“地方紙✕通信社” 辺野古新基地をめぐる政府の隠し事を新たな枠組みですっぱ抜く 沖縄タイムス・共同通信(2021年1月) [ 調査報道アーカイブス No.52 ]

◆「辺野古新基地に自衛隊を常駐 海兵隊と自衛隊のトップが極秘合意」

2021年1月25日、沖縄県の地方紙・沖縄タイムスに「辺野古新基地に自衛隊を常駐 海兵隊と自衛隊のトップが極秘合意」という見出しの記事が掲載された。それによると、在日米海兵隊の司令官と陸幕長は2015年の段階で、陸上自衛隊の離島防衛部隊「水陸機動団」を辺野古の新基地に常駐させることで極秘裏に合意していたという。「新基地は米軍向けのもの」と日本政府は説明してきたが、実際は日米の共用施設ではないか、と強い疑義も投げかけている。冒頭を引用しよう。

陸上自衛隊と米海兵隊が、辺野古新基地に陸自の離島防衛部隊「水陸機動団」を常駐させることで2015年、極秘に合意していたことが24日、分かった。沖縄タイムスと共同通信の合同取材に日米両政府関係者が証言した。日本政府は新基地を米軍用と説明してきたが、実際には日米が共同使用し、一体化を進める中核拠点となる。大幅な機能強化と恒久基地化につながり、沖縄の反発がさらに高まることは避けられない。

◆議論の前提を覆す新真実の発掘 それが調査報道

この記事が出るまで、日本政府はそんな説明を一切してこなかった。それどころか、この秘密合意は文民統制(シビリアン・コントロール)を逸脱していた疑いもあるという。記事には、次のような記述もある。

陸自中枢の陸上幕僚監部(陸幕)は12年、幹部をキャンプ・シュワブの現地調査に派遣し、海兵隊と交渉を開始。15年、当時の岩田清文陸幕長が在日米海兵隊のニコルソン司令官(在沖米四軍調整官)と水陸機動団の常駐で合意した。合意後、両者が調整し陸自施設の計画図案や給排水計画を作成、関係先に提示した。
政府内には陸自常駐が表面化すれば沖縄の一層の批判を招くとの判断があり、計画は一時凍結されている。防衛省全体の決定を経ておらず、背広組の内部部局からは文民統制(シビリアンコントロール)を逸脱した「陸の独走」との批判がある。

「辺野古 陸自も常駐」のスクープが載った沖縄タイムス

調査報道の意味は、当局者が隠したり埋もれてしまったりしている重要な事実を社会に提示することにある。新たな事実が出てくれば、当然、議論の土台そのものが変わる。

このスクープに則して言えば、国民はそれまで「辺野古新基地は米軍施設」と思っていたのであり、国会でもそれを前提に論戦が続いてきた。それは何だったのか、という話だ。緊張する中国との関係を考えれば、陸自の「水陸機構団」配備には賛否両論あるだろう。しかし、日本の重要な針路を議論する際、前提となる事実が隠されていて良いのか。

◆「課題が複雑化し、1社だけでは調査報道が難しくなっている」

この調査報道スクープには、もう1つ重要なポイントがある。それは、沖縄タイムスと共同通信という2つのメディアによる共同取材だったという点にある。同じ趣旨の記事は、共同通信の配信によって全国各地の地方紙でも大きく掲載された。

多くの地方紙は共同通信社に加盟し、共同通信社は多くの地方紙に記事を配信するという関係にある。そんな中、権力が隠している情報に真っ向から切り込む「権力監視型の調査報道」において、双方が取材レベルから合同するケースはかつてなかった。「地方紙・通信社」という枠組みに限らず、このタイプでの調査報道で企業の枠を超えて手を結んだ例も、ほとんどないはずだ。

その意味でも、この調査報道スクープは画期的だった。

辺野古新基地の計画図(防衛省のHPから)

沖縄タイムスがHPなどで明らかにしたところによると、合同取材は沖縄タイムスの阿部岳編集委員が端緒情報をつかみ、共同通信の石井暁編集委員に相談したことから始まった。阿部編集委員は沖縄のメディアで働き、地元の動向に詳しい。石井編集委員は防衛省・自衛隊に関して30年近い取材歴を持ち、その中枢に深い情報源がある。お互いの長所を生かした組み合わせである。

沖縄タイムスは、第一報を載せた日の紙面で取材の経過を明かし、その中で与那嶺一枝編集局長はこう語っている。

「規模は異なるものの、今回は沖縄に根を張るタイムスと政府中枢に取材網を広げる共同通信のそれぞれの強みを生かして連携することができた」
「課題が複雑化し、1社だけでは調査報道が難しくなっている。今後も柔軟に積極的に、他メディアと協力していきたい」

◆沖縄タイムスと共同通信は何を克服したのか

この合同取材のポイントは、通常は一次情報を共有しない報道機関同士が手を組んだばかりか、端緒も含めて情報を共有し、一緒に取材を進めた点にあった。

取材源の秘匿はジャーナリストに課せられた最低限のルールである。ことに権力中枢に手を突っ込んでいくような「権力監視型の調査報道」においては、通常以上に取材情報の取り扱いには注意しなければならない。いくら同業者とはいえ、取材パートナーをどこまで信用していいのか。組織文化も取材手法も異なる双方が、本当に同じレベルでの調査報道取材を継続できるのか。課題はいっぱいあったはずだ。それを沖縄タイムスと共同通信は見事に乗り越えてみせた。

調査報道を進める組織や個人にとって、何が一番しんどいか。おそらくは資金と人のやりくりである。調査報道はあらかじめ答えが見えている「発表報道」と違い、取材の道筋も結末も見えていない。長い時間を費やし、相応の人材を投入しても“成果ゼロ”ということも珍しくない。そういったことを考えると、他のメディア・他の会社と組んで取材を進めることには、結構なプラス要素があるはずだ。

同じ2021年には、愛知県知事のリコール署名に関する不正をめぐって、西日本新聞と中日新聞も合同取材で大きな成果を出した。新聞・テレビといったレガシーメディアが凋落を続ける中、調査報道をどう維持するか。その回答の1つは「企業の枠を超えた合同取材」かもしれない。

(フロントラインプレス・高田昌幸)

■参考URL
「愛知県知事リコール署名の大量偽造 暴いたのは地域と会社の枠を超えた前例なき“地方紙連携”」(フロントラインプレス)

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