【特別寄稿】パチスロの今後(WEB版)/鈴木政博 鈴木政博の遊技産業考現学

今年10月1日より、パチスロの管理遊技機(メダルレス遊技機)の型式申請持ち込みが開始された。これにより、今後パチスロは有利区間3,000Gの「S機」と、有利区間G数なしの「管理遊技機」の2つのゲーム性が平行して出てくる事になる。今後のパチスロは、どのような仕様になるのか。今回は5号機の完全撤去が差し迫る中での「パチスロの今後」について考えてみたい。

1. 有利区間G数の緩和
日電協と日工組が「パチスロ有利区間の緩和」を発表したのは2021年4月15日だ。回胴式遊技機の有利区間の終了条件のひとつである「1,500ゲームリミッタ規制」の廃止を決定したとして、「5月20日以降の型式試験持ち込み分より3,000Gへ延長する」とした他、「メダルレス遊技機は有利区間ゲーム数を完全撤廃する」とした。

すでに有利区間3,000Gの機種は大一商会「うしおととら 雷槍一閃」やコナミアミューズメント「マジカルハロウィン~Trick or Treat!~」などがホールに導入されており、今後もサミー「パチスロANEMONE交響詩篇エウレカセブンHI-EVOLUTION」やエフ「パチスロGANTZ極」など続々と導入される予定だ(11月上旬現在)。

メダルレス遊技機については、10月1日より型式試験申請が可能となった。早ければ来年春頃にはホールに登場する可能性がある。

緩和される事での出玉面での大きなポイントは、エンディング状態などに到達した場合「2,400枚取り切れる」可能性が大きく増す点だろう。先に有利区間G数に到達したため2,400枚に至らず終了するケースも1,500G規定では時折見られたが、この点は改善される。

次に「天井」についてだ。有利区間を消化しながら天井に到達するゲーム性ゆえに、天井AT突入で2,400枚出る可能性を残すなら、例えば純増3.0枚の機械だとおおむね残り800Gの有利区間が必要となる。したがって1,500Gだと天井G数を700Gとするしかなかった。この点で、どうしても浅めの天井に設定するしかなく、浅いがゆえに天井ATに到達しても期待感のある状態にはしづらかった。これが、3,000GあればAT間の天井を1,500Gなどに設定することも可能となるため、かなり期待感のある「天井AT」性能にすることも可能となる。

最後にゲーム性だが、例えば5号機「バジリスク絆」の様な9回スルーしたら10回目は確定、といったものは1,500Gでは実現が難しかったが、緩和されたことでこういった「打ち続ければ自然と当選への期待が高まっていく」というゲーム性は実現しやすくなった。また「パチスロひぐらしのなく頃に祭2」のようなA+ART機で純増1枚、といったタイプにも天井を付けることが比較的容易になる。
2. 有利区間のリセット
有利区間が1,500Gだった場合の機種は「AT終了時に有利区間がリセットされる」ものが大半だった。これは、ここでリセットしておかないと、次にATに再度突入した時のゲーム数が短くなってしまうためだ。例えば700GでATに突入し、AT中400Gを使って1,200枚獲得して終了した場合で考えると、ここでリセットしなければ残り有利区間は400Gしかない。これでは早めに再度ATを引いても、期待感が小さい。そこでAT終了時は毎回リセットする手法がとられることが多かった。

しかし緩和されたことにより、いくつかのゲーム性が考えられる。一つは今までどおり「AT終了時に有利区間リセット」というやり方だ。有利区間G数は緩和されても、現状でも2,400枚規定は残っている。つまりAT当選のたびに「2,400枚出る可能性」を残すなら、この方法だろう。

もう一つ「少な目の獲得枚数であれば有利区間をリセットしない」というゲーム性も考えられる。こちらは、AT終了時にも有利区間ランプが消えないことで、早い引戻しに期待感を持たせることができる。1,500G機でも、たまに「AT終了時に有利区間ランプが消えない、と思ったらすぐに再度ATに突入した」という体験をすることがあったが、緩和されたことで「少なめのAT獲得を、連続で積み重ねながら総獲得2,400枚を目指す」といったゲーム性も実現しやすい。特にメダルレス遊技機であれば「トータル2,400枚獲得」以外では、ずっと有利区間がリセットされない、ということも可能だ。この場合、常にトータル2,400枚獲得を目指しながら、その2,400枚の固まりを何回やれるか、というゲームになる。

3. 一度に2,400枚以上の獲得の可能性
有利区間のゲーム数は緩和されても、現状では2,400枚規定は残っている。とはいえ、今までのパチスロでも2,400枚以上、例えば3,000枚程度なら一度に固まって出ることはもちろん皆無ではなかった。2,400枚出て、有利区間がリセットされた後すぐに再度ATに当選すれば、そのような事は当然起こりうる。

では今後、2,400枚以上が固まりやすい仕様は可能なのか。考え方としては、有利区間ランプが消えた状態をAT当選の優遇区間にすれば、そういった固まりは発生しやすくなる。ただし「ラムクリ時」や「設定変更後」も、同じく「有利区間ランプが消えた状態」となってしまう。このままではホールも使いにくいし、型式試験持ち込み時も最初の状態は「有利区間ランプが消えた状態」なので、出玉率試験で不適合となる可能性も高まりそうだ。

そこで考えられるのは「ボーナスフラグの成否状態」だ。AT機は、増えないボーナスのフラグが成立した状態でゲームが進行するのが普通だが、この「ボーナスフラグの成否状態」には差が生まれる。ラムクリ時は「有利区間ランプは消えている」のに加え「ボーナスフラグは成立していない」状態だが、これが例えば2,400枚獲得した直後の状態であれば「有利区間ランプは消えている」が「ボーナスフラグは成立している」状態となる。

この「非有利区間&ボーナスフラグ成立」という状態を、AT当選において何らかの優遇をすれば、一度に2,400枚以上が固まりやすい仕様も理論的には可能だ。
4. 型式試験の出玉率の壁
とはいえ最終的には、型式試験での出玉率試験をクリアしなければ適合はしない。ATの純増枚数が緩和されても、最終的に高純増機が難しいのはこの点だった。

型式試験では「400Gで出玉率220%」となっているが、リプレイ確率が1/7.3だとすると、型式試験で約464G間がリプレイを除くと400Gとなる。この464G間のIN枚数は1,200枚、上限の220%をクリアするには払い出し枚数は2,640枚までに抑える必要がある。純増枚数は1,440枚なので、1Gあたりの純増枚数に換算すると約3.1枚。したがって純増8枚や9枚のAT機をつくること自体は可能だが、それら高純増機は400G以上継続させると出玉率上限をオーバーしてしまう。その点から、高純増機はATが1,000枚程度で終わってしまうものが多数となっている。

逆に言えば400G試験自体は、純増3枚以下にすれば適合させやすい。ATに突入しても純増3.0枚であれば、ATが400G以上継続しても理論的には出玉率220%を超えないこととなる。

しかし、400Gの壁を越えても次に「1,600Gの壁」が待ち構えている。型式試験では「1,600Gで150%」となっている。同じくリプレイ確率が1/7.3だとすると、型式試験で約1,854G間がリプレイを除くと1,600Gとなる。この1,600G間のIN枚数は4,800枚、上限の150%をクリアするには払い出し枚数を7,200枚までに抑える必要がある。純増枚数は2,400枚なので、1Gあたりの純増枚数に換算すると約1.3枚だ。

つまりATの1Gあたり純増枚数を1.3枚まで落とせば、たとえATが1,800G以上継続しても理論上は1,600G試験で適合することになる。逆に1G純増を3枚とした場合は、最近主流の低ベースAT機で50枚35G程度のべースとした場合、1,854GのうちAT中が1,100G、通常時が750Gであれば出玉率は150%を切ることとなる。

こうして考えてみると、純増枚数を3枚程度に抑えた場合、一つの固まりとして3,000枚~4,000枚の固まりが時折あるという程度の仕様までは、型式試験上は適合する可能性も十分にありそうだ。

ただし型式試験では一日遊技を想定した出玉率試験が6,000Gで、こちらは上限126%だ。約7,000Gを回すと、リプレイを除けば約6,000Gとなるので、おおむね遊技者が一日中打った状態に近い。この126%を換算すると、遊技者が一日かけて7,000Gを回して、4,600枚の獲得が上限となる。あくまで理論上だが、6号機においては一日に5,000枚以上獲得できる仕様を開発する事は非常に困難であることは確かだ。

有利区間が緩和されたことはもちろん歓迎したい。現状では2,400枚規定は残るものの、3,000枚程度は固まる可能性もある。しかし将来的に、もし2,400枚規制も撤廃されたとしても、型式試験上は一日に5,000枚獲得するのは非常に難しい。これが現状のパチスロだという点を受け入れた上で、5号機完全撤去後には射幸性ではなく「パチスロを楽しむ」観点で遊技してくれるファンが増えることを、強く望みたい。

(以上)

■プロフィール
鈴木 政博
≪株式会社 遊技産業研究所 代表取締役≫立命館大学卒業後、ホール経営企業の管理部、コンサル会社へ経て2002年㈱遊技産業研究所に入社。遊技機の新機種情報収集及び分析、遊技機の開発コンサルの他、TV出演・雑誌連載など多数。

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