世界中の人が日本水準の生活をするには地球が何個必要?持続可能な消費と生産を考える

皆さんは、今の暮らしを維持するのに地球が何個必要だと思いますか?世界中の人が日本水準の生活をするには、地球が2.9個も必要とされています。持続可能な「地球1個分の暮らし」を取り戻すには、どうしたらよいのでしょうか?


SDGsの重要指標「エコロジカルフットプリント」

SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とは、持続可能な世界を実現するための2030年までの国際目標です。17のゴール、169のターゲットで構成され、「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」ことをコンセプトにしています。

SDGsでは、ゴール12「つくる責任 つかう責任」において、持続可能な消費と生産のパターンを確保することを掲げています。持続可能な消費と生産が実現できれば、社会構造が持続可能となることから、ゴール12はSDGs成功の要とも言えるでしょう。

冒頭の私たちの暮らしが地球〇個分消費している、という考え方は、エコロジカルフットプリントに基づきます。これは、人間の活動が地球環境にかけている負荷の大きさを測る指標で、人間が使用する資源を再生産、及び廃棄物の浄化に必要な面積を示しています。

フットプリント(直訳すると、足跡)は、エコロジカルフットプリントだけでなく、製品やサービスのライフサイクルを通じた二酸化炭素の排出量を示すカーボンフットプリントや、水の使用量を示すウォーターフットプリントなど、様々な環境負荷量の評価に使用されており、SDGsと関りが深い指標です。

図は、日本のエコロジカルフットプリントを地球の個数ベースで示しています。地球1個分が持続可能な暮らしですが、3個弱という高水準で頭打ちとなっているのがわかります。国別の総量をみると、2017年時点で、中国、米国、インド、ロシアに次ぐ世界5位の水準です。特に、二酸化炭素排出による負荷が全体の7割超を占めており、排出量の多い発電や輸送分野での削減が求められます。

地球1個分の暮らしを実現するためには?

それでは、持続可能な消費と生産を実現するために、SDGsのゴール12ではどのようなターゲットを掲げているのでしょうか。

11のターゲットでは、(12.2)天然資源管理、(12.3)食品ロス、(12.4、5)廃棄物や化学物質の管理と削減、等が掲げられています。加えて、企業に対しては(12.6)持続可能性に関する情報を定期報告書に盛り込むこと、各国に対しては(12.7)持続可能な公共調達の慣行を促進、そして、個人には(12.8)自然と調和したライフスタイルに関する情報と意識を持つ、ことを求めています。

特に、(12.3)食品ロスは、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たり食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる。」と明確な数値目標を持っている重要なターゲットであり、ゴール2「飢餓をゼロに」ともつながっています。

世界では、年間13億トン、人の消費向けに生産された食料の約3分の1が廃棄されています。食料は生産から消費に至るフードサプライチェーン全体を通して廃棄されていますが、新興国では、サプライチェーンの川上、収穫技術や厳しい気候条件での貯蔵等に課題がある一方、先進国は、消費段階において、まだ食用可能なものが廃棄される傾向があります。

前者に関しては、日本が強みを持つスマート農業(情報通信技術を農業に活用)が有効です。農機の自動走行や、センサーやカメラ、クラウドなどを用いた温度、水位、生育データの取得による農業の可視化等を行います。井関農機(6310)やクボタ(6326)のほか、薬剤散布等に用いる農業用ヘリやドローンを手掛けるヤマハ発動機(7272)や本業で培ったセンシング技術を用いた農場を運営するオムロン(6645)などが海外でも実証実験を行っています。

消費段階では、過度な鮮度志向の改善や買い過ぎ防止など、先進国の消費者の意識改革が欠かせません。加えて、企業側も流通時や小売店での在庫管理の効率化が不可欠です。注目される技術が米IBMのブロックチェーン(改ざんが困難な形で取引履歴の記録が可能)を用いたサプライチェーンの管理システムです。米ウォルマートが葉物野菜の取引先にこのシステムへのデータ入力を要請する等、約300社が参加しています。

企業のESG情報開示は基準の統一が進む

投資家にとって重要なターゲットは、(12.6)のSDGsやESG情報の開示です。これまで、開示基準が乱立していましたが、11月、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)において、国際会計基準の策定を担うIFRS財団が、気候変動リスクの統一基準策定を行う新組織の設立を発表しました。

新基準は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に基づき、2022年6月をめどに策定されます。TCFDは、金融安定理事会(主要国の金融当局で構成され、国際的な金融システムの安定を目指す)によって設立され、企業の気候関連の情報開示を推進している機関です。

TCFD設立や今回の開示基準の統一の背景にあるのは、脱炭素の潮流が企業に様々なリスクと機会をもたらし、企業財務にも影響を与えること、さらに、資本市場がリスクを正しく認識できていなければ、金融市場の安定性を損なう可能性があるとの懸念です。TCFDは、これまで開示を推奨する11項目を掲げるも、対応は各企業に委ねてきましたが、今後は開示の基準が統一されることになるでしょう。

一方で、気候変動は新たな事業機会の創出にもつながります。TCFDが開示を推奨しているシナリオ分析(気温の上昇に応じて、複数の戦略を提示)には各社の戦略が示されていますので、ESG投資を行う際には確認してみましょう。

SDGsやESG情報は、黎明期といえますが、今後、財務情報と同等の水準まで、投資家にとっての重要性や情報開示の実効性等が高まっていくことが期待されます。

<文:投資情報部 ストラテジスト 金森睦美>

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