清水、土壇場で劇的な決勝ゴール 過酷な残留争いの決着は最終節へ

J1 浦和―清水 試合終了間際、決勝ゴールを決め駆けだす清水・中村(右端)ら=埼玉スタジアム

 35分の1。奪った得点の中に価値の劣るゴールはない。ただ、より貴重な価値を持つゴールがあることは事実だ。今季、清水エスパルスが挙げた35ゴールのうちでも、J1第37節となる11月27日の浦和レッズ戦で挙げた1点は、とても大きな1点だった。そして、それはリーグ最終節となる1週間後の12月4日に、さらなる輝きを増すゴールになるかもしれない。

 0―0で迎えた試合で、示された後半のアディショナルタイムは4分。清水とすれば勝ち点1でも積み上げておきたい試合だった。その最低限の実を得るために、後半48分に平岡宏章監督が切った選手交代の策は、間違いなく時計を進めるためのものだったと思う。ただ、物事がうまく運ぶときは、想像以上のことが起こる。

 GK権田修一が蹴ったゴールキックを前線で収めたのが、出場したばかりのディサロだ。そのディサロのパスを右前方で中山克広が受けサイドチェンジ。中村慶太が中央でうまく止められなくて流れたボール。左サイドで受けたのが、これまた入ったばかりの山原怜音だった。相手DFと対した山原は仕掛けるそぶりで相手を引き付け、ペナルティーアーク手前に陣取った中村にマイナスのラストパスを送る。中村は右足ワンタッチで持ち出すと、次の瞬間右足を鋭く振った。ボールは矢のような速さでゴール左上隅に突き刺さる。ゴールが決まったのは、時計がアディショナルタイム終了を示すのとほぼ同時だった。

 GKのキックから始まり、それを受けて4人がつないで記録した決勝ゴール。ディサロ、山原、中山、そしてゴールを決めた中村も後半に入っての交代出場の選手だった。その意味で平岡監督の交代策が、見事にはまったといってもいい。

 さらに中村のシュートに用いたキックの選択もよかった。小さな振りから矢のようにボールが飛んだのは、トーキックだったからだ。長い距離を狙うには正確性に欠けるキックだが、狭いスペースのなかで小さな足の振りで速いボールを蹴ることができる。フットサルでよく用いられるキックだ。あの場面、浦和の伊藤敦樹が素早くシュートブロックに詰めてきただけに、通常のキックモーションだったなら、相手に当たっていた可能性は十分にあった。

 チャンスがあるなら、シュートは打つべきだ。それを証明した中村のゴールだった。自身の今季初ゴールを、中村はこのように振り返った。

 「最後は全員が勝ちにいく姿勢、その姿勢がたまたま僕のシュートにつながったのかなと思います」

 ロティーナ監督に代わり、第35節から平岡監督が指揮するようになって、これで2勝1分けと負けなし。大詰めで勝ち点を積み重ねている。この試合でも浦和に7割方ボールを支配されたが、それは想定内。ボールを持たれたというよりは、持たせたという表現が正しい試合運びだった。その中でゴールの可能性をより感じさせたのは清水だった。浦和GK西川周作の左腕一本ではじく美技に阻まれたが、前半終了間際の鈴木唯人の左足シュートは決まっていてもおかしくなかった。また後半21分のチアゴサンタナの右足シュート、23分のGK西川が触れてから右ポストに当たった西沢健太の左CKは1点ものだった。

 一方、浦和のシュートはミドル、ロングレンジからのものがほとんど。ゴール枠を襲ってGK権田を慌てさせたのは、江坂任のスルーパスから汰木康也が1対1になった場面ぐらいだった。

 シーズンも大詰め。J1生き残りの神経戦が続く中での1―0の勝利は、かなり大きな成果だった。第36節で横浜FC、大分トリニータ、ベガルタ仙台のJ2降格が決定。残り1枠となった降格を避けるための過酷な争い。それは第37節の試合前の時点で15位の湘南ベルマーレ(勝ち点36)、16位清水(勝ち点36)、17位徳島ヴォルティス(勝ち点33)に絞られていた。ここで、湘南と徳島が直接対決。徳島が敗れれば、浦和と対戦した清水は引き分け以上で残留が決まる試合だった。そして清水は勝った。ただ、簡単には決着しない。徳島が湘南を1―0で破り、生き残りの争いは最終節に持ち越されることになった。

 もちろん、有利なのは勝ち点を39に伸ばし、15位に浮上した清水であることは間違いない。最終節で引き分け以上なら、ライバルの結果に関係なく残留だ。ただ、湘南と徳島も勝てば勝ち点は39になる。現在の得失点差は清水がマイナス18、湘南はマイナス5、徳島はマイナス19。もし、最終節で湘南と徳島が勝ち、清水が敗れれば、得失点差で両チームは清水の上位にくるのだ。それを考えれば、かなりしびれる最終節になることは疑いない。

 最終節は清水と徳島はホーム。湘南だけがアウェーとなる。この3チームが挙げる「降格回避のゴール」。それは1点以上の価値を持つものとなるはずだ。サポーターは、その最後の瞬間を喜びとともに目に焼き付けたいだろう。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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