オミクロン株出現に動揺する株式市場だが“ケガの功名”も?市場が学ぶコロナとの闘い方

11月の株式市場は、月半ば頃まで株価は堅調に推移し、欧米では最高値更新の展開となりました。日経平均株価も一時、3万円目前まで上昇する場面がありました。しかし、ブラックフライデーの週末(11月26日)に、新型コロナの変異株・オミクロンの脅威が伝わると、市場では一気にリスクオフが進み、相場は急落しました。

<写真:ロイター/アフロ>


株式市場は高値からの急展開、変異株の出現に身構える

株式市場における投資家の恐怖心理を表すといわれるVIX指数は、11月26日に10月6日以来36営業日ぶりに20を超え、一時は2月25日以来の高水準をつけました。それまで穏やかだった相場付きが、一変した様子がうかがえます。

ただ、現時点でオミクロン株が、実体経済や金融市場に、どの程度の悪影響を与えるのかは分かっていません。先行きが不透明であることには違いないのですが、状況を見極めようとする動きが、VIXの上昇を限定的なものにとどめています。

インフレの象徴である原油価格が急落

一連の市場の動揺によって、原油価格も下落しています。WTI原油価格は10%以上下落し、一気に60ドル台まで調整しました。今後の景気悪化による原油需要の減退を警戒したものと解釈されますが、インフレの象徴ともいえる原油価格が大きく低下したことは、ケガの功名といえるかもしれません。

原因はともかくとして、インフレ懸念が少しだけ和らいだことで、足元の米国の長期金利は再び水準を切り下げています。最近では、パウエルFRB議長をはじめ一部のFRB高官から、資産買取規模の段階的縮小(テーパリング)の終了時期や利上げを前倒しすべき、との主張が繰り返され、早期の金融引き締めに対する警戒感が広がりつつあります。

本来なら、金融当局のタカ派への傾斜は金利上昇要因となりますが、「オミクロン・ショック」が漂う中でのタカ派発言に、米景気の先行き不安が高まり、債券市場は金利低下といかたちで反応していると考えられます。いずれにしても、金利が再び低位で安定するのであれば、それ自体が一定程度、景気の下支えになると期待されます。

再びハイテク株に物色が回帰する可能性も

これまでの米金利の低下によって、株式市場でもっとも恩恵を受けてきたのはハイテク株、ナスダック指数であるといえます。もともと、ハイテクのようなグロース株と金利は逆の動きをすることが多く、リスク回避による金利の低下(債券価格の上昇)が、ハイテク株の魅力を再度高める結果につながっています。また、感染拡大と巣ごもり消費拡大への連想が、ハイテク株の追い風になっているもようです。

日経平均株価との関係を考えた場合、米国の主要3指数(NYダウ、S&P500、ナスダック総合指数)との相関(連動性)で、もっとも相関関係が強いのは、ナスダック指数となっています。日経平均株価もハイテク株の比重が大きいので、ナスダックと連動しやすいと解釈されます。

今後、過度なインフレ懸念が後退するとともに、金利が低位で安定するのであれば、ハイテク株には有利となりそうです。そして、その好影響がハイテクの比重の高い日経平均株価にも波及する可能性があると考えられます。

米国経済の強さを糧に冷静な対応を

12月に入り、これからホリデー商戦が本格化していきます。今年の米国でのホリデー商戦では、前年比で1割前後の売上の伸びが予想されています。インフレとコロナを巡る不透明感が払拭できない中でも、それに負けない米国経済の強さが示されれば、市場の安心感は高まりそうです。

突如として出現した変異株オミクロンに関する情報は限定的で、予断を許さない状況はしばらく続きそうです。しかし、変異株感染の拡大防止に向けて、渡航制限の強化など、各国が素早い対応を見せていることは事実ですし、製薬会社も早期のワクチン改良に動き出しています。

過去の変異株の出現と今回が異なるのは、過去の教訓を活かせる点です。株式市場では、コロナとの闘いは続きますが、闘い方もしたたかになっていくことでしょう。市場に携わる立場としては、パニックに陥ることなく、冷静な対応に努めたいところです。

<文:チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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