洋書芸院展で入選しました。

今後は自分でも発信したり、教えたりしたいと思っています。

──前衛書には躍動感がありますが、書き方のルールはあるんでしょうか。

小迫──

古典の基本の字を参考にしながら崩しているんですが、特に決まりはないですね。

山田──

小迫さんの書、なんて書いてあるのか最初は全然わからなくて、あれは何だろうっていつも言ってたよね。

浅並──

「茄子」かな、そんなわけないよねってね。

小迫──

清潔の「潔」(笑)。

前衛書はわかりにくいですよね。

自己満足の域を出ないのかもしれないです。

浅並──

いやいや、他の人が同じのを書けないから、オリジナルになるんよ。

山田──

そうそう。私は小迫さんのセンスが大好きなんです。

「潔」

パティシエ 浅並 裕子さん

──お菓子を作るようになったのはいつからですか。

浅並──

小さい頃、箱に入っているプリンの素が大好きでよく作っていました。

今お店で出しているプリンも、あのゆるい感じをイメージしています。

浅並──

その頃うちにはオーブンがなくて電子レンジしかありませんでしたが、電子レンジでもシュークリームって作れるんじゃないかと思ってやってみたんですよ。

最初はふわーっと膨らんで、あっできる!と喜んだのもつかの間、シューッとしぼんでしまって。

まあ、出来ないですよね(笑)。

それでも、いろいろとお菓子を作っていましたが、中学生の時にお小遣いを貯めて温度調整機能のついているオーブントースターを買いました

それを使ってスポンジケーキを焼いたり、クリスマスのお菓子を作ったり。

──お小遣いでオーブンを!

浅並──

みんなが美味しい美味しいって食べてくれるので楽しくなりましたね。

子育てをしている間も趣味でお菓子を作っていたのですが、30歳目前になって、なにかやりたいと思ってカフェの仕事を始めたんです。

そうするとお菓子に触れる機会が増えて、もっとやってみたくなりました。

市内のケーキ屋さんで技術を学んだ後、自分のお店を持ちたいと考えるようになったんです。

それで勉強して製菓衛生師の免許をとって、お店を構えました。

でも、何年かやってみるといろいろとしんどくなり、もうお菓子作りからは離れよう、と。

それなのに、やめたらまたなんだかやりたいっていう気持ちがふつふつと沸いてくるんですね。

それなら焼き菓子とタルトを少しずつ作ろうか、と始めたのが姉の庭の小さな工房。

やり始めると、やっぱり直接お菓子を置いて販売できる場所があるといいなと思うようになり、今に至ります。

そんなようすでしたので、とりあえず無理をしないようにやっていくつもりです。

がまぐち作家 山田 恵さん

──なぜ、がまぐちの作品を作るようになったのですか。

山田──

私はもともと手芸が好きだったわけでもなくて、趣味はむしろ木工のほう。

だから、机とか玄関の踏み台とかは楽しんで作っています。

高校を出てから化粧品の会社で20年ぐらい働きました。

この間に、結婚して子どもを産んだのでパートになったのですが、途中で主人が会社を興す(おこす)ことになり、手伝ってほしいというので辞めたんですね。

そうしたら、リーマンショックがあって、そんなに手伝うこともなくなっちゃったんです。

そんなときに、たまたま見つけたがまぐちキットを買って作ってみたら、あら、がまぐちって難しそうだけど作れるのね、ってわかって。

山田──

トートバッグなんかだと、見たら真似して作れるんですよね。

でも、がまぐちって難しくて、何度も失敗しないと作れないんです。

だから、きっとみんなも難しそうだと思うだろう、普通の人はここまで頑張ってがまぐちを作りはしないだろう、だから私はがまぐちを作ろう、と考えました

──他にいないから、ニッチながまぐちを狙って、ということですか。

山田──

それもありますし、がまぐちはそう簡単に真似できない、見たからといって真似できるものではないから、ビジネスになると思ったんです。

──なるほど。デザイン的にも唯一無二ですよね。とくにバルーンバッグがかわいくて気になっています。

山田──

あれは、最初にこれでやっていけるかなと思った作品です。

tetoteというハンドメイドのサイト(現在はminneに統合)のコンクールに出すために考えたものなんですが、最終選考まで残りました

入選はしませんでしたが、これはお客さんに受け入れられるんだと確信できたんです。

帆布のバルーンバッグ。荷物が増えるとプリーツが広がるように作られている。

──ネットショップでの販売がメインですか。

山田──

以前はネットショップだけでしたが、今は個展をしたりここで販売したり、と半々ですね。

ネットショップのお客さんから、もう一回り大きいのを作ってもらえないかとか旅行用の鞄を作れないかとか、いろいろなリクエストを聞いてやってきたおかげで、だんだんとバッグのバリエーションが増えてきました。

──何度も試作を繰り返されるそうですが。

山田──

作ってみて、ここを1ミリ出そうとか2ミリにしようとか、製図をミリ単位でどんどん変えていきます。

そうやってできた試作品は、実際に使ってみるんです。

たとえばこのバッグは銀行に行くときに使うだろうなとか、お買い物に行くときに使うなと思ったら、銀行や買い物に持っていきます。

封筒を入れたら5ミリ出るなとか、使ってみて初めて気がつくんですよ。

それで、封筒が収まるように1センチ深く改良する。

些細なことなんですけど、そうやってその些細なストレスをなくす工夫を重ねています。

浅並──

だからすごく使いやすいんですよ

私は1年ぐらい前にバッグを作ってもらったんですが、他にもバッグを持ってるのに、今はずっとそればっかり(笑)。

うちの夫も、まだ布で作っていた初代のコインがまぐちをずっと使っています

小さいのにコインがたくさん入るからこれがいいんだって、1回ボロボロになったのを作り変えてもらい、それがまたボロボロになったから、今度は革で作ってもらいました。

──真摯(しんし)な姿勢が使いやすさにつながって、お客さんの心を掴んでいるのですね!

ジャンルの違う3人が集まって、新しいモノが生まれる

書家、パティシエ、がまぐち作家。

経歴もジャンルもまったく違う3人の作家が集まっているからこそ、新しい交流が生まれています。

お互いに刺激しあい尊重しあって、程よい距離を保ちながら、ともに進む3人。

その空気感は、まさに「シガシガ」(ギリシャ語で「ゆっくりゆっくり」の意味)であり、あたたかさに充ちています。

ここで生まれるモノから、目が離せません。

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