薬師丸ひろ子「夢十話」切り拓いたワン・アンド・オンリーの道 薬師丸ひろ子 歌手活動40周年

21世紀に入ってさらに花開した薬師丸ひろ子が歩んだ路線

1980年代に活躍していた“アイドル女優・歌手”たちの中で、現在でもコンスタントな芸能活動を行っている方って、実はそんなに多く存在しているわけではない。まあ1980年代は既に30~40年前になるので、大半が引退状態になっているという状況ではあるのだが…。

主に1980年代に世を席巻した女優・歌手で、2000年代以降も最も活躍目覚ましいのは薬師丸ひろ子が断トツなのは言うまでもない。2000年代以降のメジャーな映画、ドラマ、CMのコンスタントな出演状況は、他を圧倒する特筆すべきもので、薬師丸に匹敵するほどの他の女優、シンガーはちょっと見当たらないと言っていいだろう。

角川春樹事務所が地道に、そしてブレずに手塩にかける形で開拓した “一見アイドルチックに見せながらも、基本的スタンスは芯の通ったアーティスト(女優・シンガー)” 路線が、21世紀に入ってさらに花開いたわけだ。

同路線を歩まされた原田知世、渡辺典子をけん引するように、薬師丸ひろ子はこのワン・アンド・オンリーな道を堂々と今も歩いている。いやこの道を自らが切り拓いてきたプライド・自負みたいなものを心に秘めているからこそ、21世紀に入ってからの方が堂々と歩いているように見えるのは、あながち間違っていないのかもしれない。

真摯で生真面目、アーティスティックな歌唱の薬師丸ひろ子

しかし歌手デビュー(1981年~)からのおよそ4年間ほどは、いわゆるアイドル歌手といわゆる(アイドル・スタンスではないアーティスティックな)シンガーとの狭間で揺れ動いていた(揺れ動かされていた?)ことは紛れもない事実だった。そういう風に受け手側(特にアイドルファン層)が捉えていた… と言い換えた方がいいのか。

松田聖子、河合奈保子、柏原よしえ以降(1980年~)の女性アイドルをのべつまくなしにハードに7インチシングル・コレクションに走っていた筆者にとっては、薬師丸の歌手としての初シングル「セーラー服と機関銃」(1981年)、及びその後続いた映画絡みの「探偵物語」、「メイン・テーマ」、「Woman“Wの悲劇”より」、「あなたを・もっと・知りたくて」(1983~85年)あたりのシングル攻勢には、大いに戸惑ったものだった。

松田聖子を筆頭とする80年代アイドルを象徴するような新たな “アイドル歌唱” 全盛の中、それらとは明らかに一線を画した、まっすぐで真摯で生真面目な… いわば “アーティスティック” な歌唱で臨んだ薬師丸。その中にアイドルチックな要素も微妙にマネジメントの戦略なのか、本人のアンコンシャスな志向も反映されたのか…。

いずれにしろ世のコア・アイドル・ファンは、“アイドルなの?(アーティスティックな)シンガーなの?” と、戸惑いを隠せなかったのだ。突き詰めて言えば、アイドル・シンガーの範疇に入れていいのだろうが、少なくとも筆者は、そこはかとなく漂う “アーティスト”の匂いになんだか中途半端でもったいないなあ、なんて感じていたりしたのは否めない事実だった。

アーティスト志向に振り切った「天に星、地に花」そしてアルバム「夢十夜」

松田聖子を中心に80年代アイドル歌唱全盛の中、そこに埋もれず長い目で見据えた戦略として、そして本人の意向も大いに反映された、(アイドル・ファンの垣根を超えた)最大公約数の国民的スターを育てあげようという明確な目標の下、角川春樹事務所の目論見は世のアイドル・ファンの戸惑いにブレることなく挑んでいったのだろう。1985年までの初期5作は、見事に両ファンを知らず知らずのうちに取り込んだ大ヒットとなった。外野で騒がしかった “薬師丸ひろ子はアイドルか?アイドルじゃないか?” 論争をも武器にしながら…。

そして1985年を締めくくるかのように突如リリースされたのが、「天に星、地に花」。12インチシングルということもあって、発売日に飛びついたアイドルファンも多かったのかもしれないが(筆者はそうだった!)…。前作に続いて作詞:松本隆、作曲:筒美京平、明確にアーティスト志向に振り切った作風に、なんだか事務所から最終通告をされた気分になったのは、筆者だけではなかったのではないだろうか。

もちろんそんなコア・アイドル・ファンの気持ちとはお構いなしに、その後の薬師丸は盤石のシンガー路線で、高め安定なステイタスを築いていったわけだ。そんな意味では、「天に星、地に花」は送り手側としては、結構ドキドキしながら世に出したのではないのかな。

「天に星、地に花」は、アルバム『夢十話』(1985年8月)に収録されている。収録楽曲を夢の話に仕立てて、その最初を飾ったのが「天に星. 地に花.」だ。作家陣には松本隆、阿久悠、売野雅勇、竹内まりや、吉田美奈子、筒美京平、鈴木康博、林哲司、井上大輔、来生たかお、宮川泰、新川博、川村栄二、鷺巣詩郎、武部聡志、椎名和夫、大村雅朗… アーティスト志向がはっきりとわかり、『夢十話』はオリコンチャートで最高2位を記録したのだった。

それにしても、特にクラブ仕様に換骨奪胎されたでもないB面「あなたを・もっと・知りたくて」含め、当作を12インチでリリースした意図は…なんだったのだろう。

カタリベ: KARL南澤

アナタにおすすめのコラム 薬師丸ひろ子「古今集」ミステリアスな映画女優が演じ分けた9作のショートムービー

▶ 薬師丸ひろ子のコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC