がん細胞が免疫細胞のミトコンドリアを「吸い出して」成長することが判明 米研究グループ

 アメリカの有名工学系大学と病院の研究グループが、がん細胞が自分たちを攻撃する免疫細胞へナノレベルのチューブを伸ばし、その「ミトコンドリア」を吸い出して弱体化させ、自身は成長することを突き止めた。研究グループでは、今回発見したがん細胞の動きを利用する新たな治療薬開発の可能性について言及している。

がん細胞が免疫細胞の「エネルギー源」を奪い取る

Credit:Tanmoy Saha et al . Intercellular nanotubes mediate mitochondrial trafficking between cancer and immune cells . Nature Nanotechnology (2021)

 研究成果を発表したのはマサチューセッツ工科大学(MIT)とブリガム・アンド・ウィメンズ病院の共同研究グループ。グループではがん細胞と免疫細胞を同じ培養地で共存させる実験を行なったところ、がん細胞が通常より2倍成長し、免疫細胞が減っていくことを発見。細胞のエネルギー産生や増殖力増強に、細胞内の「ミトコンドリア」が関係していることは以前より知られていることから、研究グループは「がん細胞が免疫細胞のミトコンドリアを奪っているのでは」と仮説を立て、見分けるために、免疫細胞(T細胞)内のミトコンドリアが緑色に発色するようゲノム編集し、改めて乳がん細胞とともに培養。電子顕微鏡で培養地内の様子を観察する実験を行なった。

 すると仮説通り、がん細胞が免疫細胞へナノレベルのチューブを伸ばして接続し、免疫細胞内のミドコンドリアを吸い出して取り込んでいる様子が観察された。細胞がこのチューブを伸ばして他の細胞と接続する動きは以前から知られているが、がん細胞が免疫細胞に対して行なっていることが観察されたのは世界初だ。

 研究グループではさらに、この動きを逆手にとってこのチューブが生成されないようにする阻害剤を与えれば、がん細胞の増殖を阻止できると考え、現在すでに実用化されている免疫チェックポイント阻害剤(PD-1)と、L-778123という阻害物質を組み合わせたものを培養地に投入したところ、免疫細胞のミトコンドリア減少、弱体化ともに起きなかったことが確認できたという。

 研究グループでは「今回のように免疫チェックポイント阻害剤と、ナノチューブ形成を阻害する物質を組み合わせることで、新たな治療薬開発につながる可能性がある」としている。

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