『東大出てもバカはバカ』原発をもてあそんだトリックスター 米山隆一|豊田有恒 「私は、好きになってほしかった。少なくとも少し好きでいてくれて、より好きになってほしいと思っていた」。複数の女性との援助交際が発覚し、歴代最短で新潟県知事を辞職した米山隆一氏。あれから3年、彼の“性癖”は本当になおったのか。2020年9月に刊行され、話題を呼んだ『東大出てもバカはバカ』(小社刊)より、「原発をもてあそんだトリックスター 米山隆一」を特別公開!(写真提供/共同通信)

原発再稼働を主張していたのだが…

元新潟県知事米山隆一。この人物、学歴が、すさまじい。

東京大学医学部を卒業した医学博士で、同時に司法試験にもパスし、ハーバード大学附属病院にも勤務したという。いわば学歴の上では、申し分のない人なのだが、その後の経歴は、医師としても弁護士としても、さして華々しいものではないようである。

本職のほうはともかく、政治志向がある人らしく、自民党公認で立候補したものの、新潟という土地柄からか、田中真紀子に何度か苦杯をなめさせられている。その後も、政治志向は続き、維新の会に移るが、ここでも大敗する。

2016年、思いがけぬ風が吹いた。4選確実と見られていた泉田裕彦知事が、マスコミ報道を奇禍として出馬断念を宣言する。自民党が、原発に慎重だった泉田の対抗馬の候補を決めていたため、原発反対派は泉田の代わりとして、米山を担ぐことになった。

そもそも米山は、自民党時代、原発には賛成していたのである。米山は、2012年6月30日付けの「10年先のために」と称するブログで、原発再稼働を主張している。3・11大災厄から僅か1年しか経っていない。勇気のいる先見の明と言えよう。電源喪失を防ぐためにも、副電源タワーを敷地内に設けるべきだとする積極的な提言すら行なっている。

また、米山は、放射線医学を志していた時期もあり、その面でも専門家の素質を備えているはずである。ところが、泉田の後継者として、反原発派から担がれたことから、こうした過去をすっかり忘れてしまったようである。折からの原発=逆メシア・ブームに乗ったせいだろう。

見事当選して政治家への一歩を踏み出すことになる。政治志向の夢をかなえたわけだろうが、原発再稼働を主張していたことと、矛盾するとは考えないのだろうか。学歴から見て、記憶力の良い人なのだろうが、節操がなさすぎる。また、ものごとの判断力は、受験秀才の丸暗記の記憶力とは別物だろうから、まったく備わっていないようにも見える。

評論家・石平への悪罵

分析的、論理的な思考力に欠けるらしいことは、米山の評論家・石平への悪罵からも判る。東京新聞の望月記者を批判した石平に対して、米山は、「独裁政権と批判する中国政府と直接対峙することなく日本人向けに中国政府批判を展開している」として、吐き気がするとまで罵倒している。

米山の思考がおかしいのは、中国系とは言っても、石平が日本国籍である点だろう。日本人が中国政府と直接対峙する義務などない。日本人が日本人向けに中国批判をして、どこが悪いのか?

日本人が、中国批判を許されなくなったら、それこそ一大事である。望月記者を擁護したつもりなのだろうが、民主的な選挙で選ばれた日本政府と、一党独裁の中国政府を、同一には論じられまい。しかも、吐き気がするとまで他人を罵ることは、人格的な欠陥を自らさらけ出したようなものだろう。事実、ネットにも、同様の批判があふれていた。

もしかしたら、米山は、中国系日本人という存在を認めない単一民族主義のレイシストなのか?

保守なのか、いわゆるリベラルなのか、さっぱり判らない人物である。さすがに、擁立してくれた反対派への義理だけはわきまえていると見えて、原発反対は変わりそうもなかったが、別なところでも、悶着を起こしている。

米山が、しばしば自身の思想、国政、日本社会の風潮など、県政と関わりのないことを、ツイッターなどで発信するので、多くの県議などから、県益を損なうなどの批判も出ていたという。

米山が知事だったころ、柏崎刈羽発電所の6、7号機は、原子力規制委員会の厳しい審査をパスした。再稼働への第一歩となるはずだったが、ここで米山は、福島第一の検証が終わるまで、再稼働は認めないと言いだした。

情報汚染と呼ぶべき社会現象

東京電力と東芝・日立が、世界に問うた技術の集積が、柏崎刈羽原子力発電所である。合計出力は、821万2千キロワット、世界最大の原発サイトとなった。単に出力が大きいだけではない。6号機、7号機は世界初のABWR(改良型沸騰水炉)であり、開発メーカーであるGE社をしのぐ技術で改良され、整備性、安全性も向上し、また耐震設計も進歩している。

これらABWRは、1996年から運転を開始している。その安全性は、2007年の新潟中越沖地震の際、見事に証明された。3号機の外部変圧器に火災があった程度で、IAEA(国際原子力機関)をはじめ、各国の専門家から称賛されたほどである。

しかし、前途洋々と見えた日本の原発に、悲劇が襲った。3・11である。

当時、想定外は許されない、というスローガンが、流行語にまでなってしまった。あの地震、津波は、想定外も想定外、予想外も予想外だった。人間が、森羅万象を想定できるとするのは、思い上がり以外のなにものでもない。

フランスのサルコジ大統領(当時)は、訪日第一声で、災害【デザストル】(dèsastre)と言わずに、大災厄【カタストロフ】(catastrophe)と呼んでいる。また、韓国の李明博大統領(当時)も、「人知を超越した大災害【インジ・ルル・チョウォル・ラン・テ】」と形容している。

つまり、〝原発憎し〟の歪んだ情報だけを注入されている日本人以外の人々は、あの大災厄に想定外の要素を認めていたのである。巨大な防潮堤、防波堤をもってしても、この度の稀有の大災厄を防ぐことができず、死者、行方不明者あわせて2万人ちかい代償を支払うことになった。

千年に一度と言われる大災厄である。マグニチュード9という史上最大級の地震と、それに伴う津波が襲ってきた。現代の知見を以てしては、不可抗力だったと言えないこともない。まず、危機管理を一民間企業だけに任せてきたという制度上の問題もある。

さらに、当時の政権の対応も、今にして思えば、最悪だったと言えよう。日本一の放射線症治療の権威だった故・長瀧重信氏は、全村避難には初めから警鐘を鳴らしておられた。また、各種の放射線規制値にも、疑問を呈しておられた。放射線を「正しく恐れよ」と常々、仰っていた。

放射線に関しては、汚染が誇大に報じられることが多かったが、むしろ情報汚染(information contamination)とでも呼ぶべき社会現象のほうが大問題になった。全村避難によって、ストレスで死亡する危険のほうが、放射線被曝による危険より遥かに高かったのだ。

放射線への規制値も、厳しくすればするほど、良心的であるかのような錯覚から、ことさらに不必要な厳しい値を設定することが少なくなかった。例えば、食肉1キロ当たり100ベクレル。国際的な規制値は、ほぼ1200ベクレル。人体そのものが、1キロ当たり120ベクレルの放射能を有している。専門家の間で、人食い人種は、何を食べたらよいのか、というジョークが出たほどである。

また、マスコミも、無知か故意か、わざと必要な情報を報道しなかった。放射線の強さは、線源からの距離の二乗に反比例する。つまり、線源から倍離れれば、2分の1ではなく、4分の1になる、3倍なら9分の1に減る。

従って、残土など、その上でずっと寝ているのでもないかぎり、近くを通りかかったくらいでは、なんの影響もない。危険なのは原発サイトの中だけという状態になっても、まるでモノノケのように放射能を恐れる報道が、まかり通る始末だった。

もてない中年男の悲喜劇

2021年、衆院選で初当選……。(写真提供/アフロ)

こうした異様な事態を受けて、世界最大の原発立地点である柏崎刈羽の発電所も停止したまま、運開の見込みが経たずに、時ばかり経過して行った。米山は、日本のエネルギー政策を左右する役割を演じるはずが、無為に時間を空費したのである。

今や、世界最大の原発サイトは、再稼働が望めなくなっている。東電は寒波の際、他電力から電気を融通してもらい、かろうじてしのぐことができた。だが、夏の電力最大需要期にも、対応できる見込みはない。電気は、「産業の米」と言われる。現在、BWR(沸騰水炉)は、一基も稼働していない。

この炉型を採用している他の電力会社も、まず手始めにABWRが一基だけでも稼働するのを、首を長くして待ち続けている。最新のABWR3号機を稼働する直前に、3・11に見舞われた中国電力のような気の毒な会社もある。

世は、EVブーム。だが、その電気は、どこから得るのか。

かつてエネルギー自給率4パーセント、多く見積もる人で6パーセントという水準だった。国中で鐘と太鼓で奨励した結果、再生可能エネルギーが増えたものの、自給率は僅か7~8%に上がっただけである。残りの90数%をどうするのか。電気を得る魔法のような方法でもあると言うのだろうか。

トリックスター米山隆一は、複数の女性との援助交際が発覚して、2018年、辞職に追い込まれた。相手の女性の中には、女子大生や未成年者も含まれていたらしい。金銭の授受を伴ったのだから、売春防止法にも抵触する。

ただ、本人は、「相手も思っていてくれたと思う」などと、未練がましく弁解している。女子大生が売春をしていると見るからスキャンダルだが、売春婦が向学心に燃えて、大学で学んでいると考えれば美談になると喝破した人がいるが、これも、ご時世というものだろう。

なんとも情けない幕切れである。もてない中年男の悲喜劇だなどと、ネットでもからかわれる始末だった。

最近、米山が、タレントの室井祐月と結婚したというニュースに接した。家庭を持ち、素行も収まり、妄言も吐かなくなり、東大馬鹿を卒業してくれれば、それに越したことはないだろう。
ひとまず、祝福しておくとしよう。

(『東大出てもバカはバカ』より転載)

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