記憶に刻まれた名選手 V長崎の玉田圭司が引退 「サッカーが好きなら、きっとまたどこかで」

【V長崎-岡山】後半37分、V長崎の玉田がドリブルを仕掛ける=諫早市、トランスコスモススタジアム長崎

 玉田圭司の偉大さを数字で表すことは難しい。記録より、記憶に刻まれる名選手だった。
 左足でニアサイドを打ち抜いた2006年ワールドカップ、ブラジル戦のゴール。名古屋を10年のJ1初優勝に導いたヘディングシュート。これら歴史的シーンは、彼のキャリアを語る上でほんの一部に過ぎない。
 卓越した技術とセンス、年齢を重ねるごとに円熟味を増すそのサッカー感は敵味方を問わず感服させ、端正な顔立ちと爽やかな笑顔はスポーツに疎いファンをも虜(とりこ)にした。つい目で追ってしまう。限られた選手のみが持つ「本物」のオーラは今も健在だ。
 18歳でプロ入りし、現在41歳。J通算出場数はこの日529を数えた。今ほど海外移籍が主流ではなく、トップ選手の全盛期を国内リーグで見られた最後の世代。個性派ぞろいで「日本代表なら全員知っている」という華やかな時代に輝いた。
 最後の地、長崎に彼が残したものは何だろうか。それは、将来ビッグクラブになるために必要なチームスタイルの土台であり、頑固なまでに貫いた「サッカーは楽しむべきもの」という本質だろう。J1で再び雄姿を見る夢はかなわなかったが、レジェンドとの刺激的な日々を経て、若い才能が少しずつ芽を出し始めている。
 「さよならという言葉は好きじゃないから言わない」。別れのあいさつでのぞかせた涙と笑顔がまぶしい。「サッカーが好きなら、きっとまたどこかで」。そんな余韻とともに、功労者は老いないまま、さび付かないままスパイクを脱ぐ。


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