対馬生まれは「特別なこと」 アクセサリー職人、小宮翔さん(34) 流木、ガラス片… 漂着物を生かし作品

漂着物やガンガゼの殻などを生かした作品がずらりと並ぶ工房=対馬市上県町

 四方を海に囲まれた国境離島の長崎県対馬には、流木や金属類、ガラス片などが絶えず漂着する。海岸線を歩いてそれらを拾い、工房でアクセサリーや照明、オブジェに加工していく。「対馬は素材が多すぎて」。そう言って苦笑するが、それもまた楽しみの一つ。自宅脇に設けた8畳ほどの工房には、自身の作品がずらりと並んでいる。
 対馬北西部を流れる佐護川のそばで生まれ育った。日曜大工が趣味の父親の影響か、幼い頃から工作や機械いじりが好きな少年だった。
 小中高と地元の学校に通ったが、漠然と都会への憧れも抱いていた。「田舎過ぎるのが嫌で」。“外の世界”を見るために高校卒業後、福岡市の専門学校に進学。物づくりに携わりたいと考え、卒業後は銀歯など歯科関係の器具を作る歯科技工所に就職した。
 業界は当時、安価で良質な中国産の製品に押され、激戦の時代。大量の発注をこなすため、朝早くから夜遅くまで働いた。人間関係は良好で仕事も好きだったが、身も心もすり減り、疲れていった。「もう限界かも」。2013年春、対馬へ帰った。
 それからは知人の紹介で海水浴場のアルバイトや、漁業の手伝いなどをして生計を立てた。美しい浜、真っ青な海。見慣れたはずの風景が身に染みた。「やっぱりいいな」。つくづく、そう思った。
 気力は十分に回復。再び物づくりの意欲が湧いた。ある時、趣味で作ったアクセサリーを友人にプレゼントすると「また作って」と喜ばれた。作り方を教えるとまた喜ばれた。それがきっかけで15年、歯科技工所での経験を生かし、自宅ガレージで工房をオープン。対馬の自然を生かしたシルバーアクセサリーの製作・販売を始めた。

漂着物や流木などを利用した作品

 19年、地元の一般社団法人「MIT」と連携し、磯焼けの一因に挙げられるウニの一種「ガンガゼ」の殻を有効利用したランプを開発。黒くトゲトゲしいガンガゼの殻を漂白し、美しくおしゃれに仕上げた。「価値のないものにどう価値をつけ、暮らしの中に落とし込むか」。新しいテーマに挑む転機となった。
 漂着物を利用した作品を手掛け、最近はガンガゼランプの作り方を教えるワークショップも開く。島を離れた若者たちが「面白そうなことをやってる大人がいるな」と興味を引かれ、地元に戻りたくなる-そんな存在でありたい。
 自然の中で、物づくりに向き合う日々。青春期に「嫌だ」と感じていた古里への思いが、最近、自分の中でどんどん変化していることに気付く。「対馬に生まれたことは特別。運がいいことです」

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