“ソフト界のイチロー”が現役続行を決めた理由 37歳を吹っ切れさせた上野由岐子の10球

表彰式に登場したデンソー・山田恵里【写真:荒川祐史】

20年で首位打者5度「オリンピックと同じペースで取れている」

2021年度日本女子ソフトボールリーグの表彰式が26日、都内のホテルで行われ、“女イチロー”の異名を取り、首位打者とベストナインを獲得した山田恵里外野手(デンソー)も表彰された。日本リーグ入り20年目で、今季限りでの現役引退が頭をかすめたこともあったと言うが、現役続行へ振り向かせたのは、1学年上の盟友・上野由岐子投手(ビックカメラ高崎)の存在だった。

37歳の山田は「まさか今年首位を取れるとは思っていなかった。まだまだやれるぞというところを見せられて嬉しい」と笑顔が弾けた。神奈川・厚木商高卒業後の2002年に日立入りし、シーズン打率4割台を7度記録してきたが、一昨年と昨年はいずれも2割台。20年目の今季、環境の変化を求めてデンソーに移籍すると、打率.361(61打数22安打)と打棒が復活し、自身6年ぶり5度目の首位打者に輝いた。「20年目で5度。4年に1度のオリンピックと同じペースで首位打者を取れていることが嬉しい」と周囲の笑いを誘った。

アテネ、北京に続き、今夏の東京で3度目の五輪出場を果たし、日本代表の主将を務めた。自身通算2個目の金メダルを手にした後は、「五輪が終われば自ずと、現役を続けるか、辞めるかの決心がつくと思っていたのですが、答えはなかなか出ませんでした」と頭を悩ませた。

究極の夢は「ヨーロッパでの国際大会開催」

吹っ切れたきっかけは10月24日。ビックカメラ高崎と対戦した今季最終戦の最終打席だった。マウンドには、五輪3大会を共に戦った上野がいた。「2ストライクに追い込まれてから、粘って10球勝負できた。ずっと同じ時代を過ごしてきた上野さんより、先に辞めてはいけないとその時に思いました」と明かす。いまや2人は、同じグラウンドに立っているだけでお互いが励まされ、背中を押し合える間柄なのかもしれない。

来年からは3部制・計26チームの日本リーグが再編され、東西2地区制・計16チームの「ジャパンダイヤモンドリーグ(JDリーグ)」へ生まれ変わる。上野と山田は新リーグの顔としても欠かせない存在だろう。

とはいえ、山田は来季以降、「選手としてもできることをやっていきますが、それ以上に、ソフトボールの普及に貢献していくことが私には求められていると思います」と強調する。ソフトボールは次回の2024年パリ五輪では再び除外されることが決まっており、28年ロサンゼルス五輪での復活へ向け、競技の世界的普及が急務である。

山田の究極の夢は「ヨーロッパでの国際大会開催に携わること」。それも、日本と米国が2大強国のソフトボールにとって、いかに欧州で人気を高めていくかが大きな課題だからだ。20年に渡って打棒を振るい続け、3度の五輪で日本を2度金メダルへ導いたレジェンドには、まだまだ求められている仕事がある。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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