ザ・スミスの名曲が彩る「ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド」80sファン必見!  2021年 12月3日 映画「ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド」が劇場公開

平成生まれの僕がザ・スミスを選んだワケ

このバンドのためなら、命を捧げることも厭わない。そう思わせてくれるミュージシャンが、あなたにはいますか……?

音楽を好きになるということはどういうことだろうか? 偶然ラジオやテレビ、今ならYouTubeで聴いた曲が頭から離れない。雑誌を見たりネットで調べたりしているうち、知らず知らずのうちに虜になってしまう。そしてライブに行く。いつの間にか、そのミュージシャンの音楽が自分の人生になくてはならないものになっていく。

「今はまだ人生を語らず」と歌ったのは吉田拓郎であるが、齢30をようやく迎えた僕の人生のテーマソングを決めるならばやはり、ザ・スミスの残してくれた楽曲から選ぶだろう。これは15歳の頃から変わっていない。ザ・スミスに僕は “出会って” しまったのだ。出会いというのも平成生まれの若輩が、なぜザ・スミスなのか?

いやしかし、ザ・スミスはもはや、例えばローリング・ストーンズ、ザ・クラッシュらと肩を並べることができるほどのレジェンドだ。僕より歳の若い職場の同僚は「ザ・フーとレッド・ツェッペリンとザ・スミスが好き」だそうだから、ザ・スミスはもはや “伝説のロックバンド” なのだろう。そこまで来ると年齢も何もないように感じる。

まさに名刺代わり、映画「ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド」

さて、ザ・スミスの何が素晴らしいのか。好きなものから適切な距離を取ることが苦手な僕は口籠ってしまう。リードシンガーであるモリッシーの詩、ジョニー・マーの天才的ギターワークと作曲能力、バックを固めるリズム隊の堅牢さ…… と、評論家的に語っても陳腐なだけである。そこで名刺代わりになる映画が『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』である。

1987年8月1日、イギリスの有名音楽誌『ニュー・ミュージカル・エクスプレス(NME)」が『ザ・スミス分裂へ』という見出しで記事を掲載した。すっぱ抜きの飛ばし記事であったものの、バンドはそのまま解散。すでにアメリカでも “耳の肥えた” リスナーを獲得していたザ・スミスの解散の報は大西洋を超え映画の舞台、コロラド州・デンバーの田舎町まで届いた。

ザ・スミスを愛するスーパーのレジ係・クレオはあまりに退屈な日々に飽き飽きしていた。そんな中、ニュースにショックを受け、同じくザ・スミスを愛するディーンのもとへ駆けつける。ディーンは、うだつの上がらないレコードショップ店員。お互い密かに思い合っているが一歩踏み出せないでいある。ディーンがデートに誘っても登場人物クレオはパーティーに行ってしまう。

「この町の連中に一大事だと分からせたい」という彼女の言葉を受けその日の真夜中、ディーンはひとりピストルを手にヘビメタ専門ラジオ局に押し入り「ザ・スミスの曲を一晩中かけろ」と脅迫するに至る。

一方クレオはザ・スミスを愛する地元の仲良し、ビリー、シーラ、パトリックとパーティーに参加。ラジオから流れるザ・スミスの曲に身をくねらせながら、どんちゃん騒ぎを繰り広げる中、四人はそれぞれの胸の内を悩みを吐露していく……。

ディーンとクレオはどうなるのか。電波にのったザ・スミスの楽曲が伝えるものは何だろうか……。人の心を裸にするザ・スミスの音楽は映画にこれでもかと詰め込まれている。

描かれているのはザ・スミスとファンとの強い絆

この映画が半ばザ・スミスのドキュメンタリー映画となっているのは、モリッシーやジョニー・マーのインタビューが挿入されているからという単純な理由ではない。この映画はザ・スミスとファンとの強い絆、一種の相関関係、つまりファンダムを描いているからだ。

ザ・スミスのファンダムの強烈さは、ザ・スミスがもはや “現象” の域に達していることを示す。彼らの素晴らしいところは、その詩やパブリックイメージと正反対ではあるが、“音楽こそが人を結びつけることができる” という希望を身をもって証明したからではないだろうか。本当に何かを好きになるということを体感させてくれたからではないだろうか。

ザ・スミスの素晴らしい音楽は、その胸の焦がれを教えてくれた。だから僕にとってザ・スミスは “特別” なのだ。そして映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』は、その焼けつくような思いを再体験させてくれるという意味で、ファンである僕にとってやはり “特別” なのだ。

音楽が人生の付属物としてあるのではなく、人生が音楽の形に寄り添って形を変えていく経験。音楽を好きになるということの根本的な意味を、この映画は教えてくれるだろう。

さて、『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』には80s洋楽リスナーならクスッと笑える小ネタも満載だ。ぜひ映画館の爆音でザ・スミスの音楽とファンダム、80sの洋楽が持った熱を感じて欲しい。

カタリベ: 白石・しゅーげ

アナタにおすすめのコラム 1987年のエイズパニック!未知の恐怖とザ・スミスのラストアルバム

▶ ザ・スミスのコラム一覧はこちら!

80年代の音楽エンターテインメントにまつわるオリジナルコラムを毎日配信! 誰もが無料で参加できるウェブサイト ▶Re:minder はこちらです!

© Reminder LLC