日産、2030年までに電動車を世界で50%以上に 5年間で約2兆円投資へ

日産自動車は29日、2030年度までに電気自動車(EV)15車種を含む23車種の新型電動車を投入し、電動車の新車販売割合をグローバルで50%以上に拡大することなどを盛り込んだ長期ビジョンを発表した。環境・社会課題や変化する顧客のニーズに対応し、よりクリーンで安全、インクルーシブな誰もが共生できる社会を実現し、真に持続可能な企業となることを目指す。技術的には、従来のリチウムイオン電池に比べ航続距離や充電時間などを大幅に向上させた次世代電池である全個体電池を開発中で、今後、EVの車両コストをガソリン車と同等レベルにまで引き下げることで、EVの本格的な普及につなげる考えだ。(サステナブル・ブランド ジャパン=廣末智子)

長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」は、「共に切り拓く モビリティとその先へ」をスローガンとし、「お客さまへ自信とワクワクにあふれ、より人や社会とつながる体験を提供し、移動の可能性を広げていく」ことと、「パートナーとともにモビリティを中心としたエコシステムを構築し、社会の可能性を広げていく」ことを両輪とする。またこの長期ビジョンは、同社が今後10年間で数多くの電動車とイノベーションを提供し、グローバルに事業を拡大していく中で、2050年度までに製品のライフサイクル全体でカーボンニュートラルを実現するという目標を支えるものでもあるという。

同社は2010年に初代日産リーフを発売し、現在、世界で累計60万台近くの販売実績がある。これまでに行ってきた車両やバッテリー、充電器の開発や生産など電動化技術に対する投資は約1兆円にのぼるが、今後5年間でさらに約2兆円を投資し、電動化を加速する。

中でもその中心的な役割を果たすバッテリーについて、長期ビジョンでは、パートナー企業との電池供給体制を確立し、2026年度までにグローバルな電池生産能力を52GWh、2030年度までに130GWhへと引き上げる計画を表明。さらに従来のリチウムイオン電池の技術をより進化させた自社開発の全固体電池を搭載したEVを2028年度までに市場投入することを目指し、2024年度までに同社横浜工場内にパイロット生産ラインを導入する計画を明らかにした。

具体的にはエネルギー密度(バッテリーの単位質量または単位容積当たり、取り出せるエネルギー)をリチウムイオン電池の2倍に、充電時間を3分の1にすることで、1キロワット時当たりのコストの65%削減を目標にしている。これを実現することで、バッテリーの小型化や薄型化が見込まれ、ピックアップトラックなどの大型車両のEV化や、これまでになかった車両レイアウトや運動性能を持つEVが実現可能になると同時に、EVの車両コストをガソリン車と同等レベルにまで引き下げることができるという。

また工場においてもカーボンフットプリントを最小限に抑える準備を進めており、〝次世代のクルマづくり〟を実現する生産設備を備えた日産インテリジェンスファクトリーを世界の主要工場に拡大。再生可能エネルギーの活用や代替エネルギーを使った燃料電池による自家発電などを推進することで2030年までに工場のCO2排出量を2019年比で40%削減する。

このほか、EVのバッテリーを最適に活用し、活用範囲を拡大することでエネルギーマネジメントを向上させる取り組みや、バッテリーの循環サイクルの構築にも力を入れる方針だ。運転支援技術もさらに進化させ、2030年度までにほぼすべての新型車に高性能な〝次世代ライダー(LiDAR)技術〟を搭載することも盛り込んでいるほか、EVをより競争力のあるものにするため、「生産と調達の現地化」を進める考えも強調されている。

一方、多様化する消費者の要望に応え、2030年度までに15車種のEVを含む23車種の電動車を導入し、日産とインフィニティのブランドをあわせ、グローバルで電動車の新車販売割合を50%以上とする目標を発表。各国の市場の現状に鑑み、2026年度までに欧州では主な乗用車をすべて電動化し、電動車の販売比率を75%以上に引き上げる一方、日本では55%以上、中国では40%以上を、米国では2030年度までにEVのみで40%以上を目標とする計画を示した。

同日開かれたオンライン記者会見に臨んだ内田誠CEOは、「車はもはや個人のための商品という枠を超え、都市における人々の移動を支える社会インフラの一部になろうとしている。環境に優しく誰もが安全な移動を享受し、互いの価値観を認め合うことができる世界の実現に向け、日産のDNAであるパイオニア精神を生かし、強みとする電動化技術と知能化技術を柱に据えることで、日産ならではの価値を提供していきたい」と語った。

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