<社説>子の貧困、虐待DB化 「取り残さない社会」実現を

 政府が子どもの貧困や虐待を防ぐため、家庭の経済状況など幅広い情報を一元化するデータベース(DB)を構築することになった。個人情報に関する指針も作成し、早ければ2023年度の全国展開を目指す。 背景には自治体部署間での情報共有の壁がある。これらを取っ払い、一元化することで困難を抱える子どもを早期に見つけ支援につなげる狙いがある。ただ岸田政権のデジタル改革の一環で、膨大な個人情報の管理・運用の妥当性をチェックする第三者の権限確保など課題が多い。

 こうした課題をクリアした上で実態に即した早期支援につなげることが重要だ。貧困や虐待に苦しむ子やその家庭に徹底して支援が行き届く仕組みを構築し「誰一人取り残さない社会」を各界各層一丸となり実現すべきだ。

 子どもの貧困・虐待対策には課題が多い。子どもや保護者が行政に助けを求めることに抵抗を感じることや、自治体で福祉や教育といった部門ごとにデータが分散して保管され、支援が行き届かないケースがある。

 情報一元化はその改善が狙いだが、十分な注意が必要だ。これまで個人情報保護制度は、自治体が「個人情報は原則、本人から直接収集」「犯罪歴や信教などの情報は原則収集禁止」など厳格なルールを条例で定めてきた。国がそれを集中管理すると監視社会化する恐れがある。国の運営を監視・監督する独立した第三者機関は不可欠だ。

 日本は18年時点で子どもの貧困率は13.5%。欧州諸国に比べて高水準とされる。この状況にコロナ禍が深刻な打撃を与えている。親の減収で子どもの食事量が減るなど貧困状態に陥ったり、虐待が深刻化したりしている。実態の把握が急務だ。

 沖縄はさらに深刻だ。県の算出では、16年の子どもの貧困率は29.9%。その後の調査で改善の兆しがあったが、コロナ禍で非正規労働者を中心に解雇・雇い止めが相次ぎ、失業率が上昇傾向にある。那覇市の就職・生活支援団体への20年度の相談件数は前年度の8倍に上る。「電気やガスを止められた」「食べるものがない」などだ。

 そもそも沖縄の経済は構造的問題を抱えている。県内の平均給与月額は22万円。全国で相対的貧困ラインとされる23万円より低い。脆弱な経済生活の改善が中長期的課題だ。その中でコロナ禍が追い打ちを掛けた。

 県は次期子どもの貧困対策計画で調査対象を、未就学から高校生までだけでなく、0~17歳の保護者を新たに加える方針だ。所得以外で困窮している状況や、困っている時に頼れる人がいるのかも把握し、つながる仕組み作りに生かす考えだ。

 実態把握と情報共有の際に重要なのは、申請を待たずに支援を打ち出すことだ。それでこそ情報を生かせる。

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