ローリング・ストーンズ「Midnight Rambler」解説:陰鬱な“ブルース・オペラ”にまつわる裏話

Photo: Ethan Russell, courtesy of ABKCO

イタリアにある美しい町、ポジターノは、作家ジョン・スタインベックにインスピレーションを与えた場所だ。彼はこのように書いている。

「ポジターノは我々の心を強く掴む、まるで夢のような場所だ。そこにいる時は現実の感じがしないのに、去ると手招きするように訴えかけてくるものがある」

またこのアマルフィ海岸沿いの町はザ・ローリング・ストーンズの歴史にも関係がある。1968年にキース・リチャーズとミック・ジャガーが休暇でこの町を訪れているのだ。そしてどういうわけか、この絵画のような、太陽の輝くポジターノで彼らは連続殺人鬼をテーマにした陰鬱な楽曲のひらめきを得た。それが「Midnight rambler… pouncing like a proud black panther / 誇り高い黒豹のように襲い掛かる……真夜中の徘徊者……」と歌われる「Midnight Rambler」だ。

<動画:The Rolling Stones – Midnight Rambler (Official Lyric Video)> 

「Midnight Rambler」が生まれるまで

1995年にミック・ジャガーは当時を振り返ってこう述べている。

「“Midnight Rambler”はキースと俺が文字通り共同で書いた曲だ。俺たちは休暇でイタリアを訪れていたあのすばらしく美しい町、ポジターノで幾晩か過ごしたんだ。俺たちがどうしてあの美しい太陽の町でこんなに暗い曲を書いたのか、さっぱりわからない。けれども“Midnight Rambler”のすべてはあの町で書き上げた。テンポ・チェンジから、何から何までね。あの町にあるカフェで俺はハーモニカを吹き、キースはギターを弾きながら、ふたりであの曲を組み立てていったんだ」

1969年のアルバム『Let It Bleed』でお披露目となったこの曲は、実際に起きたボストン絞殺魔事件の犯人にモチーフを得て書かれている。アルバート・デザルボという名前のその殺人犯は、アメリカのその都市で13人の女性を殺害した。タイトルになった「Midnight Rambler」は、当時の新聞がその犯人についての見出しに使っていたものだ。曲中でミック・ジャガーはそんな巧妙な殺人鬼の人格を演じている。

キース・リチャーズは7分にわたるこの曲を”ブルース・オペラ”と呼び、ミックと彼とのコラボレーションの特異性を強調し「俺たち以外には、誰にもあんな曲は書き得ない」と述べている。

レコーディングの過程

「Midnight Rambler」のレコーディングでプロデューサーを務めたジミー・ミラーは、「Sympathy For The Devil (悪魔を憐れむ歌)」に聴き取れる邪悪なニュアンスと、1960年代初期のストーンズのレパートリーに顕著だったシカゴ・ブルースのスタイルを融合する手助けをした。ミックはハーモニカで力強いリックを演奏し、キースのギターはチャーリー・ワッツのすばらしいドラミングに支えられている。そしてビル・ワイマンが手際よく移り変わるテンポに合わせてベースを奏でている。

また「Midnight Rambler」はブライアン・ジョーンズがローリング・ストーンズのメンバーとしてレコーディングした最後のトラックでもある。ブライアンはコンガを演奏するというかたちでこの曲に貢献したのだ。1960年代初頭にバンドを立ち上げたオリジナル・メンバーのひとりでもあるブライアンは、「Midnight Rambler」のレコーディング・セッションに参加したころには薬物中毒の問題に苦しんでいた。そしてそれから間もない1969年6月にバンドからの脱退を公表。その1ヶ月後には遺体で発見されている。このとき、彼はまだ27歳だった。

その後の「Midnight Rambler」

元々「Midnight Rambler」は、1968年春に『Beggars Banque』の制作のために行われた実りの多いセッションの中でレコーディングされていたが、その完成は結果的に『Let It Bleed』のレコーディング・セッションに持ち越され、その収録曲のひとつとして1969年12月5日にデッカ・レコードよりリリースされている。

『Let It Bleed』のアルバム・ジャケットはグラフィックデザイナーのロバート・ブラウンジョンが制作したが、そこに大きくフィーチャーされていたケーキは若い料理ライター、デリア・スミスが写真撮影のために作ったもので、彼女はストーンズから“とことんけばけばしい装飾が施されたケーキ”を用意するように頼まれていた。後にミックはアルバムを額縁にいれてサインをし、感謝の印に彼女に贈っている。

「Midnight Rambler」はローリング・ストーンズのステージに欠かせない人気曲のひとつとなり、リチャーズは縦横無尽にギター・ソロをかき鳴らしてきた。キースはこう語る。

「この曲を弾くのが好きなんだ。聴衆が一緒に歌い始めようとするその瞬間 ―― あれは本当に感動的だね」

Written By Martin Chilton

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