実は昭和に名付けられた“琳派”の意外すぎる由来とは?

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。9月11日(土)の放送では「山種美術館」で“琳派”について学びました。

◆琳派の始まり…祖とも言われる俵屋宗達

今回の舞台は、東京・渋谷区にある「山種美術館」。ここは国内初の日本画専門美術館で、山種証券創立者・山﨑種二のコレクションを中心に日本画や浮世絵など約1,800点を所蔵しています。

片桐は、そんな山種美術館の開館55周年を記念し開催された「浮世絵・江戸絵画名品選 ―写楽・北斎から琳派まで―」へ。六大浮世絵師の代表作とともに江戸絵画を紹介するこの企画展で、今回は琳派の作品に注目。その奥深い世界に迫ります。

日本画の流派のなかでも特に有名なのが"狩野派”と"琳派”。室町時代に誕生した前者の絵師は代々狩野という同じ姓を名乗り、画風にも統一感があります。一方で"琳派”は江戸時代に派生し、明確な組織はなく出身もバラバラ。そして、絵師によって個性の違いがあるのが特徴です。なお、片桐の琳派の印象は「金箔」だそう。

同館の学芸員・竹林佐恵さんの案内のもと、まず片桐が鑑賞したのは、琳派という流派の祖と考えられている俵屋宗達の作品。俵屋宗達(絵)/本阿弥光悦(書)「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」(17世紀)を前に「このときは全然煌びやかな感じではないんですね」と率直な感想を語ります。

この作品は少し地味に見えますが、実は変色しているからで、よく見ると金粉や銀粉をにかわ液で溶いた金泥・銀泥で描かれています。なお、その後に描かれた「槙楓図」(17世紀)では、背景が琳派のイメージでもある金箔に。

琳派の特徴は、金地の屏風。そして、絵具を一度塗った後、乾かないうちに別の絵具を重ね、にじみの効果を生む技法「たらしこみ」。さらにはデザイン的で装飾的なこと。

◆宗達から100年後に登場した尾形光琳、琳派の由来とは?

そもそも琳派は、室町・戦国時代の戦乱の世から穏やかな江戸時代になり、京都に増えた裕福な町衆に好まれました。そして、宗達が活躍したその100年後に京都に登場したのが尾形光琳。光琳は直接の教えは請うていないものの、宗達の画風を慕い、尊敬し、独自で学ぶ"私淑”という形で宗達の画風を自分のものとしていきます。

我流で学んだ光琳の作品は後に"尾形流”、"宗達光琳派”などと呼ばれ、当時は"琳派”とは呼ばれていませんでした。琳派という名前が誕生し定着したのは1972年に東京国立博物館で"琳派”という名前の展覧会が開催されて以降。その事実に片桐は「最近ですね!」とビックリ。

◆さらに100年後、舞台は江戸へ…酒井抱一の登場

次に、「この屏風はだいぶ繊細な絵柄ですね」と片桐が感心していたのは光琳の時代からさらに100年後、江戸後期の琳派を代表する絵師、酒井抱一の「秋草鶉図」(19世紀)です。

その大胆な構図は、まさしく琳派の流れを受け継いでいます。特に片桐は黒で描かれた月が気になるようで「金屏風に月を黒く抜く、白で描いてもこれほどのインパクトはないでしょうね」と舌を巻きます。

抱一が琳派に目覚めたのは、光琳の没後100年にあたる1815年に出された光琳の作品を集めた図録がきっかけ。宗達、光琳の時代は京都が中心でしたが、抱一は江戸で生まれ、江戸で生活しており、舞台は江戸へ。"江戸琳派”なる名前も生まれるなど、抱一以後、琳派の中心は江戸へと移りました。

さらに、「飛雪白鷺図」(19世紀)は飛沫のように雪が表現されており、片桐は「『飛雪』と書いているだけあって、立体的に雪がかけられているんですよね」と着目しつつ、「これ(を描くの)は緊張しますね。これは順番的に最後ですよね。どうやってやったんだろう、手でやったのかな……」とその描き方に思いを馳せます。

「飛雪白鷺図」の隣には菊と瑠璃鶲という鳥が描かれた「菊小禽図」(19世紀)が。これを見た片桐は、「花だけ見ると正面から見ている感じがするけど、鳥を見るとすごくアクロバティックで、鳥の止まり方によってすごく空中感が出ますね」と感想を述べます。なお、これらは12ヵ月の様子が描かれたシリーズ作品で、「飛雪白鷺図」が11月、「菊小禽図」が9月の幅です。

◆抱一の弟子・鈴木其一を経て、大きく広がる琳派

宗達、光琳、抱一に続いては、江戸後期の絵師・鈴木其一。彼は抱一の弟子で、近年評価が高まっています。そんな其一の「四季花鳥図」(19世紀)は右隻に春夏の草花、左隻には秋冬の草花と鳥が描かれ、「ほんわかした絵というか、かわいらしい感じがしますね」と片桐。なお、そこに描かれたオシドリには"子宝”や"夫婦和合”といった意味があり、めでたい絵でもあるそう。

当初、其一は師の作風を真似たような作品でしたが、徐々に其一らしい鮮やかな色合い、さらには当時すでに入ってきていた洋画のエッセンスが散見。また、「牡丹図」(1851年)では中国絵画のエッセンスも。これは中国の画家・趙昌が描いた牡丹図を元に描いた作品で、片桐も「これまた細かいですよ。もう一筆一筆、線の一本一本がはっきり見えますね。花のこの繊細な線や茎のところの感じとか」と圧倒されます。

抱一以降は江戸琳派が普及するなか、其一により琳派は時代のエッセンスも柔軟に取り込み、さらなる作品を生み出します。そして現在、自ら琳派の絵師と名乗っている人はいないものの、菱田春草や横山大観など、近代以降の作家も琳派の作品から影響を受けたと言われているとか。

時代、時代の才能溢れる絵師が好きなものを描いているうちに自然に生まれた琳派の歴史を体感した片桐は、「まさか俵屋宗達と尾形光琳の間に100年、光琳と酒井抱一の間にまた100年と、長い時間が空いているけどリスペクトし残っていった。いわゆる狩野派のように師弟関係で繋がっていく世界ではないのに」と新たな発見に驚きを隠せません。また、「琳派という名前が昭和になって付けられたのも面白い」と笑顔を覗かせます。

そして、「今、琳派の人はいなくても、それが多くの日本画、洋画の人に影響を与えていることを知り、歴史の授業的にも面白い回でした」と感謝し、「時代を超えて画風を継承した琳派の絵師たち、素晴らしい!」と大きな拍手を贈っていました。

◆歌川広重の"富士山愛”溢れる作品

ストーリーに入らなかった作品からどうしても紹介したい作品をチョイスする「片桐仁のもう1枚」。今回、片桐が選んだのは歌川広重「東海道五十三次之内 原・朝之富士」(1833~1836年)。

広重の富士山愛が溢れ、枠から富士山が飛び出してしまっているこの作品を見た片桐は、「初めて見たんですけど、構図としてはすごくわかりやすい。広重のなかではトリッキーな構図ではないが、富士山が枠から飛び出しちゃって、これはみんなどうしたんでしょうね……」と当時の版元や摺師などの気持ちを慮りつつ、「やっぱりいいですね。絵としてはすごくわかりやすく、いい絵だと思います」と大絶賛。

「浮世絵・江戸絵画名品選 -写楽・北斎から琳派まで-」を満喫した片桐は、館内のカフェへ。そこではなんと酒井抱一「菊小禽図」や鈴木其一「四季花鳥図」をモチーフにした和菓子を提供しています。

早速試食した片桐は「美味しい。繊細で、甘すぎず、きめ細やかな味ですね~」と大満足。

琳派に思いを馳せながら、ほっと一息ついた後はミュージアムショップへ。うちわや和ろうそく、手拭い、さらにはフェイスタオルなどがあるなか、片桐が注目したのは酒井抱一「秋草鶉図」の色紙。「屏風じゃなく、平面で見るとまた印象が変わりますね」と新たな発見に感じ入っていました。

※開館状況は、山種美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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