【角田裕毅を海外F1ライターが斬る】3戦ノーポイントでも、大きなポテンシャルを見せた。チームの貴重な財産になる

 2021年に7年ぶりに日本人F1ドライバーが登場した。アルファタウリ・ホンダからF1にデビューした角田裕毅だ。極めて高い評価を受け、大きな期待を担う角田を、海外の関係者はどう見ているのか。今は引退の身だが、モータースポーツ界で長年を過ごし、チームオーナーやコメンテーターを務めた経験もあるというエディ・エディントン(仮名)が、豊富な経験をもとに、忌憚のない意見をぶつける。今回は2021年F1第18戦メキシコ、第19戦ブラジル、第20戦カタールについて振り返ってもらった。

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 3戦でノーポイント。F1というのは、時に冷酷なものだ。だが、私は常に前向きに物事を考えるたちなので、角田のメキシコ、ブラジル、カタールでのパフォーマンスは、今後に向けて励みになるものだったと思っている。シーズン終盤になり、彼は大きく前進しているようだ。

 ドライバーの評価は、デビューして最初の数戦で下すべきではない、というのが私の持論だ。良い方向にも悪い方向にも、決めつけるべきではないのだ。もちろん一握りの天才がいて、たとえばミハエル・シューマッハー、アイルトン・セナ、ルイス・ハミルトンは、デビュー戦から人々の度肝を抜き、その後、どんどん輝きを増していった。だが一般的には、ルーキーの力を見るには、1シーズン走らせてみて、その時点でどれだけ力を見せているか判断する。そしてもっと重要なのは、彼がその後、どれだけ良くなるかについても見極めることだ。

2021年F1第20戦カタールGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 後者については、単純なラップタイムや最終リザルトを超えた部分を見通せる特別な力を持った者でないと、判断を下すことはできないだろう。もちろんこの私にはその力が備わっているが、他には世界中探してもそれだけの能力を持った人間はなかなか見つからないはずだ。だからこそ、私はモータースポーツ界において才能あるドライバーを見つけ出すことにかけては定評がある。

 私は実際に何人も優れた若手をF1に送り込んできた。例えば……なに? 話が脱線してるって? 君はなぜいつも話の腰を折るのだ。まあいい、角田の話をしよう。角田はバーレーンで素晴らしいレースをした後、大げさにもてはやされ、それがその後の彼にとってマイナスに働いた。だが今、そういう過度な注目から解放されて、角田は真の能力を発揮しつつあるのだと思う。彼をアルファタウリで走らせると決めた者たちの判断は正しい。来年、角田はピエール・ガスリーとともにチームにとって貴重な財産になるだろう。

2021年F1第20戦カタールGP 角田裕毅とピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

 この3戦のサーキットは、角田にとって初めて走る場所だった。それにもかかわらず、彼はあっという間にコースを覚えてしまった。

 メキシコではFP1で11番手、FP2では8番手、FP3では6番手でガスリーより速かった。Q1では7番手、Q2で3番手、Q3ではガスリーにトウを与えるためだけに出てきていたのだが、同じくエンジンペナルティを受けるランド・ノリスを破って9番手タイムを出した。

 そのQ3では、セルジオ・ペレスのコースオフに関して、レッドブル首脳陣からいわれのない批判を受けた。角田のせいでマックス・フェルスタッペンがフロントロウにつくチャンスが奪われたなどというが、あの言いぐさには、勘弁してくれと言いたい。角田はレッドブルのふたりの邪魔をしないように、コース外まで出ていたのだ。他にどうしろというのか。蒸発して消えてしまえとでも? フランツ・トストが角田を弁護したことで、クリスチャン・ホーナーとヘルムート・マルコは面目丸つぶれだった。

 メキシコ決勝で角田はスタート直後に誰かと接触してあっけなくリタイア。だが、続くインテルラゴスは、覚えるのが難しいコースだが、彼はまたもや輝いてみせた。FP1で11番手、金曜予選ではQ1で9番手と順調だった。しかしQ2で13番手で敗退。スプリント予選ではオーバーテイクするスピードがなく、決勝ではランス・ストロールにドアを閉められて接触が起きた。あのインシデントで角田にペナルティが下されたことに、私は心の底から驚いた。彼はホイールをロックさせることもなくコーナーを回ろうとしていた。ストロールの方が角田がまるで存在しないかのようなラインを取ったから接触が起きたのに……。

 次のカタールは、F1初のレースであり、皆が一からコースを覚えなければならなかった。その状況でで角田はどうだったか。FP1で5番手、FP2で7番手だ。これはすごいことである。彼は他のほとんどのドライバーたちよりコースを覚えるのが早いということが分かった。予選の3セッションでもすべてトップ10に入るという上々の結果を出した。

2021年F1第20戦カタールGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

 しかし決勝では序盤に捨てバイザーがリヤウイングに引っかかり、その影響もあってポイント獲得のチャンスを失った。早々にピットストップをしたことで最後尾まで落ち、13位まで挽回するのが精一杯だった。

 というわけで、角田は3戦走ってノーポイントだ。だが、その記録に目を向けるだけでは、真のストーリーは見えてこない。真のストーリーを見るには、私のように、古狐の目と頭脳が必要だ。私にはどういう能力があるかというと……。この話は長くなるので、別の機会に取っておこう。

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筆者エディ・エディントンについて
 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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