「いまマンション買ったら儲かる?」は危険な発想

30代半ばになり学生時代の友人や社会人になってからの知人と話をすると、「家を買うか、賃貸にするか」「戸建てにするか、マンションにするか」の話題が増えてきます。やはり結婚や子どもが生まれるなど住環境をどうすべきかを真剣に考える機会が増えるからでしょう。最近気になるのは「いまマンション買ったら儲かる?」と聞かれることです。今回は最新のマンション事情をテータとともに確認しながら、注意しなければいけないことを共有したいと思います。


なぜマンション価格が上昇している?

いま首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の新築マンション価格が高騰しています。不動産経済研究所の発表によると、2021年の上半期(4~9月)の首都圏新築マンション1戸当たり平均価格は前年同期比10.1%増の6,702万円となり、比較可能な1990年度以降で最高になっています。つまり、日本がバブルに沸いていた時よりも新築マンションの価格が高くなっているのです。

コロナ禍にもかかわらず、なぜ価格が高いのか不思議ですね。理由はいくつもありますが、1つ目の理由は土地の確保ができないことです。これだけマンションの価格が高いのであれば、不動産業者からすればどんどんマンションを建てて売りたいところですが、都内では銀座をはじめ土地開発が一巡してしまったこともあり、土地の確保が難しくなっているのです。その結果、東京23区の住宅地の平均価格も上昇傾向にあります。

また、需要が高いにもかかわらず、首都圏では新築マンションの供給戸数が減少傾向にあるため、需給バランスの問題で新築マンションの価格が更に上昇しやすくなってしまっているのです。

世界的なインフレの波はココにも

コロナ禍において感染拡大を防止すべく、世界各国が経済活動を抑制していましたが、今年の春先から徐々に経済活動を再開しました。その結果、需要が一気に高まる一方で、人手不足や物流の混乱などによる供給制約によって、世界的に物価が上昇傾向にありました。そこに原油価格の高騰が加わり、世界的なインフレ懸念が生じました。

実はこの世界的なインフレの波が不動産業界にも影響を与えているのです。鉄鋼価格や建築用木材の価格が上昇しており、住宅の内壁や天井に使う石こうボードやフローリング材なども軒並み値上げラッシュとなっています。年明けには大手セメントメーカー3社がセメント製品の価格を引き上げると発表しています。これらの価格上昇もマンション価格を押し上げる要因となっているのです。

こんな高いのに誰が買ってるの?

首都圏の新築マンションの価格が歴史的な高値にあることと、その背景を色々な角度から見てきましたが、これだけ高価格になっても買う人がいるから、現在の価格がついているわけです。では誰がこんなにも高いマンションを買っているのでしょうか。

資産家や外国人投資家が買っているとすぐに思い浮かぶかもしれませんが、主な買い手として昨今言われているのがパワーカップルの存在です。パワーカップルとはこの数年でよく耳にする言葉ですが、その定義は曖昧です。ここでは夫婦ともに年収が700万円を超えている世帯と定義したいと思いますが、総務省が発表している労働力調査のデータに基づけば、2013年から2020年まででその世帯数は1.6倍にまで増えています。

特に2020年にその世帯数が急増していと分かります。コロナ禍で実体経済はボロボロだったはずなのにと思うかもしれませんが、実はコロナ禍の影響は人によってバラバラだったのです。

たとえば、業種でいえば、リモートワークの普及で情報通信業は追い風を受けましたし、近所で買い物を済ませたいニーズからスーパーマーケット業界にも追い風が吹きました。一方で、飲食店や観光・宿泊業などには強烈な逆風が吹きました。

これは個人でも同じで、非正規雇用で低所得の方はコロナ禍では非常に大変な環境に追い込まれたと思いますが、一方で資産家たちは株式市場や不動産市況が好調だったことで資産を更に増やしていったのです。

家は住むために買うのが基本

2021年度上半期のマンション価格の平均が6,702万円ということは既に紹介しましたが、これはあくまで平均ですから、実際には1億円近い物件を買うパワーカップルもいます。一般的に「住宅価格の目安は年収の5倍まで」と言われますが、現状は年収の6倍、7倍の価格のマンションを買っているパワーカップルも散見されます。

それを可能にするのは超低金利時代における変動金利の存在があるわけです。国土交通省が発表した『令和2年度住宅市場動向調査』によれば、分譲マンションを購入する場合、物件価格に対して6割強は住宅ローンを組んで購入しているデータがあります。

ここまで来ると、いよいよ住宅バブルのにおいもしてくるのですが、その思いがさらに強まるのは、私のもとに多く寄せられる「いまマンション買ったら儲かる?」の質問です。

そもそも、住むために家を買うわけで、儲かるかどうかの観点で意思決定をするのは危険でしょう。これまでは「新築マンションは買った時点で価値が2割下がる」と言われてましたが、最近では物件によっては契約時点よりも引き渡し時点で既に価格が上昇することがあり、それだけに儲かるかどうかの観点が強くなってしまうようです。

買ってもなるべく資産価値が下がらない物件が欲しいと誰もが思いますが、あくまで自分の収入や資産、家族構成などをまずは優先して考えた方がよいでしょう。

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