原田知世が歌う極上の映画主題歌「天国にいちばん近い島」  11月28日は原田知世の誕生日

原作は森村桂「天国に一番近い島」1966年出版の作品

「海をね、丸木舟を漕いで、ずうっとずうっと行くんだ。するとね、地球の、もう先っぽのところに、まっ白な、サンゴで出来た小さな島が一つあるんだよ。それは、神さまのいる天国から、いちばん近い島なんだ~」

この文は、今から55年前の1966年に、作家の森村桂さんが書いた旅行記『天国にいちばん近い島』の冒頭の一節である。私がこの本に出会ったのは1980年代初頭の中学2年か3年の頃。ハードカバーの角川文庫が揃えられたコーナーが学校の図書館にあり、そこに並んでいたのだ。

「天国にいちばん近い島って、一体どこだろう?」私はタイトルにひかれて手に取り、パラパラと頁をめくった。どうやらこの本は、20代の女性が外国の島に一人で行き、子供の頃に父親から聞いた冒頭の話を確かめた旅行記らしい。

当時の私はこの本を読まずに(借りずに)本棚に戻すが、冒頭の一節と、舞台が南太平洋のニューカレドニアという島ということは頭に刻まれた。 それから3年後の1984年。高校3年になった私は、意外な形でこのタイトルに再会する。原田知世が主演する角川映画と、その主題歌である。

映画監督は大林宣彦、主演は原田知世

この映画は、原田知世扮する女子高生の桂木万里が、父親から聞いた「天国にいちばん近い島」を探しにニューカレドニアを旅する物語。監督は『時をかける少女』を撮影した大林宣彦で、天国にいちばん近い島を主人公が探すという基本設定以外、原作と内容が異なるのも角川映画らしい。原田にとっては、前作「愛情物語」に続き3作目の主演映画だ。

中学の時に読み損ねた旅行記の映画化、ニューカレドニアでのロケ、しかも主演は人気が過熱していた原田知世。普通ならば満を持して観に行くはずだったが、残念ながら大学受験を目前に控えた高3の私には、その余裕がなかった。

数年後、社会人になってレンタルビデオでこの作品を観たが、すぐにストーリーは忘れてしまった。原作も読むには読んだが、感動はしなかったと思う。両方とも期待はずれだったのだろう。しかし、原田知世が歌う主題歌だけは別。高3でこの曲に出会って以来、美しい旋律に魅了されっ放しだ。

同名主題歌、ヒットメーカー林哲司が紡ぐ “泣きのメロディー”

映画の主題歌「天国にいちばん近い島」は、原田知世6枚目のシングルとして、映画公開より2カ月以上早い1984年の10月10日に発売された。作曲・作詞は林哲司と康珍化のコンビ。言わずと知れた昭和歌謡のヒットメーカーで、この年も中森明菜の「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「気のハートはマリンブルー」をヒットさせていた。前作「愛情物語」の主題歌も彼らの作品で、原田のディレクターを務めたCBSソニー(当時)の吉田格氏によれば、角川側が映画主題歌の作曲・作詞者を予め決めていたらしい。角川が主題歌を重視していたことがよくわかる。 そして吉田氏は、ソニーでは絶対的存在だった萩田光雄に編曲を依頼する。豪華布陣で作られた「天国にいちばん近い島」は、アイドル歌謡の中でもメロディーが美しい珠玉の一曲となった。

曲全体のファンタジックな作風は「愛情物語」と共通するが、こちらは旋律が素直で、トリッキーな要素がない。南国風で優しいギターの調べから入るイントロに続き、Cメジャーから入るAメロ、高音から低音へと大きく触れるBメロでは、メロディーに忠実に歌う知世の声の透明感が際立つ。そしてサビでは短調へと変わり、林氏が得意とする哀愁が漂う“泣きのメロディー”が奏でられる。サビの歌詞を引用する。

 Love 平凡な Love ささやきが  あなたのくちびる 宝石に変える  Love Let's Stay Together  Love だれよりも  天国にあなたいちばん近い島

康氏の歌詞はラブソングだが、私にはこの主人公が、日本から遠く離れた南国の島の砂浜で恋人を慕いながら歌っているように聴こえてならない。宝石、自分だけの神さま、星が降る、といった言葉も、メロディーと調和して切なさをかきたてる。特に「宝石に変える」の半音下がる部分(ソの#)が絶品で、何度聴いても胸をうたれる。

萩田氏は林氏が作る曲を「明るい部分と哀愁メロディーが混在していて、泣きのメロディが必ず入り、そこがグッとくる」と評しているが、この曲はその典型。林氏も「アイドルに提供した曲中で優れたものの一つ」と自賛していたらしい。天国にいちばん近い島を想像して作曲するうちに、天国からこぼれ出るように美しいメロディーが生まれたのだろう。

ニューカレドニア観光局の新ブランドに!時代を超えて語り継がれる作品

旅行記、映画に続く3作品目の「天国にいちばん近い島」は、オリコンで初登場1位を記録する。大ヒットした「時をかける少女」も2位止まりだったので、知世にとっては初の首位。そして、唯一の首位獲得曲となった。曲の印象が薄いのは、「時をかける少女」のインパクトが大き過ぎたのと、映画の人気が今ひとつだったからだろう。

しかし映画は、海外旅行ブームが本格化した昭和50年代後半の日本人に、ニューカレドニア=天国にいちばん近い島という印象を植え付けた。そして、多くの日本人が新婚旅行や観光でこの島を訪れ、ブームを巻き起こす。

それから35年後の2019年、ニューカレドニア観光局は「天国に一番近い島 ニューカレドニア」という新ブランドを発表。再びこのタイトルが脚光を浴びた。それを知った私は、久しく内容を忘れていた原作を読み、映画を見返した。そして、主人公が「天国にいちばん近い島」を感じたのはニューカレドニア本島ではなかった事実を知って驚き、表現上の問題で原作が絶版になっていることを知って、さらに驚いた。

それにしても、55年前に出版された旅行記のタイトルが映画になり、美しい主題歌を生み、観光用のブランドになったことに、時代を超えた言葉の力を感じる。私もいつか、天国にいちばん近い島に行き、星降る砂浜に寝転びながら、極上の主題歌を聴いてみたい。

参考文献・媒体 ヒットソングを創った男たち~歌謡曲黄金時代の仕掛人 / 濱口英樹(シンコーミュージック 2018年) ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代 / ・萩田光雄(リットーミュージック 2018年)

カタリベ: 松林建

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