「共生社会考える契機に」 元千葉知事・堂本さん、著書出版 女子刑務所の実情訴え

「刑務所の実情を通し、共生社会を考える契機に」と語る堂本さん=島原市新湊1丁目、HOTELシーサイド島原

 医療・福祉や司法関係者らでつくる「女子刑務所のあり方研究委員会」委員長で元千葉県知事の堂本暁子さん(89)が著書「声なき女性たちの訴え 女子刑務所からみる日本社会」を出版した。女子刑務所の問題点を提示してきた活動の軌跡をつづり、堂本さんは「社会的課題のるつぼである刑務所の実情を通し、男女共同参画、偏見や差別のない共生社会を考える契機に」と語る。
 堂本さんが女子刑務所を初めて視察したのは2012年9月。高齢や障害のある受刑者が目立ち「まるで福祉施設では」と衝撃を受けた。全国の刑務所に収容された受刑者のうち女性は1割程度。職員も施設数も男性に比べ圧倒的に少ない。どうしても男性中心の運用となり、出産など女性固有の健康問題への配慮に欠けている実情が見えてきた。
 堂本さんは13年、罪を繰り返す「累犯障害者」支援に尽力した社会福祉法人南高愛隣会(諫早市)元理事長の田島良昭さん=8月に76歳で死去=らに呼び掛け、同委員会を発足。当時の法務大臣に、健康問題に配慮し処遇を改善するよう要望や提言を繰り返した。
 これらを踏まえ法務省は14年度、看護師や助産師ら外部の専門職が健康相談や改善指導に当たる「女子施設地域支援モデル事業」を麓(ふもと)刑務所(佐賀県鳥栖市)など3カ所で始めた。事業開始に先立ち、堂本さんらは所在地の知事や関係団体の責任者らに出席を呼び掛け意見交換会を開催。外部との接点に乏しく孤立していた刑務所と地域をつなぐ役割を果たした。
 モデル事業は17年度に地域連携事業となり全国10の女子刑務所で本格実施。委員会と国は二人三脚で、刑務所と地元自治体の協力関係を築いていった。こうした連携の枠組みは、再犯防止の施策を国や自治体の責務と明記した再犯防止推進法の成立(16年)に「先鞭(せんべん)をつけた」と堂本さんは自負する。

「声なき女性たちの訴え 女子刑務所からみる日本社会」

 女性受刑者が問われた罪は窃盗と覚せい剤取締法違反で全体の約8割を占める。背景に成育歴や異性関係の問題などがあり、摂食障害や薬物依存に陥り犯罪に結び付くケースも多いという。
 堂本さんは「生きづらさを抱え、社会で孤立しているケースは少なくない。社会全体で二度と犯罪に向かわせない努力を続けることが、誰にとっても安全で暮らしやすい社会につながると多くの人に認識してもらいたい」と話している。
 同書は、法務省矯正局の元局長、名執雅子さん編著。小学館集英社プロダクション刊。2200円。

 【略歴】どうもと・あきこ 東京出身。東京女子大文学部卒。1959年TBS入社。報道ドキュメンタリー「ベビーホテル・キャンペーン」で日本新聞協会賞など受賞。89年から参院議員2期、2001年から09年まで千葉県知事を2期務めた。国際自然保護連合(IUCN)副会長など歴任。法務省再犯防止推進計画等検討会委員。本年度の安全安心なまちづくり関係功労者内閣総理大臣表彰を受けた。

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