【少林寺拳法】創部史上最高のインカレ総合3位!/主将・優勝拳士インタビュー

今月7日、日本武道館で行われた全日本学生大会において、慶大少林寺拳法部が創部史上最高の総合第3位という好成績をおさめた。コロナ禍による練習制限や大会中止を乗り越えての快挙達成。その秘訣を主将の諸江優(政4・慶應)、白帯・緑帯部門で全国1位を獲得した林大志朗(理2・成蹊)・和田亮士朗(政1・同志社国際)両拳士に伺った。

左から諸江、和田、林

目標を「超えてしまった」という感覚

全日本学生大会(以下インカレ)総合第3位。この結果について諸江主将は「二つの感情がある」と明かした。

一つは「素直に誇らしく、嬉しい」という想い。慶大少林寺拳法部は、大学から始めた部員が全体の8割以上を占める。諸江をはじめとする上級生たちは彼らを一から育てあげ、チームを強くするための戦略を考え続けてきた。今大会、少林寺拳法部は9部門で入賞を果たしたが、そのうち8部門で2年生以下の下級生が受賞している。

もう一つの感情。それは、目標を「超えてしまった」という想いだ。

2021年度の少林寺拳法部は部の戦略として「三大目標」を掲げている。そのうちの一つが「将来的な全日本学生大会総合優勝に向けて、全日本学生大会において明治、早稲田、日体に次ぐ地位を確立すること」だ。実際に三強の一角・早稲田大学を上回り、全国3位に輝いた。その出来は「100点満点中の120点」といったところか。会心は時に疑心を生む。「目標設定がずれていたかもしれない」。今年のチームは、主将をしてそう言わしめるほどの完成度を誇っていた。

そんな「さらなる高み」をも思わせた慶大少林寺拳法部の一年間はやはり、コロナ禍と共にあった。

夏休みに練習が「止まった」

新チームが発足したのは昨年12月。新型コロナウイルス感染拡大の影響をうけ、主要大会の中止に加え、練習時間にも制約が設けられた。春休み期間にあたる今年2月に関しては、およそ一か月間、道場に立ち入ることすらできない状況だったという。

コロナ禍の影響はコミュニケーション面にも及んだ。昨年春の新入部員、つまり現在の2年生との交流は数か月間オンライン上に限られた。諸江は「手探りでやっていた分、行き違いも衝突もあった」と当時を振り返る。

不安と不満はチームの火種となる。夏休みの練習期間、後輩から「ついていけない」と告げられた。およそ一週間、練習は中断。原因はコミュニケーション不足だった。

結果的にこの停滞は「今思えば必要だった」と諸江。この事件を転機として練習の雰囲気も改善し、チーム全体がまた前を向いた。幾多の困難を乗り越え、最大の目標である全日本学生大会を迎えることとなる。

全国1位の「1年生」コンビ

「本気」という言葉に引き合わされた二人である。

林大志朗は2年生ながら今年4月に少林寺拳法部の門を叩いた。「本気になれる、大学生活を懸けて打ち込める場所を探していました」。1年次は別の競技に取り組んだ。しかし、燃え切ることができなかった。「本気」を求めて飛び込んだ少林寺拳法の世界では、諸江主将から「幹部代まで残ることができたなら(※1)、間違いなく主将を任せていた」と称されるほどの働きを見せている。

相方の和田亮士朗も少林寺拳法部の「本気」に惹かれた。体験会で目にした組演武では、先輩部員が本気で相手を投げ、技を当てていた。コロナ禍の影響を受けて不完全燃焼に終わった高校時代の無念を晴らすべく、和田もまた少林寺拳法部の一員となった。

かくして林と和田は出会い、「少林寺1年生コンビ」として歩み始める。

そんな二人が壁にぶつかったのは、インカレを目前に控えた今年9月のことだった。他大学を招いて行なった採点会での出来事。「自信をもって臨んでいた」ものの、結果は振るわず。大会が軒並み中止となっていたこともあり、二人は実戦経験のないままインカレ本番へ臨むことになった。

百聞一見と言われるが、その「一見」を得られない場合はどうするか。

二人を支えたのが他ならぬ諸江主将だった。ある時は主将として、ある時は「メンター」として二人への助言を惜しまなかった。「僕と林、そして諸江先輩の三人掛け(※2)をやったような気分」(和田)になるほど、二人の作り上げる演武にとって、諸江の存在は欠かせないものとなっていた。

もとより、「本気」を求めてやってきた二人だ。メンターによるサポートに加え、練習量が、「どこよりも練習してきた」という自負が、二人に自信を与えた。

結果は堂々、予選・本戦ともに1位。見事総合3位獲得の立役者となった。

成功への鍵、「人格的成長」

インカレでの躍進により、三大目標の一つは成し遂げられた。チームが集大成へと向かう中、主将が「まだやれることがある」と話す目標が「體育會生としての人格的成長」である。

人格的成長とは何か。書面上の定義は「礼儀作法・予測能力・仕事力」であり、主将の言葉によると「かっこいい人間になること」となる。

「慶應義塾の精神を体現するのは我々體育會生です。だから人格的成長を三大目標の中の最初の目標に定めました」(諸江)。

人格を育てる。簡単なことではない。だからこそ徹底した。

部の規則や意識をまとめた書類(通称:パーフェクトガイド)を作成し、夏休みには毎日の練習前ミーティングで誰かがそれを読み上げ、全員で振り返った。ともすれば形骸化しがちな理念も、「先輩たちが工夫してくださったことで意識し続けることができた」(林)。

人間としての成長は、練習への意識にも直結する。基本練習であっても「なぜこの練習をしているのか」と考え、それを結果に繋げた。人格的成長という無形の目標が、有形の成功をもたらしたのだろう。

三大目標、残すところはあと一つ

インタビュー日は快挙達成からわずか10日後。それでも、画面越しから「満足感」は伝わってこなかった。

諸江主将は「慢心せず、今回(インカレ3位を)獲れた要因を把握しながら後代に繋いでいかないと、今回限りになってしまう」と危機感をあらわにする。和田は「来年に向けて365日のカウントダウンは始まっている」と、既に先を見据えていた。

三大目標の最後の一つは早慶戦優勝。

三人は練習後の道場にてリモート取材に応じてくれたが、画面から時折「パアン!」と鋭い蹴りの音が聞こえてきた。體育會の伝統を引くならば「練習ハ不可能ヲ可能ニス」といったところか。立合評価法(※3)で争われる第56回早慶定期戦は12/5(日)に日吉記念館で開催される。2年連続勝利に向け、慶大少林寺拳法部に緩みはない。

次なる目標は早慶戦優勝だ

※1 林は2年生入部のため、幹部代になる3年後には学部卒業予定となっている

※2 三人掛けとは、3名で行われる演武のこと。1対1の2名で行う組演武とは異なり、2対1の攻防が行われる

※3 立合評価法とは、突き、蹴りを用いてポイント(技有)を取り合う種目。より多くのポイントを取った方が勝者となる。空手の組手のようなものだが、上段(頭)と中段(銅)に防具を着用する。乱捕り、運用法とも呼ぶ

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