語り継がれる名曲、松原みき「真夜中のドア」海外での高評価が著しいシティポップ  11月28日は松原みきの誕生日

海外で高評価のシティポップ、ストリーミング時代ならではのヒット現象

近年、海外での高評価が著しいジャパニーズ・シティポップ。その中で注目度を高めているのが、松原みきの「真夜中のドア~Stay With Me」。レコード会社の発表によると、2020年10月ごろからインドネシアやアメリカを中心に海外からのストリーミングサービスへのアクセスが急増し、同年11月に入って1日10万回以上の再生回数となっていたそうです。

これは、2018年ごろから世界的に注目を浴びた竹内まりや「プラスティック・ラブ」から、まりやの初期作品を辿ることで、竹内まりや「SEPTEMBER」(1979年)と同じ時期の同じ作曲・編曲者(林哲司)である「真夜中のドア」にもスポットが当たったこと、あるいは、こちらも2020年になって世界的に人気に火がついた菊池桃子のアルバム『ADVENTURE』(1986年)の全作曲・編曲を手がけたのが、やはり林哲司であることも大いに関係しており、現に「Tetsuji Hayashi」「CITY POP」というキーワードでのプレイリストも増えています。いずれにせよ、ストリーミング時代ならではのヒット現象と言えるでしょう。

累計10万枚のロングヒット、オリコン100位内に18週もランクイン

「真夜中のドア」は、1979年11月5日に発売された松原みきのデビュー曲で、当時は大ヒットではありませんでした。ただし、発売から2ヶ月近くたって同年末の12月31日付にてオリコン週間99位にようやく初登場。その後1980年3月3日付で最高28位をマークし、100位内に18週間もランクインして累計10万枚突破という息の長いヒット曲で、また同作を収録した彼女のファーストアルバム『POCKET PARK』(1980年1月21日発売)も同年3月に最高13位を3週にわたってマークし、こちらは100位内に22週間ランクイン(累計売上枚数9万枚以上)となっています。ですから、テレビやラジオで、ネクストブレイク・アーティストを追っていた早耳リスナーには、当時からかなり注目されていたのです。

イントロの「♪ To you… yes my love to you yes my love to you you~」といったさりげないボーカルから、軽やかなディスコ調のテンポでAメロ、Bメロとしなやかなメロディーが進み、サビ前に “チャチャ、チャチャ!” とリズムを刻んだ直後に、林哲司の必殺パターンでもあるロングトーンで一気に世界が広がるという、まるで “シティポップ・マニア” のために作られたような完璧な曲想です。

そして、三浦徳子による歌詞も素晴らしく、昔の恋人をまだ好きだったという気持ちが、何度も繰り返される「♪ stay with me~」で印象に残ります。当時大ヒットしていた、久保田早紀「異邦人」やクリスタルキング「大都会」といったミリオンセラーと比べると、強烈なインパクトこそないものの、だからこそ時間をかけてゆっくりと愛され、今もじわじわと世界中でリスナーを広げているのでしょう。

松原みき44歳で逝去、語り継がれる記憶の名曲

ちなみに、この「真夜中のドア」ですが、実はシティポップブーム以前から、多くのアーティストにカバーされ注目を浴びています。有名歌手が歌ったものだけでも岩崎宏美、中森明菜、広瀬香美、稲垣潤一、メロン記念日、唐沢美帆、中島愛、他にも中国の人気女優のイーフェイ、ユーミンカバーでブレイクしたA.S.A.P.、グラビアで一世風靡したかとうれいこ、と非常に多く、さらに、2020年にも、Ms.OOJAのカバーアルバム『流しのOOJA ~VINTAGE SONG COVERS~』や、今井優子の7インチのアナログ盤(2016年のベスト盤『SWEETEST VOICE』よりリカット)の発売が話題を呼んでおり、こうした動きも、“記憶の名曲” ゆえのヒット現象でしょう。

余談ですが、私はこの曲の歌詞「♪ 真夜中のドアをたたき 帰らないでと泣いた~」の意味が、当時まったく理解できていませんでした。一般的にドアをたたくのは外側から「開けてほしい」と願う時だと思っていたので。その後、大人になって、自分の部屋から去ってしまう恋人を追いかけられずに、部屋の内側から叶わぬ願いとしてドアをたたいたとして、自分の中で収まりをつけました。

しかし、ネットで検索してみると、「あのドアは部屋ではなく、車のドアではないか?」「本妻のもとへ “帰らないでと泣いた” のでは?」「あれは実際のドアではなく、心象風景ではないのか?」といった様々な解釈があり、サウンド重視でサラリと聴いても、このように歌詞を深読みしても楽しめるというのが、これまた昭和の歌謡曲の醍醐味です。

松原みき本人は、2004年10月に44歳の若さで逝去されていますが、彼女のお洒落な歌声が最初にあったからこそ、ゆっくりとロングヒットして、今こうして語り継がれている名曲になったことを思い返して、じっくりと堪能したいものです。

Song Data
■ 真夜中のドア~Stay With Me / 松原みき
■ 作詞:三浦徳子
■ 作曲:林哲司
■ 編曲:林哲司
■ リリース日:1979年11月5日
■ オリコン最高位:28位
■ 推定売上枚数:10.4万枚
■ 100位内登場週数:18週

Album Data
■ POCKET PARK / 松原みき
■ リリース日:1980年1月21日
■ オリコン最高位:13位(LP)
■ 推定売上枚数:9.0万枚(LP+CT)
■ 100位内登場週数:22週(LP)

※2020年11月15日、2021年10月7日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 臼井孝

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