パリ五輪へ注目のブレイクダンス、世界の強豪に成長した日本 プロリーグ「Dリーグ」の神田勘太朗代表に聞く

 2024年パリ五輪で追加競技として初採用される注目のブレイクダンス。1970年代に米国のギャング抗争から暴力でなく踊りで対決するようになったのが始まりとされ、逆立ちや頭を支点に回転する全身を使ったアクロバティックな踊りが特徴だ。80年代に輸入して強豪国に成長した日本勢は五輪初代金メダル候補に名前が挙がるダンス王国でもある。

 最近は国内トップ選手らが参戦するダンスのプロリーグ「Dリーグ」も発足しており、11月14日には2年目のシーズン開幕を迎えた。その魅力は性別やジャンルの壁を越えたバトル。Dリーグ発足の仕掛け人で「百年構想」を掲げ、自身もダンサーである神田勘太朗代表に「曖昧さの美徳」と表現するダンスの難解な採点基準や魅力、将来構想を聞いた。(共同通信=田村崇仁)

 ▽ダンスの百年構想、ピカソ派?ゴッホ派?

 ―3年後のパリ五輪を追い風にダンス市場の成長が期待されている。

 

神田勘太朗代表

 「世界にもなかった新しい形のプロリーグで、ダンスチームを企業が持ってダンサーと年俸契約を結んで所属させていくこと自体が初めて。起爆剤になれたらいい。Jリーグの百年構想と同じで、ずっと続いていくものにしなくてはならない。まずはダンスを見ること、知ること、踊ってみること。プロの職業として認められ、ダンサーがダンスするだけで生活できる受け皿をつくりたい」

 ―1年目のDリーグを総括すると。

 「Dリーグの認知度は上がっているけど、ダンスをスポーツとみるのか、遊びとみるのか、議論を巻き起こすぐらいのムーブメントにしていかないと。そういう意味では満足している部分と満足してない部分もあり、まだ課題がある。単純にプロスポーツと割り切れるものでなくて、すごく新しいなと思っている。最初の頃はDリーグってスポーツなんですか? と聞かれた。スポーツとみる方はみるでしょうし、カルチャーとみる方はみる。これから答えは決まっていくでしょう。ただ僕たちはそこに定義をする必要はないと思っている」

 ―ダンス特有の難解な採点方法も課題か。

 「ここは本当に難しい。ダンス業界でも毎回勝ち負けに賛否がある。もともと『どっちが格好いいか』という原点から始まっているので。勝ち負けの曖昧さの美徳というのが、ストリートカルチャーにおいては昔からあるんですね。例えばピカソとゴッホを闘わせて、どっちがよかったか。ゴッホ派はゴッホ派なわけですよ。ナンセンスだよ、こんな闘いっていうわけですけど、ピカソの方が6―4で民意をとってしまったら、ピカソの方が絵が高いみたいな。ただそれでゴッホの価値が下がるわけではない。Dリーグは、オーディエンス投票を審査員に入れている。勝ち負けにオーディエンスの投票が入る。これも新しいところ」

大勢の観客が見守る中で開幕したDリーグ=11月14日、東京ガーデンシアター

 ▽学校教育のダンス必修化とDリーグの波

 ―ダンスブームの到来は予想していたのか。

 「パリ五輪で初採用が決まったのは2020年12月。でも18年ユース五輪(ブエノスアイレス)の時に、もう僕らダンス業界はブレイクダンスが五輪競技になるって、ある程度予想していた。日本の学校教育で2012年度から中学校の体育で武道とともにダンスが必修化され、一つの波が来た。それから次の波が来るのはどのタイミングかなと見定めていた中で、今回のDリーグとパリ五輪がかぶった。ここからしばらくは右肩上がりで成長すると思っている」

 ―東京五輪では若者に人気のスケートボードなど都市型スポーツが新たな風を吹き込んだ。

 「スケボーの文化が受け入れられたということは、同じ米国発祥のストリート文化であるブレイクダンスも大いに可能性がある。勝ち負けを超えて、みんなライバルであり、友人であり、認め合う仲。他の完全なる勝ち負けのスポーツよりは、いい意味で緩いと言いますか。今回の五輪を見てアーバン(都市型)スポーツ系に興味を持っている人がたくさん出てきているので、パリ五輪の盛り上がりは確実視している。そこでDリーグがあることで、メダルを取った選手や活躍した選手がそのままDリーグで活躍することが流れとして見えている。そういった受け皿になることを考えると、中長期的な視点で育っていけばいい」

 ▽ギャング抗争が起源、最強のコミュニケーション

 ―「ブレイキン」とも呼ばれるブレイクダンスはもともと1970年代に米ニューヨークでギャングの縄張り抗争から生まれ、自由なヒップホップ文化として発展した。

 「国境、人種、年齢や性別、言葉を超えた最高で最強のコミュニケーション。究極的には最高の暇つぶしだと僕は思っている。暇をもてあましている人たちが、何かしらに手を染める。成功したい、面白くない、刺激が欲しい、そういったものの答えの一つがダンスだと思う」

 ―日本人はシャイとも言われるが、ダンスに向いているのか。

 「表現すること自体、僕はダンスが一番適していると思う。特に日本人は内向的だとかいわれるけど、お酒を飲んだら変わるとかあるじゃないですか。ダンスやると性格変わる人がいるんですね。大人しそうな子がむちゃくちゃ激しいダンスをすると、この子の内面は有り余るパワーがあるんだなとなる。逆に荒くれたダンスをしている人が繊細だったり。人間の性格を表す根源的なダンスが今後の未来を僕らはつくっていくと思う」

 ▽男性や女性、LGBTも超えた闘い

1年目のシーズン優勝チーム

 ―Dリーグの魅力とは。

 「Dリーグが他のスポーツと明らかに違うのは、男性、女性、LGBT(性的少数者)も関係なくチーム作りができること。女性だけのチーム、男性だけのチーム、ミックス(混合)のチームもいる。成長の幅が大きなプロリーグになるのかな。男性、女性が闘うのって、フロアのスポーツでなかなかない。男女混合ダブルスはあっても。そこに堂々とLGBTっていうのがいて。ダンスの場合は男性が女性的な動き、女性が男性的な動きをするのも標準。男性がジャズダンスを踊ることもあればバレエを踊ることも。女性もヒップホップダンス、ごりごり踊りますし。パワフルに踊る。それを一般の方が見たときにどう感じるか。曲聞いていても、ジャズ、ヒップホップ、R&B、ポップ、アイドル。全部バラバラ。キャッチするカルチャーの中で、それぞれ好き嫌いが生まれてくる」

 ―一口にダンスと言ってもワルツやタンゴの曲を使うスタンダードやラテン、サルサからフラメンコまで幅広い。

 「最近はTikTok(ティックトック)で遊んでいるダンサーはTikTok(ティックトック)ダンサーとして、K―POPのコピーダンスを始めているダンサーもいる。幅がだいぶ広い。ストリートダンスというカテゴリーでないダンサーも増えている」

 ▽パリ五輪は日本勢もメダル有力

 ―パリ五輪のブレイキンでは日本勢も有力だ。

 「男子でユース五輪銅メダルだった半井重幸も『シゲキックス』の愛称で呼ばれ、世界大会で優勝しており、五輪の初代金メダル候補として名前が挙がる。2019年の世界選手権で2位になった堀壱成もダンス界を引っ張る実力者で、Dリーグにも参戦している」

Dリーグでパフォーマンスを披露する堀壱成選手(中央)

 ―来年9月に中国の杭州で行われるアジア大会でもブレイキンは正式競技に入った。今季からDリーグは新規加入の2チームを含めた全11チームがレギュラーシーズンを争い、来年6月のチャンピオンシップで王者を決める。今後のダンス業界の課題と期待は。

 「Dリーグに関しては最大12チームまでと決めている中で、残り1枠をどこの会社にするか。海外、特にアジア圏でDリーグ自体をどう広めていくか。海外のチームをどうつくっていくか。ダンサーが影響力を持てるように場所とプラットフォームを作り続けていく。まずはDリーグをお客さんが入りきれないぐらい、もうチケット買えないよ、というレベルに持っていくこと。トレーニングするときにダンスのリズム感をというのは、どの競技にも重要だと思う。バスケットボールのBリーグにもサッカーのJリーグにもダンスが波及していけばいい。ダンサーというのは自身のダンスを教えるレッスンもなりわいの一つ。プロで培ったものは伝道師になれる。そこもすごく大きいですから」

神田勘太朗(かんだ・かんたろう) 別名カリスマカンタロー。実業家兼ダンサー。ダンサーとして活動しつつ、世界最大級のダンスバトルイベントを主催。母もダンサー。2021年1月にスタートした日本発のプロダンスリーグ「Dリーグ」で代表を務める。明治大卒。長崎県出身。41歳。

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