国家の「コメ強制買い上げ」に抵抗する北朝鮮の農民たち

コメを奪おうとする国と、一粒たりとも奪われまいとする農民の間の攻防戦が熾烈になっている。

北朝鮮当局は「愛国米献納」と称して、各地の協同農場の農民に対してコメを売り渡すことを強いているが、農民が独自の策で抗っている。デイリーNK内部情報筋が伝えた。

地方政府の糧政事務所は、各地域の協同農場と農家に対して、年初に国から課されたノルマを超過したコメを売り渡すように要求している。

一部地域の糧政事務所は「愛国農民になるためには、自発的に愛国米を献納しなければならない」「領導業績を立てた機関になるためには、無償に近い安値でコメを献納しなければならない」などと、無茶な要求を突きつけている。同時に農家を捜索し、コメを隠し持っていないかを検査しているとのことだ。

そんな動きを察知した農民は、大慌てで対抗策に出た。コメを市場に売り払っているのだ。

市場の商人は、糧政事務所が提示した値の3倍で買ってくれる。しかも、糧政事務所に売り渡すと、現金はもらえず、肥料、農薬、ビニール膜など現物支給になってしまう。深刻な財政難が関係しているのだろう。

糧政事務所に売り渡したコメの一部は、「国営米屋」である国家食糧販売所を通じて販売されることになっている。当局の目論見は、穀物価格決定権を奪還し、価格を安定させ、国民の支持を取り付けるところにあると見られている。しかし農民に負担を強い、商人の利益を奪う強引な形で行われていることもあってか、あまりうまく行っていないと伝えられている。

現在、市場でのコメ価格は安値で安定しているが、国営米屋で売るためのコメが思ったように集まらないまま、市場でのコメ価格が上昇に転じた場合、当局はより強制力を強めて農民にコメを売らせるのではないかとの見方もなされている。

「国は、(コロナ対策で)国境を封鎖し、住民の経済事情が悪化した状況で、コメ価格まで上昇することを最も恐れている。どんな手段を使っても農民からコメを搾り取ろうとするのは、コメ価格の急上昇を避けるためだ」(情報筋)

非効率な集団農業の改革は徹底されておらず、コロナ鎖国による肥料不足で凶作続きだ。さらに軍や国による収奪が苛烈になる中、食い詰めた農民の一部は、見切りをつけて農村から去っていく。不足する労働力を補うために、退役軍人や都市部の若者を「集団配置」「嘆願事業」と称して送り込むものの、逃亡者が相次ぐ始末だ。北朝鮮の農村の闇は深くなるばかりだ。

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