ニューヨーク仕事人名鑑 #33 山本英一さん

困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。

※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。


ノーホーにある「ジャパン・プレミアム・ビーフ」メインストアの2009年立ち上げ当初から、店舗運営や肉の供給に携わってきた山本英一さんは、この街でいかに“和州牛”の認知が広がってきたかをその目で見てきたという。 和州牛を自社農場で肥育し、ニューヨークの地で直営販売する日系食肉業者は、当時も今も希少な存在だ。 「来米当初は、アメリカ国内で飼育された和州牛も日本の和牛もニューヨーカーにとっては全て「神戸ビーフ」でした。でも今では彼らも『これはA5ランクか?』と聞いてきたり、以前に比べて非常に知識がある。その方が本当に良い肉を提供するかいがありますよね」と笑みをこぼす。 潮目を変えた“ローカライズ” 全国のスーパーや百貨店で展開する日本の精肉小売店で、肉を切る人として12年間働いてきた山本さんは、ある日「アメリカでの精肉事業立ち上げに参加してほしい」というオファーを受けたそう。オーストラリア留学の経験から、心の奥底で「いつか英語を使う場所で仕事をしたい」と望んでいた山本さんにとっては願ってもないチャンスだった。「挑戦してみる価値はある」といざニューヨークに乗り込むが、新天地でのスタートは予想以上に苦戦を強いられた。 「日本のスタイルの盛り付けや店のレイアウトが話題にはなるのに、なかなか買ってくれない。廃棄も絶えず、どうしたものかと頭を悩ませていましたね」と山本さん。 そんな中、一人の客の一言にはっとした。「見た目はきれいだけど何の肉かわからないし、肉が薄過ぎるよ」。ステーキやバーベキューなど、厚い肉を好むアメリカ人にとっては、すき焼きやしゃぶしゃぶ用にカットされた薄切り肉では使用用途がないことは盲点だった。 それからは対面のオーダーカット販売に切り替え、一気にローカライズ。一度に1インチ幅のステーキ肉を4枚注文するニューヨーカーの豪快さに驚きながらも、徐々に客足を伸ばすことができたという。 肉を切るプロでありながらも、自ら店のレイアウト作りからレストランへの営業まで行う山本さんは、「肉は人々の日常に欠かせないもの。そういう意味ではエッセンシャルワーカーですよね」と自身の仕事に誇りを持つ。 世界に和州牛の良さを届けたい コロナ禍では、レストランの休業や閉店に伴い、ホールセールの売り上げががくっと落ちた時期もあったが、最近は新規の引き合いが増えるほどに回復した。 「ようやく和州牛が浸透してきたという実感があります。和州牛を知ってもらうことで、次は国産和牛を食べてみたいという好奇心も生まれてくるはず。そういった需要に先回りできる土壌を作っていきたいですね」。 客の知識が増えたことによって、「品質にもより磨きをかけなければ」と意気込む一方で、12月にはブルックリンの新店舗オープン、ホリデーシーズンも控え、繁忙期は目前だ。「今後は東海岸全域や欧州にも出店していけたら」。 実は大学時代は芸術学部で油絵を描いていたという山本さん。アートや音楽があふれるニューヨークの街を満喫しながら、まだまだ山本さんの挑戦は続きそうだ。

山本英一さん 「Japan Premium Beef」ジェネラルマネージャー

来米年: 2008年 出身地: 福岡県 好きなもの・こと: ジャズバー巡り、映画鑑賞 特技: 肉を切ること、ラグビー

1996年、日本の精肉小売会社に入社。 2008年に来米後、09年より「Japan Premium Beef」の店長として配属。 14〜18年、ロサンゼルスのUS和牛(和州牛)供給先での営業を経て、19年より同社ジェネラルマネージャーに就任。 japanpremiumbeef.com

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