NASA探査車が撮影。火星ヘリ13回目飛行の動画を公開

【▲火星の表面で初飛行の時を待つ火星ヘリコプター「Ingenuity」。火星探査車「Perseverance」が2021年4月5日に撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)】

こちらは2021年9月4日に実施されたアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」による13回目の飛行の様子を捉えた動画です。NASAのジェット推進研究所(JPL)から現地時間11月18日付で公開されました。

13回目の飛行は飛行距離が210m、飛行時間は約2分40秒でしたが、動画は離陸と着陸の部分が抜粋されて1分ほどの長さに編集されたものになります。

▲火星ヘリコプター「Ingenuity」による13回目の飛行の様子(ズーム撮影バージョン)▲
(Credit: NASA/JPL-Caltech)

左下の火星表面から離陸したIngenuityは、計画通り高度8mまで真っ直ぐ上昇。その後は火星表面の撮影に備えて機体の向きを調整してから右方向への水平飛行に移り、撮影範囲外に飛び去ります。戻ってきたIngenuityは一旦上空でホバリングした後に、離陸地点から12m離れた場所に着陸しました。

飛行の様子を撮影したのは、Ingenuityを搭載して火星のジェゼロ・クレーターに着陸したNASAの火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」のズーム対応カメラ「Mastcam-Z」です。

【▲Perseveranceに搭載されている「Mastcam-Z」の位置を示した図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

Mastcam-Zはその名の通りPerseveranceのマスト(「頭」とも表現される部分)に取り付けられた2つのカメラで構成されていて、ステレオ画像の撮影や動画撮影にも対応しています。JPLによると、冒頭の動画はIngenuity付近をズームで捉えたMastcam-Zの“右目”を使って撮影されました。

いっぽう、次の動画は飛行の様子をワイドアングルで写したMastcam-Zの“左目”を使って撮影されたものです。Ingenuityの姿は点のように小さく、その位置は白い丸で囲まれています。冒頭のズーム撮影バージョンではすぐに撮影範囲外へ飛び去ってしまったIngenuityですが、ワイド撮影バージョンではその先の飛行も一部が捉えられています。

▲火星ヘリコプター「Ingenuity」による13回目の飛行の様子(ワイド撮影バージョン)▲
白い丸はIngenuityの位置を示す(Credit: NASA/JPL-Caltech)

左下から離陸したIngenuityは右方向への水平飛行に移りますが、途中で一度ホバリングしてから飛行を続けています。撮影範囲外から戻った後も、やはりホバリングを挟みつつ着陸地点への飛行を再開していたことがわかります。JPLによると、このホバリングは火星表面の地形にあわせて飛行するために設けられた「小休止」だったようです。

火星の空を自律飛行するIngenuityは、機体の加速度や回転速度を測定する慣性計測装置(IMU)に加えて、カメラで捉えた火星表面の地形の特徴をリアルタイムで分析するナビゲーションシステムを利用することで、機体の位置・速度・姿勢の推定値を補正しながら飛行します。

Ingenuityによる13回目の飛行は、ジェゼロ・クレーターの底から飛び立った後に北東へ飛行して稜線を飛び越え、Perseveranceによる探査が予定されていた「Seitah」(ナバホ語で「砂の真っただ中」の意味、現在は予定通り探査中)と呼ばれる地域で表面の撮影を行った後に、再び稜線を越えて着陸地点付近に戻るという経路をたどりました。飛行の途中で地形の特徴が大きく変化することから、Ingenuityが飛行方向を把握しやすくするために、稜線付近の上空で水平飛行を一時停止するホバリングを挟んだとのことです。

【▲Ingenuityの飛行経路(黄色)とPerseveranceの走行経路(白)のそれぞれ一部を示した図。赤い丸で囲んだ明るい黄色の線が13回目の飛行経路を示す。右上の青いマークは2021年11月24日時点でのPerseveranceの位置(Credit: NASA/JPL-Caltech、赤丸は筆者)】

なお、現在のIngenuityはPerseveranceの着陸地点付近にある「ライト兄弟飛行場(Wright Brothers Field)」へ戻るための一連の飛行を続けており、11月21日には16回目の飛行(水平飛行距離:116m、飛行時間:約1分48秒)を実施しています。

ライト兄弟飛行場は2021年4月19日にIngenuityが初飛行を行った場所で、1903年12月に人類初の航空機による動力飛行を行ったライト兄弟にちなんで名付けられました。当初3~4回の飛行を目指していたIngenuityのミッションはまだまだ続きそうです。

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏

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