中小企業版「私的整理ガイドライン」、議論加速を再確認

 金融庁は11月24日、「中小企業等の金融の円滑化に関する意見交換会」を開催した。
 政府から鈴木俊一・金融担当大臣、石井正弘・経済産業副大臣らが出席。金融機関等からは、髙島誠・全国銀行協会会長(三井住友銀行・頭取CEO)らが出席した。

政府、引き続き万全の資金繰り支援を要請

 冒頭、鈴木俊一・金融担当大臣がコロナ禍が長期化するなか、経済社会の立て直しには資金繰り支援に加え、経営改善や事業再生、事業転換支援等の必要性が高まっていると強調。「成長と分配の好循環」を目指す岸田内閣の下、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を閣議決定したことに触れ、事業者への支援を含め、国民が豊かに生活できる新しい資本主義の実現に全力で取り組むと述べた。

 金融機関には年末・年度末に向け、引き続き苦境に直面した事業者へ万全な支援を行うことを要請。各地域の支援機関が協力・連携し、地域全体で実効性のある事業者支援体制を構築していくことも重要と述べた。

 石井正弘・経産副大臣は2022年3月まで政府系金融機関による実質無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)や危機対応融資の継続が決定したことや、セーフティネット保証制度(4号)が延長されたことに言及。官民の金融機関にこれらの措置も活用しつつ、返済期間、据置き期間の長期の延長などの条件変更、借換などの相談に迅速かつ柔軟に対応し、引き続き中小企業の資金繰りを強力に支援することを要請した。

 経済を成長軌道に乗せるためには、中小企業の身近な存在である金融機関の伴走支援が重要であるとし、事業再生や事業転換を必要とする事業者の財務基盤の強化のため、官民金融機関の連携による資本性劣後ローン利用の促進も求めた。

宮原先生

‌鈴木俊一・金融担当大臣

公的制度を活用し、官民協調で事業者を支援

 金融機関側からは、髙島誠・全国銀行協会会長が、半導体不足や資源・資材価格の高騰などの状況下において、年末の資金需要への対応を含め、銀行も資金繰り支援を最優先にすると述べた。また、債務の過剰感が増している事業者の事業再生も銀行の責務であること、「中小企業の事業再生等に関する研究会」の開催や、新たな中小企業の私的整理等のガイドラインの作成にも言及した。

 柴田久・全国地方銀行協会会長(静岡銀行取締役頭取)はウィズコロナ・ポストコロナ時代に適応するためには、資金繰り支援に加え、経営改善や事業転換、事業再編等に取り組む企業への経営支援を行うことも重要な課題との認識を示し、事業再構築補助金などの公的制度を効果的に活用し、取引先に寄り添い伴走しながら地域における課題解決へ力を注ぐとした。

 御室健一郎・全国信用金庫協会会長(浜松いわた信用金庫会長)は、「事業再構築補助金など企業を後押しする施策の継続」、「マネロン等対策に関する情報発信の強化」、「預金保険料率の大幅な引き下げについての配慮」の3点を政府へ要請した。

 特に、マネロン等対策については対応への資金負担が大きいことを述べ、顧客情報の更新については顧客の理解と協力が不可欠にも関わらず、認知度の低さから協力してもらえず対応に苦慮しているとの現場の声にも触れ、政府には金融機関との取引の際には定期的な顧客情報が必要である旨を周知してほしいと強調した。

 田中一穂・日本政策金融公庫代表取締役総裁は、今現在は落ち着いているものの、コロナ禍でピーク時には通年の20倍の融資の申請があったことを踏まえ、融資後のフォローアップの重要性に言及。また、約4400件の資本性劣後ローンの実績にも触れ、引き続き官民協調での事業者支援を行っていくとした。

 安藤立美・全国信用保証協会連合会会長は、伴走支援型保証制度の取り扱いを開始したことを説明し、経営改善支援に金融機関との連携強化を図り、来年度から利用開始予定で現在策定に向けての議論が進められている中小企業の私的整理等のガイドラインについても、趣旨を踏まえて対応していくとした。また、昨今の原油価格の高騰で経営に支障が出ている中小企業者向けに特別相談窓口を開設することも紹介した。

意見交換では、金融機関からの要請に対し、宗清皇一・内閣府大臣政務官が回答。

 1点目は、政府の政策として、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」をもとに、事業復活支援金や地域金融機関による人材マッチングの後押しなど必要な取り組みを行う。

 2点目は、マネロン等対策における継続的顧客管理について、8月に公表されたFATF対日審査報告書でも義務を完全に実施すべき旨の勧告がなされていることに触れ、金融庁としても金融機関への対応をお願いするとともに、各業界団体と連携し、マネロン等対策にかかわる確認手続きの周知のため広報活動を行っていくと強調。また、マネロン等対策の高度化・合理化に向けた共同システムの実用化の検討にも取り組んでいると説明。業界団体の意見も参考にし、金融機関への負担にも配慮しつつマネロン等対策の強化に努めていくと述べた。

 3点目は、預金保険料率について、預金保険機構では中長期的な預金保険料率のあり方の検討のために、金融業界も参加する預金保険料率に関する検討会を設置し、7月以降、順次検討会を開始している。預金保険料のあり方について、金融業界において様々な意見があることは承知しており、様々な角度からしっかり検討が進められる必要があるため、今日の意見も含めて今後の金融行政を進めるとした。

 黄川田仁志・内閣府副大臣は、伴走支援型特別保証制度の上限引き上げなど、政府の対応も紹介し、事業再構築補助金等の政府支援施策や政府系金融機関による資本性劣後ローンの積極的な活用に一層注力するとともに、事業者の経営状況を丁寧に把握し、経営者保証に依存しない融資の促進に努めることを要請した。加えて、全銀協を中心に検討中である私的整理等のガイドラインの策定についても、政府も助力を惜しまないので闊達な議論を継続してほしいと述べた。

 最後に、依然として厳しい資金繰りの事業者がいることを踏まえ、年末・年度末の資金繰り支援に万全を期すよう再度強調し、閉会した。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年11月29日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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