健康食品を取り扱う福岡市の「日本サプリメントフーズ」が7月に昆虫食ブランド「バグーム」で、コオロギ約100匹分の粉末を練り込んだカップうどんをインターネットなどで売り出した。生産が追い付かず今は完売しており、早ければ12月中旬に販売を再開するという。控えめな見た目で「昆虫の姿が見えない商品」を作った狙いは何か。開発者の関幸祐(せき・こうすけ)さん(33)に、昆虫食への愛情やこの分野の課題、展望も含め語ってもらった。(共同通信=井上浩志)
▽「追いコオロギ」も
「『昆虫食に興味はあるけど見た目がちょっと…』という方にも先入観を持たずに味わってもらいたい」。関さんは「コオロギうどん」を開発した意図をこう説明する。
日本サプリメントフーズ社によると、昆虫を使ったうどんやラーメンはあるが、カップ麺としては業界初。熱湯を注いで500ワットの電子レンジで4分間温めた後、和風だしを使ったスープの素を入れたら出来上がりだ。うどんなのに麺が黒っぽいのはコオロギを含むため。「すすると甲殻類に近い風味がする」。この味を楽しんでもらうため、具材はネギだけにした。コオロギはタンパク質が豊富だといい、栄養価の高さも売りだ。
最も苦労したのは、コオロギの配合量。入れ過ぎると麺のコシがなくなり、少ないと風味が出ない―。試作を重ね、構想から半年ほどかけて完成にこぎつけた。
昆虫食ならではの難しさもあった。「食品業界では、商品に虫が入っていると『異物混入』になる」。メーカー側からすれば製造ラインに虫を流すという判断はしづらい上、昆虫は甲殻類に近いアレルゲンを含むため、アレルギー対策で引っ掛かることも。請け負ってくれるメーカーを見つけるのにも時間を要した。
新たな客層の開拓を狙った一方で、従来の昆虫食ファンへの配慮も忘れない。乾燥コオロギと合わせた「追いコオロギうどんセット」だ。うどんの上に乗せることを想定しており、それぞれを単品で買うよりも安くなる価格設定にした。
▽苦手意識からの出発
「自宅でコオロギを揚げたり、セミを捕まえて調理したりしている。しっかり加熱すれば大丈夫。ただ、知らない種類は食べない方がいい。カブトムシは口に入れると腐葉土のにおいが鼻から抜けるが、うま味は強い。ハーブやスパイスと組み合わせて調理するといいかもしれない」
インタビューの際、昆虫食への愛情を前面に押し出してくれたが、最初から前のめりだったわけではなかった。
元々は虫が好きな少年だったが10代の頃、セミ捕りの際に大量の蚊に襲われ、苦手意識を持つようになった。初めて昆虫食を口にしたのは2019年、日本サプリメントフーズ社内の試食会。「最初に食べたのはコオロギだったと思うが、ものすごく勇気が要った」。だが、いざ食べてみると「おいしいじゃん」。
苦手意識は拭い去られたものの、その後に「バグーム」が立ち上がり、担当に抜てきされた際は「げっと思った」と振り返る。栄養価が高いことから関心はあったものの、「前例が少ないジャンル」。ターゲット層の特定や、売り込みが難しいと考えた。
▽関門は最初の一口
昆虫食は牛などと比べて消費飼料や温室効果ガスの排出量が少なく、持続可能な食料として注目される。一方で「店の客は好奇心や興味本位で来てくれることが多く、リピーターは少ない」。悩みを解消しようと開発したのが「コオロギうどん」だった。「元々扱っていた昆虫食は種類は多くても、ドライスナックという、形が残っているものしかなかった」。需要が少ないことから大量生産が利かず、安価で提供できないのも課題だと指摘する。
目標は、昆虫がスーパーに並び、食品として違和感なく受け入れられる日を実現することだ。「おいしい食べ物だと多くの人に知ってほしい。抵抗があるのは最初の一口だけ。そこをどうにか乗り越えてもらいたい」
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販売価格は「コオロギうどん」が810円、「追いコオロギうどんセット」は1750円。