議員と監督をどう両立? IT活用、チームは“会社”…全国大会へ導いた異色の指導法

北広島市議会議員で北海学園大硬式野球部監督も務める島崎圭介さん【写真:石川加奈子】

チームを会社に例えて運営「学生が主体的に動ける組織を…」

市議会議員になった元甲子園球児の夢が、花開こうとしている。2023年春に北広島市で開業する日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」。立候補当時目標に定めた2軍戦を誘致できる硬式球場は、世界に誇る開閉式屋根を持つ天然芝のボールパークへと変わった。北海学園大硬式野球部の監督も務める島崎圭介さんは、なぜ北広島市議会議員になったのか。議員の仕事と野球の両立はどうしているのか。球界でも異色の二刀流監督に迫る前後編の後編。

北広島市議会で議会運営委員長の要職を務める島崎さんは、グラウンドではチームを会社に例えている。監督である島崎さんは社長で、2人の学生コーチは専務、マネジャーは経理部長といった具合だ。根底にあるのは「監督がいなくても学生が主体的に動ける組織をつくりたい」という思い。役割分担を明確にして責任を持たせる一方、学生にとっては社会を学ぶ場になっている。

議員と監督の“パラレルキャリア”を実行する島崎さんが優先するのは、公職である議員としての仕事だ。年4回の議会に加え、10月の決算審査委員会、2月の予算審査委員会、それぞれ1か月ほど審議時間を要する。ほかにも地域の人たちの声を聞く政務活動のため、日頃から地域の行事に顔を出す。当然毎日練習に出られるわけではなく、試合当日に球場と地元を行ったり来たりすることも珍しくない。全国大会がかかった大一番と議会が重なった場合には「当然、議会優先です」と迷いはない。

付きっきりで指導できない代わりに、データとクラウドを活用して、監督不在でも戦えるよう準備している。データは2019年オフの監督就任と同時に、東京在住のアナリストに依頼。マネジャーが集めた試合のデータを元に、カウント別の球種の割合やバットを振る確率などを洗い出してもらう。リーグ戦前には登録メンバーで組んだLINEグループ内にそれらのデータとアルバム化した相手投手や打者の動画を共有。学生コーチと主将、副主将に有効策を考えさせた後で一緒に戦略を練る。

「データを頭に入れて試合に臨むだけではなくて、今後はそれを練習に落とし込むことも考えています。例えば、うちの選手が1死一塁でエンドランのサインの時にスライダーに手が出ないと分かったら、そのシチュエーションを再現して一、二塁間にゴロを打つ練習を徹底するといった具合に」とより数字に基づいた指導を推進していく。

今年は30年ぶりに全日本大学野球選手権への出場を果たした(左)【写真:本人提供】

目標は全国大会上位「常に全国に行けるようになれば勝てる力がついてくる」

指導スタイルは、札幌日大高監督時代とはガラリと変わった。「あの頃は若かったので、『俺の言う通りやれ』という感じでした。社会経験を積んで50歳になって、33、4歳と同じ失敗をしているようでは、指導者としての資格がないですから」と今は対話を重視する。選手には求めるのは人間性だ。「甘いかもしれないですけど、人としてきちんとできる上で、最終的に勝てればいい。だから、うちはガッツポーズもヤジも禁止です」と笑う。

コーチを引き受けた2012年当時、チームは2部にいてどん底だった。2013年春に1部昇格後も2016年秋、2018年春は最下位で入れ替え戦を経験。長く優勝争いから遠ざかっていたが、島崎さんが監督就任後は昨秋2位、今春優勝、今秋2位と躍進した。

今年は、防御率0.00という自身の完璧な投球でリーグ優勝した1991年春以来30年ぶりに全日本大学選手権出場を果たした。ただ、全国の壁は厚く、初戦で福井工大に7回コールド負け。その試合のビデオは「数え切れないくらい見ている」と言う。「個々の力もそうですが、勝つのが当たり前という意識づけも必要でしょうね。もちろん選手は勝ちたかったでしょうけど、実際は“勝てたらいいな”ぐらいだったと思うので。相手は10年連続出場して1つ2つ勝って当たり前のチーム。余裕があるように感じました。僕らもたくさん優勝して、常に全国に行けるようなチームになりたいです」とさらなるステップアップを思い描く。

スポーツ推薦制度がないため高校時代に実績のある選手を集めることは難しいが、無名だった選手を4年間でじっくり育てる楽しさがある。札幌光星高時代に公式戦出場機会のなかった吉田玲央投手は4年間で球速が136キロから150キロまでアップし、今春三菱重工East入りした。プロ挑戦を後押しした50メートル5秒8の俊足を誇る鈴木大和外野手は、今年の育成ドラフト1位で巨人に入団する。

監督としての目標は、全国大会での上位進出だ。「常に全国大会に行けるようになれば、1つ2つ勝てる力がきっとついてくると思います」と力を込める。札幌学生野球連盟では常任理事を務め、活性化プロジェクトチームの座長も担う。「大学野球に育ててもらったので、恩返しはずっと続けたいと思っています」。政治と野球の二刀流はまだ序章、2つの世界でどん欲に二兎を追い続ける。

〇島崎圭介(しまざき・けいすけ)1971年6月18日、札幌市生まれの50歳。3歳の時に広島町(現北広島市)に移住。北広島広葉中卒業後、北海高、北海学園大、NTT北海道で投手として活躍した。高校3年夏の甲子園、大学2年春の全日本大学選手権、社会人では2度の都市対抗出場を果たした。25歳で現役引退後に教員免許を取得し、札幌日大高の監督として2002年春の甲子園に出場した。政治家として医療の経験を積みたいと考え、2012年に同校を退職し、札幌市内の医療法人に管理職として勤務すると同時に、北海学園大のコーチを引き受けた。2019年オフに監督に就任し、今年の全日本大学選手権で30年ぶりの出場を果たした。北広島市議会議員選挙には2015年4月に初出馬して30人中3番目の得票数で初当選。現在2期目で議会運営委員長を務める。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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